エンキョリレンアイ

ようやく1人になれる時間が出来てDコンを取り出して、ふと我に返った。
連絡を取ろうとした相手はヴィレッタだが、鋼龍戦隊の置かれた状況が思わしくないことは他でもなく先程までしていたGS絡みの任務その他で嫌というほど知っている。
仕事やそれを振ってくる上層部への愚痴というのは俺たちの日常会話としてはよくあることだが、久方振りの連絡でそれはどうかという良識があった。
ヴィレッタもそこでアーマラ・バートンという敵対存在に心を乱されている。
話題が必要だ。気を紛らわすような面白みのある話で彼女が知らないようなもの。
――――無理だな。楽しい人間に混じるのは好きだが、正直ネタ切れだ。
全体の心身のケアと自身の趣味を兼ねて食事会を行えるレーツェルが羨ましかった。

その時、コールが鳴った。

「どうした、ヴィレッタ」
『世間話でも、と思って。お時間を戴いてもいいかしら、ギリアム少佐』
「勿論だ」
救いの神はやはり彼女だった。
『ふふ、そうよね。ワンコールどころか即時応答、あなたには珍しいと思ったもの』
「タイミングが良すぎて少しばかり恐ろしいな。君の勘は頼りになるが、何もかも見透かされていそうだ」
『実際に聞こえてくるのよね、あなたが大変だという話は。ちなみに今思い浮かべた部下は違うわよ』
「やりづらいな、本当に見透かされている」
この時間を求めていたのだが、思った以上に筒抜けのようだ。
『あなたが思っている以上に、あなたのことを好きな人は多いわよ』
「それはそうなのだろうな。だが巻き込みたくはない」
『そう言ってどうなったかの証人喚問、オススメはカイ少佐だけれど誰を指定するのかしら』
「リュウセイとライの見解に興味がある」
息抜きが比較的新しい部類の古傷ということに疑問を抱かなくもないが、こう言って冗談めかせる程度にはなっている。
「ところでヴィレッタ、そんな恐ろしい話題より……そうだな。見えない未来だが、わかる時が恐ろしくも楽しみな話でもしようか」
『あら、何かしら。あなたにも見えない未来なんて興味深いわね』
――よし、興味を引くことに成功した。
退かれる方の“ひく”でない方を祈るしかない。分の悪い賭けは――するつもりはなかったはずなのだが、俺もすっかり鋼龍戦隊に染まっている。
「俺のことをギリアム、と呼び捨てにしてほしいと言ったら君はどう思うか」
どうにも重い。
『命令ではなく依頼、ということね?』
「ああ」
力関係、個人的感情の強さが。
『ふふ、何を恐れる必要があるのかしら、ギリアム』
「随分と余裕だな……わかっていた、とでもいうのか?」
『いいえ。でも私からの呼び方が変わったところで今更何かが変わる関係でもないでしょう』
「! それは、そう、だが……」
――――何を恐れている。拒絶か。変化がないことか。
「元々出会った時は私は民間人だったし、その後も階級や出自なんて問わない関係だったはずよ、私たちは。そうでしょう、ギリアム?」
モニター越しのヴィレッタの微笑はこれまでと何ら変わることがなく、それに気付いて恐れから苛立ちに変わる己の感情がまた腹立たしい。
男と女であることに意味はない、とも取れる――実際の所そういった面もある。遺伝子の面では非生産的と言わざるを得ず『ギリアム少佐』という堅苦しい肩書に縛られること以上に性を求められることには辟易している。
「……付け加える。男と女の仲になることを求めている、という意味だと」
ただそれは相手がヴィレッタなら話は違う。心から求めている、その心身を。
『随分お疲れのようね?』
「! 茶化すことでもないだろう。俺は真剣に……!」
『真剣なら尚更通信機越しに言うことではない、ということ。情報部のエリート少佐は女の口説き方も知らないのかしら』
言葉も出ない。ああ、本当に彼女はやりづらくて、話しやすくて、魅力的だ。
『答えはイエス、でも直接会えた時にまた聞かせて。恋人同士のすることの1つや2つを手土産に』
「ありがとう、ヴィレッタ……すまない、初恋の人への告白の仕方までは知らなかったのさ」
『そうそう、その調子。やっぱりあなたは笑っている方が素敵よ』
君の笑顔には敵わない、なんてありきたりの言葉しか出そうになく、それもつまらないので黙って笑った。
『……ずっと好きだったわ、そういった意味で。でも拒絶されるのが怖かった。ありがとう、ギリアム。だから……早く会えるといいわね』
「まったく、だな」
早く安心させてあげたい。今まで――今も心配をかけて、そして待たせてしまったから。
今は見えない、その身を抱きしめる時が、楽しみだ。
「こちらのことは心配しないでくれ。お偉いさんたちとのやりとりは面倒だが、身の危険はない。ただ、今回の敵はどうも嫌な予感がする。くれぐれも気をつけてくれ」
『ええ、あなたが早く来てくれるとありがたいわ。フフッ、またね』
「ああ、また」
通信が途切れる。次は直接、必ず。そう思えば何事も苦ではない。愛しい人が待っていてくれるのだから。

 

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にじおじギリヴィレです。告白話は何本書いてもいいものですね!
結婚しても少佐呼びしてそうなイメージがずっとあったのですが、終盤宇宙ルートで何故か「ギリアム」と呼び捨てにするヴィレッタさんで30分ほど賢者モードになり、そっかープライベートの呼び方が……????(誤植でも深読みしてしまう)
エンディングといいにじおじはあまりの公式最大手ぶりに書けないでいましたが、どうにか納得のいくものがようやく書けました。
呼称萌えなので一人称や二人称変わる話大好きです。そしてギリヴィレに「また」の挨拶させるのが好きです。再会の約束っていいよね!

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