輪廻の庭

荒れに荒れた庭に通され、ジンは唖然とした。
「ディラン博士、これは……」
「アユルにこの庭の世話を任せたの。あなたの傷が完治するにはまだ時間がかかるわ。それまで庭の手入れでもしてのんびりなさい」
アユルは俯いて赤面している。
彼女と知り合って間もないが、内気な少女だというのはよくわかる。
ただ、それでも細やかな女性であろうと思っていたので、庭の手入れ1つ出来ないというのは意外だ。
「娘の庭をよろしく、スペンサー大尉」

“娘”と比べて“の庭”の発声が弱かったように聞こえたのは、ジンの男としての性だろうか。
ディラン博士が立ち去り、アユルの赤面がますます強くなった。
「芸術的な庭だな。枯山水か?」
「!! そ、そうなんです!」
「……なんてな。枯山水はそういう意味じゃない。確かにこの庭はある意味枯れているが」
一瞬ぱっと花開いたアユルの表情がどんよりと沈んだ。
「…………どこから手をつけていいかわからなくて……花を植えてもすぐ枯れてしまうんです」
「それはそうだろうな。市販の花は生命力が弱い。既に生えている草との競争に負けてしまうんだ」
無造作に草を引き抜き、脇に放っていく。
袋が欲しい所だな、とアユルに頼もうとすると、彼女は涙ぐんでいた。
「な、何故君は泣いているんだ!?」
「私は『命』がよくわかりません……でも、その草も生きているのはわかります……!」
ジンは理解した。
この庭がここまで荒れた理由。アユルという少女の一端。そしてディラン博士が彼に彼女(の庭)を任せた理由。
「アユル……この草はただ死ぬのではない。新しい花に場所を受け渡すんだ。肥料にもなる」
アユルは黙っている。
黙ってジンを見つめている。
「残酷かもしれないが、生きるっていうのはそういうことで、世界はそうやって出来ている」
「……私にはまだ、理解できません。でも」
アユルの白い指先にほぐれた土が付いた。
「スペンサー大尉にだけ、命を背負わせる訳にはいきません」
ジンの心が締まった。
――――俺は、この娘を、アユルを、いや、アユルとともに―――――

 

世界の可能性は無限に広がる枝のようなものだ。
人為的に、或いは無作為に剪定が行われ、枝は1つの始まりへと辿り着く。
落とされた枝に気を払うものはいない。
「だが、落とされた枝があるから残った枝は強く伸びる」
「落とされた枝も土に還りいつかは花となる」
「咲かせようか、アユル」
「ええ、ジン。あなたと共に」
「俺たちの」
「私たちの」
「「始まりのもとで」」

 

Twitterのワンライ企画で書いたもの。お題はズバリ「輪廻」
輪廻といえばUX、という訳でUX初書きです!
アニサヤも大好きですが書きやすいのはジンアユの方だなぁ。

 

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