彼らが”友”になったとき

グラスに伸ばしたゼンガーの手をギリアムが制止する。
「ゼンガー大尉、それは酒です」
「む?」
「エルザム大尉がすり替えていました」
睨みつけると笑ってその酒をギリアムに差し出す。
「よくぞ見抜いたギリアム! その慧眼に乾杯!」
「酔っているフリをしても無駄ですよ。あなたがここで一番酒に強いのは皆知っています」
テンペストが頷き、カイがため息をつく。
「ギリアム、残しておくとロクなことにならない」
カーウァイの一声に受け取った酒を煽る。
「……エルザム大尉、ゼンガー大尉を殺すおつもりですか?」
ギリアムが顔をしかめた。かなり強い酒だったらしい。
「ふふふ、止めたいのならお前が飲むことだな」
更に注ぎ足し、テンペストが声を荒らげた。
「俺にも注がせろ!」
「……酔っておられますか?」
真顔で応えたギリアムに更に苛立つ。
「エルザムはゼンガーをダシにしてお前に飲ませたいだけだ! 宴の主賓であるお前にな!」

この宴は、ギリアムが新しい階級章を受け取った祝いだ。
それはギリアム、そして彼ら特殊戦技教導隊の働きが認められた証である。

「成程、合点がいった」
目を丸くしているギリアムに対し、ゼンガーはその手を取る。
「……ギリアム、俺は今からこの酒を飲む」
混乱が深まる。
ギリアムの眼が見抜いたのはゼンガーが間違いなく本気であることで、だが――もしくは故に、ゼンガーの意図が読めない。
「覚悟なき者にこの俺は止められぬ。敬語をやめて正面から来い」
「ゼンガー大尉!?」
「階級呼びもだ。言っておくが俺は酔ってはいない。故に酒の席での無礼講で済ませる気はないぞ」
「しかし」
「最早問答無用!」
強引に奪いとった酒を煽り、そして、テーブルに突っ伏した。
「ゼンガー!」
「ふふ、聞こえていないぞ、ギリアム。起きてから存分に呼んでやれ」
手当をしながらエルザムが笑った。
「ついでに私のことも呼び捨てにしてもらえるとありがたいな」
「……エルザム」
「そう。お前も今日から大尉だ、堅苦しいことはやめよう、我が友よ」
「…………下らん茶番だ」
テンペストが毒吐く。
「ギリアムの誉れの席だと言うのに、台無しにする気か。それが友のやることなのか?」
「よせ、テンペスト。お前なりに気遣っているのはわかるが、それこそ台無しだ」
カイがたしなめて、カーウァイが頷く。
「本当は加わりたいんじゃないか?テンペスト」
「ご冗談を。自分はこんな茶番に……友情ごっこに付き合うつもりなどありません」
カーウァイのグラスに酒を注ぎながら、テンペストはギリアムたちを見遣った。
「友、か……俺をそう言ってくれるのか?」
「今からそうなるのではない。お前は元々我らの仲間であり友だった。妙な遠慮をしていたようだが、それも今日からはやめよう」
エルザムは微笑み、ギリアムは涙を流した。
「泣くほど嬉しかったのか?」
「ち、違う、俺は泣き上戸で……そうか、友と呼ぶか、この俺を……」
涙を拭き、ギリアムはようやく宴が始まった時、いや、それ以上の笑顔になった。
「よろしく……」

*******************

ゼンガーがテーブルに突っ伏した。
「たった数滴のブランデーでこれか」
「読み通りだな」
「……お前ら、奴をからかうのはよせ」
あの日から彼らの関係は変わった。
そこでわかったのは、生真面目と思われていたギリアムはかなり茶目っ気のある人物だということだった。
それでも尚ギリアムは隠し事をしていたようだが、それもインスペクター事変の中で明かした。
ギリアムは笑う。
彼らの絆であるゲシュペンストで戦う。

――これでいいんだよな?

遠い友に届かぬ問いを投げ掛けながら、ギリアムは今日も“生きて”いる。

 

スパロボワンライ。精神コマンド月間でお題は『友情』
設定によると教導隊発足時はギリアムだけ中尉だったので、敬語使っていた時期があったんだろうなーとずっと思っていました。
でもなかなか書けなかったのですが、お題見て挑戦してみたら意外といけてしまったというw
書くまでが長いのよね私

 

テキストのコピーはできません。