普段は食べない人たちも

今日はレーツェルが台所に立つということで、食堂は大賑わいだ。
少しピークタイムを外して行ったが、それでも人でごった返している。
「ヴィレッタ大尉、こっち開いてますよー!」
もっと時間をずらすべきだったか、という思考に割り込んできた声。
――苛烈なクールビューティー。
実態は“意外と親しみやすい”と言われているが、それを知らぬ人間にはそう表される彼女に親しげに話しかける人間は限られている。
たとえば直属の部下であるSRXチーム、たとえば付き合いの長いラーダ、たとえば誰とでも打ち解けるエクセレン、たとえば――
「…………すまない、あなたたちをコードネーム以外で呼ぶ術を知らないの」
「がぁっ!? 俺たちの認識そんな感じ!?」
「所詮僕たち『ギリアム少佐の部下ABC』ですし」
「そもそも顔を認識されているかも怪しいぞ」
「いや、姓も階級も知ってはいるが公に呼んでいいものか」
分類としてはエクセレンと同じく誰とでも打ち解けようとする人間、になるのだろう。
彼らは情報部の所属であり正式には鋼龍戦隊の者ではないが、直属の上官であるギリアムと同様に出入りしていることが多い。
情報部の中でもギリアムが特別に信頼を置いている選りすぐりのエージェントである。
普段の言動からはそんな様子は見られない――特に先程ヴィレッタを呼んだ者は――が、そのあたりもエクセレンに近いのだろう。
「姓と階級に問題があるなら! フランクに『光次郎』と呼んで下さい!」
「光次郎、そこまでにしろ」
盆を抱えたギリアムが呆れ顔で現れた。
彼もヴィレッタに親しげに話しかける人間の一人で、彼女と同じく取り付きの悪い印象の割に親しみの持ちやすい人柄だと言われている。
「済まないな、ヴィレッタ。部下が迷惑を掛けた」
「いえ、折角場所を取って貰ったのだからご一緒させてもらうわ」
困惑していたヴィレッタの表情にようやく花が咲く。
それがまた困惑に変わるのに、時間はかからない。
「多いだろう? レーツェルがわざわざ盛ってくれたんだ」
察したギリアムもまた困惑で応える。
「少佐や怜次はもうちょっと食べた方がいいと思うんですけどね」
「お前は食べ過ぎだ」
「壇さん、光次郎さん、また脱線しています」
口を開き出すと止まらない彼らは悪い言い方をすれば騒がしく、表現を変えれば見てて飽きない。
「私も盛ってもらうわね」

割烹着にゴーグルがここまで合うものとは誰も思わないだろう。レーツェルさんと
それを着こなすのがこの男の人柄の為せる技である。
「大尉は少なめが好みだったかな?」
「ええ。でも今は大盛りで」
「ほう……?」
「一人だけ先に食べ終わっても気まずいでしょう」
ゴーグルの奥で眼が光るのがわかる。
「ふ、そこまでギリアムと一緒にいたいかね?」
「想像はご自由に」
「ならば自由にさせてもらうが、ギリアムとの交際を望むならばまず私を倒し」
「早く盛って」
――悪い人間ではないのだが悪乗りがすぎる所がある。
大盛りの盆を手にギリアムの向かいに座る。
隣では例によって光次郎が騒いでいるのでロマンスもときめきもあったものではないのは、レーツェルもわかっているだろうに。
「ヴィレッタ大尉も大盛りですか! レーツェルさんの料理うまいっすもんね!」
「君も少なめが好きだった気がするが……まったく、あいつは」
「いえ、私が頼んで盛ってもらったのよ」
こうして食事の時間を楽しむのは、代えがたいものがある。
SRXチームであっても、ラーダであっても、エクセレンであっても、彼らであっても。
「アラドたちがたくさん食べているのを見ると真似したくなってね。レーツェルが料理に拘るのもそういうこともあるのでしょう」
「そっかー。なるほど、そういうことかー」
光次郎が何故か感心している。
ギリアムとヴィレッタを見比べながら。
「光次郎、『ヴィレッタ大尉、俺沢山食べてますよー』って言わないのか?」
「いやいや言わないです! 畏れ多い!」
慌て出す部下を置いて箸の動きを早めるギリアムに気付いたのは――――

「壇さん、大尉嬉しそうですね」
「箸の動きが止まるほどにな。少佐もこういう時はわかりやすい……」

――――勿論、彼女だけではなかった。

 

スパロボワンライ用SS。お題は『いっぱい食べる君が好き』でした。
アラドとかアイビスとかがベタなところなんですが捻くれてるのでw
最近情報部の面々が自重していない気が……前から?

 

テキストのコピーはできません。