隊長業と甘い罠

モニターに向かう。数値の羅列、3人のT-LINKシステムのグラフ、隊員たちの所感、演習の成績、その他諸々。
今日のテストは大規模で、SRX計画の完成形、コードネーム『アルタード』のため改良されたT-LINKシステムと連携する新型エンジンを搭載した特殊なゲシュテルベンでの演習だった。
機体に搭乗していたとはいえ監督だったヴィレッタは隊員たちを労ってゆっくり休むように声をかけ、報告書と戦っていた。
0時を回ったのを確認し、少し目眩がした。ここのところアルタードの件に追われロクに休めていない。
人造人間といっても生理反応は人間とほぼ変わりなく、睡眠不足は集中力と体力に響く。
その時執務室の入口のコールが鳴った。
「ヴィレッタ、俺だ」
「官姓名と要件をお願い出来るかしら」
「この時間だ、軍のやり方に拘る必要はないだろうに意地悪を言わないでくれ。まあいい、ギリアム・イェーガー少佐だ。差し入れと必要であれば手伝いを」
「どうぞ」
ドアのロックを外すと手提げの保温ボックスを片手にギリアムが足音を立てず入ってきた。
この件で彼に応援を頼むとその気になれば中将クラスの命令を引き出してこれる内約を早々に締結してきたらしく、愛機のRVと共に駆けつけた。
データの取りまとめや各所への連絡を頼み今日もあちこちへ飛び回りサポートをしてくれている。
「この珈琲、豆から淹れてくれたものね。ありがとう。それと……パン?」
「アンパンだ。現場にはこれが付き物でな。ちゃんと粒あんだ」
「粒とコシの拘りはないけど」
「情報部にはあるんだ」
口元を歪める。冗談か本当かはわからないが、今日も纏っている軍服の上に黒いコートを羽織った彼の仕事着からすると本当でもおかしくない気がして、ようやくヴィレッタも微笑んだ。
「でも大丈夫よ、もう少しで終わる所。1時間くらい、かしら」
「手伝う。君の力になりたいんだ」
「あら素敵」
軽口を叩き合い文字を打つ。タカタカと軽妙なキーの音はこれまでのこの空間にもあったはずだが、全く違って聞こえた。
途中で口にしたアンパンはコーヒーと意外なほど合って、眠気と疲れを和らげてくれる。
報告書の末文は軍のお決まりの硬い定型文で、いくつかあるものから今回のテストの成功度に準じた無難なものを選んだ。
「これで終わり、と。校正をお願い出来るかしら」
「ああ、任せてくれ」
ボックスに入ったポットから珈琲を継ぎ足し、ひと心地つく。
問題がないことを確認した上でほっとため息をついた。
「ねえ、ギリアム」
「おや、いきなりプライベートか」
「そうよ」
デスクに向かったままのギリアムにすっと近寄り耳元で囁く。
「ご褒美を用意していないとは言わせないわよ」
「俺に対する褒美なら目の前にいるな」
顎を取って唇を重ね、珈琲の苦い味がした。
吐息の湿り気と共に離して、ギリアムは笑う。
「軍服の時は抑えてくれると助かるな。どうにも噂になっているようだ」
「今更だし人のことは言えないわね。あなたが私をずっと呼びつけているからでしょう」
「優秀な人員を必要としているだけさ」
「よく言ったものね」
右眼を隠した髪を指で払い、慌てて閉じたまぶたに口付けをした。
「私に捕まっただけでしょう?」
「……ああ。捕らえられてしまったものは仕方ないな」
その言葉を引き出すと解放し濡れた視線を合わせた。
「ご褒美を頂戴、ギリアム」
「ああ、部屋に行こうか」
笑い合いながら逸る鼓動を抑えた。

 

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109回二代目フリーワンライ『睡眠時間が足りてない』『ハニートラップ』『無難な選択』『過激派の粒あん至上主義』でギリヴィレです。
『ご自由にお持ちください』もありましたが入りませんでした。あと久々なこともあり15分ほどオーバーしました。悔しい。
アルタード、またの名をバンプレイオスは次くらいには出るんでしょうか。隊長としてアレコレに追われてください。
時間軸はMD後ですが元イメージとしてはにじおじの『ギリアム』呼びショックとEDのラブラブっぷりの衝撃からです。
中間が! ない! 書きたいけど書けない!

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