■日記はここで終わっている

○月△日
久しぶりに、日本に住む両親に会いに行く。
駅までは、リュウの車で送ってもらった。
空港まで送っても良かったのに、と彼は笑う。
――冗談じゃない。
彼の隣にいたら、彼のことしか考えられなくなる。
ただでさえ両親にリュウのことを何と話そうか迷っているというのに。
近況は手紙で伝えているけれど、書くのと口にするのとは違う。
駅で電車を待ちながら、両親とリュウのことばかり考えていた。

○月×日
ニューヨークに帰ってきた。
私は日本の生まれだから、帰ってきたという表現は少し違う気がするのだけれど。
でも、リュウのいるここが、私の帰る場所。
今日は空港まで迎えに来てもらって、彼と話をした。
――次はその人を連れてきてね。
そう言われたことは、秘密だけれど。

☆月◇日
駅のホームで、いくつかの電車を見送った。
両親に手紙で報告した。
――日本に彼を連れて行くことも、結婚式に両親を招くことも、出来なくなったことを。
手紙が届いた途端電話がかかってきて、帰ってくるように言われた。
どこへ帰るのだろう。
リュウはもう、いないのに。
ニューヨークは彼の面影を追いかけすぎる。
日本で抜け殻のように過ごすのも嫌。
そう考えていると、線路に向かって足が自然に動いていたのに気付き、愕然とした。
どうせ命を捨てるなら、別の所で。
そう決めていたのに、私の心の脆さを知る。

そんなに私の心が脆いなら、私は“私”を捨てよう。
日本で生まれたことも。
両親のことも。
ミサキ・ハルカという名前も。
両親に、友人に、リュウに愛された思い出も。
ごめんなさい、父さん、母さん。
ごめんね、リュウ。

電車に乗りこもうとする人を避け、私は逆方向に歩いた。
もう、ここに来ることはない。

私はただの、復讐者だ。

 

Twitterのワンライ企画で書いたもの。お題は「駅のホーム」でした。
NYって多分地下鉄ですよね……駅より空港のが近かったらどうしようw
本編で語られなかった日記にはこういうのもあったんじゃないかなぁと思って書いてみました。

 

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