『幸運』持ちではないけど『幸せ』ではある2人

着任祝いに、とサングラスを贈られた。
「君も大尉だからな。これを掛けるのがお約束というものだ」
「どこのお約束なの?あなたが大尉の頃こういうものを掛けていたとか?」
「俺にはこれがあるからな」
己の前髪をかきあげて彼は笑う。少しだけ覗いた右目が表情に不似合いな強い眼光を放っていた。
彼女にはそれが少し恐ろしくもあり、彼にもその感情は伝わっていたようで、髪を元の様に垂らして笑みを強くする。
「これはなかなか便利だよ。視線を隠すことが出来る――余所見をしても平気だ」
「私には見つめていたい人なんていない」
「視線の先は生きている人間には限らないさ」
彼女は応えない。それが答えだ。彼は右目を隠したまま彼女にサングラスを渡した。
「己を偽り他人を欺く。その暗示とでも思っておけばいいさ」
ダブルスパイだったという事実を、イングラムとの関係を隠し、彼女はSRXチームの隊長になる。そのための着任祝いというわけだ。
サングラスを掛けて彼に問う――あなたも自分を偽っているのか、と。
「嘘から出た真、というべきかな。俺は――今のギリアム・イェーガーはその偽りがあってこその人間だ」
柔らかく笑いそして囁く。大事に使って欲しい、と。

彼と出会えたのは“幸運”だったと思うべきなのだろう。
イングラムの遺志を継ぎ、SRXチームを導くという目的のために、彼の協力は必要だった。
そしてそれとは別に、彼と出会えて“幸せ”だと感じる。
彼に、惹かれている。彼を愛している。
エクセレンの奪還パーティーの時、彼がよくいる壁際で、彼と楽しく話した。
サングラスのおかげで、その潤んだ瞳は見られずに済んだ――はずだ。

しかし思い知る。
彼女は間違いなく幸運で幸せだった。
だが、己を偽るあまり、サングラスを通してしか世界を見ないあまり、大事なことが見えてなかったのではないか。
システムXNを葬って戻ってきた彼の笑顔は、彼女が見たことのない、涙がこぼれ落ちる満面の笑みだった。
――あなたはこれで良かったの?
そう聞くことは出来なかった。聞く資格がない気がした。ただサングラスを外し、彼に掛けてあげた。
「涙隠しにはなるでしょう?」
「ありがとう、ヴィレッタ」
戸惑う表情を、目の前の世界を見ていない眼を、黒の先に隠した。
「俺は、君に出会えて幸せだよ」
その真偽は窺えず、窺いたいとも思えなかった。
「流れ着いたのがこの世界で、良かった。俺は幸運だ」
彼女に出来たのは、彼を肯定する抱擁を与え続けることだけだった。

 

スパロボワンライ。精神コマンド月間でお題は『幸運』
アニメヴィレ姉のグラサンはギリアムが贈ったものだと信じてますw
彼クワトロ大尉とお友達だし。
しかし湿っぽい話だのう。

 

テキストのコピーはできません。