■いつか本当の花嫁として

俺の幼馴染、メイはポケウッドスターだ。
一緒に旅に出た時はポケウッドの存在すら知らなかったのに、今じゃ大女優。
世間の騒ぎっぷりを気にもとめず、今日もあいつはポケモンと一緒に旅をしている。
「ねぇねぇ、ヒュウ兄、カロスに行ってみたいと思わない?」
「カロス? そういやこないだ女優の何とかって人がイッシュに来てたな。それ目当てか?」
「カルネさんだよ! んー、こないだ共演したし女優としては気になるけど私の目的は別!」
「あー、じゃあ、ポケパルレか? 今のところカロスとホウエン限定のβテスト中らしいからなぁ」
「それとも違うよ。カロスじゃなくてもいい。カントーでも、ジョウトでも、シンオウでも……どこか遠い所へ……」
メイが涙ぐんでいる……って、こいつの涙だと!?
昔から『のんきでこうきしんがつよい』こいつが泣くとか、何があったんだ!?
「ヒュウ兄、私を連れて逃げて!」
ぎゅっと抱きついてきた身体は少し柔らかくて、バトルが強くても女の子なんだなぁと思ってしまう。
「何があったんだよ……聞いてやるから話せよ」
だから釣られて俺も深刻な表情になってしまう。
「私、今度お嫁さんになるんだ」
――――思ったより深刻だ。というか。
「相手誰だよ! 俺は認めねぇ! つかお前昔っからヒュウ兄のお嫁さんになるって」
叫んでしまったあとで顔が真っ赤になった。自分でもわかる。
俺はメイが好きで、メイも俺が好き。
その好きにはライクとかラブとか友情とか幼馴染としての家族愛とか含まれてるけど、それは当然だと思ってた。
「うん、そう言ってくれて嬉しい。私もヒュウ兄のお嫁さんになりたい。それはずっと変わらないよ」
「だったら何で!」
「……相手はポケモンなの。凄く強い力を持った幻のポケモン。逆らったら……」
ここで少し疑問符が出た。
本当なら俺の最強の手持ちを駆使して倒さなくちゃいけないが、これはもしかすると――
「メイ、それってもしかして映画の話じゃないよな?」
「あ、うん。今度撮影する映画の話」
あっさり認めやがったこいつ!
「ポケウッドって役者に凄く脚本とか任されてるから、ヒュウ兄が出てくれると凄く助かるの!」
「理屈はわかるが俺の怒りはこんなもんじゃ収まらねぇぞ!」
「うう、じゃあ監督の指示通りお嫁さんになるしかないのかなぁ。普通にポケモンと人間の愛を描いた作品もいいけどそこで三角関係起きたら凄く人気でそうなのに」
「そこで俺の都合を無視するあたりがお前らしいな! 帰れよ帰れ! 映画でも何でも撮ればいいだろ!」
そう言うとメイは寂しそうに『そらをとぶ』で去っていった。
悪いこと、言っちまったかなぁ。

数日後、ポケウッドにて。
「あ、メイさん! 新人さん主演の映画の敵役やってくれませんか? ほら、メイさんデビューの『リオルガール』のハチクさんみたいに!」
「OK! じゃあ思いっきり……ってヒュウ兄!?」
「新人俳優のヒュウだ……です。メイさんと共演できて光栄です」
謝るに謝れなくて、俺はこうして正式にポケウッドの門を叩くしかなかった。
まあバトルの腕とアドリブ力があれば何とかなるみたいだしな、ここは――アドリブ力には自信ないけど。
例の映画はまだ撮影に入るまで時間がある。
それまでに俺がメイに並ぶポケウッドスターになればいい。
誰にも文句は言わせねぇ。

メイは、俺のもうひとりの、モンスターボールに入らないという意味では唯一の、パートナーになるんだから。

 

ワンライで書きましたヒュウメイ。お題は『花嫁』でした。
幼馴染カプに弱い私としてはヒュウ兄はウニ頭も性格も素晴らしくドハマリしてしまいました。
ポケウッドとヒュウ兄だけでBW2は神ゲーですね!

 

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