ぬいぐるみの少女がいる世界

初夏の風と心地良い陽気に誘われて、街に出た。積もった仕事が片付いた慰労も当然ながら含まれる。
「あ…………」
公園に差し掛かった時、ギリアムが嘆息と共に目を丸くした。視線の先には幼稚園児ほどの少女がいて、くまのぬいぐるみとままごとをしている。少し距離を置いて見守る両親らしき若い男女は幸福感に溢れており、釣られて視線を移したヴィレッタも思わず微笑んだ。
「……ギリアム?」
しかし長くは続かない。この日常に似合わぬ動揺が伝わり、そもそも彼が取り乱すという異常事態がヴィレッタを強張らせる。
「ああ、いや、何でもない。君とああいう夫婦になれたら、と思っただけさ」
急ごしらえであることが露骨な口説き文句はその眼と同様に虚ろで、ただその対処法は心得ている――――唇を強引に重ね、眼を合わせた。
「そんな未来より今の私を見て」
「……フッ、ある程度本気だったのだがそんな未来呼ばわりか」
不敵な笑みは常時の彼のもので、宿った光は柔らかかった。
「いつか話す。そうだな、俺と君が親になって、子供があれくらいになったら」
「本気、みたいね。いつになるかは気の遠い話だけれど」
「いや、実際いいアイデアだと思ってな。大丈夫、平和が訪れるのも種族差の解決も、そう遠くない話さ」
――――全ての始まりとなった少女の話を、あの世界が確かにどこかにあるという記憶を、遠い巡り逢いの果てに話せたのなら。
「……何だ、その疑いの眼は」
「未来のことはともかく、他の女性のことを考えていたでしょう?」
「誤解だ。君の勘は認めるが著しく誤解している」
慌てるギリアムにヴィレッタは笑う――――過去に囚われ未来に縛られ動揺するより、今の私と踊って頂戴。

 

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こどもの日なのでギリヴィレがぬいぐるみの少女とニアミスする話です。
この2人に子供出来るのかは不明ですがギリアムさんが言うのなら出来ます(確信)
ギリアムさんの過去に置く感情に嫉妬するヴィレッタさんが書いてみたかったり。
タイトルはOGINのギリアムの台詞から。伏せてる訳なのですが彼の後悔や動機が痛烈に表れた一発でわかる明瞭な表記であり、彼らしい台詞であり、こういう小説の解釈ならOG世界に流れ着いた原因の1つにならないかなー、とタイトルにしました

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