取り零した約束に

朝と夕の祈りは欠かすことがない。
「今日は招待されて映画を見に行ったのさ。ひいおじいさまはこんなカッコいい人じゃなかった、などと言っていた少女……ナンブ、といったかな。どうにも悪癖の方が伝わっているようだ」
一辺の曇りもないよう磨き、花を捧げて、答えのない会話を投げる。ルーティンでありながら常に違う動き。
「君と行けたら良かった」
彼と同様招待され変わらぬ姿のラミアと久しぶりに会い、少しおかしな丁寧語の彼女としばらく話すと、あなたは変わったと憐れみ呟いた。
「変わるはずがない俺に、何でラミアはあんなことを言ったのだろうな」
隠した愛機に改修を繰り返し、闇を払い護るべきものを護る。揺らぐはずのない信念。
「少なくとも他の女の話をして墓守が疎かになるのは許し難いな」
「……なるほど、義兄が来ているのに気付かぬようでは、確かにらしくないかもな」
夕陽で赤く照らされた白い花を捧げ、対照的に黙する。
「たまには休め。墓守なら俺がやる」
「冗談を言うな、イングラム。ヴィレッタに言われたんだ。ずっと傍にいてほしいと」
たとえ、生きた彼女と過ごした暖かな時間よりも、既に冷たい石を前に語る時間の方が長くなっていたとしても。
「……約束したんだ。生きて罪を償うと。彼女の傍にいると」
戦友の天寿を、彼女の早逝を見送り、戻らぬ日の約束と守った世界の輝きだけを糧に生き続ける。
「それともお前が彼女の元へ送ってくれるとでもいうのか、イングラム・プリスケン……!」
変わらぬ容貌に壊れた笑みを宿していたギリアムが、不意に低く睨んだ。
「お前が後を追わぬように気を配れとヴィレッタに頼まれた。知っているだろう、ギリアム・イェーガー」
以前にした私への頼み事に比べれば何でもないでしょう、と小さく白くなった彼女はそれでも笑っていたのだ。
「並行世界の自分に渡すのも少し気に食わないと語っていたことも、お前の方が覚えているはずだ」
「……覚えているさ。故に迎えが来るのを待っている。いつになるかもわからない時を」
その予知能力は都合のいいものではなく、ただ凪の未来を告げる。
「お前がヴィレッタとの約束を忘れるような最低の人間であれば良かった」
「俺もそう思っていた所だ。予防策としてお前を始末するのは悪くない」
「化けて出るぞ、並行世界にな。さて、ヴィレッタ……明日はイングラムとどんな話をしたか、きっと楽しい話が出来るぞ。いい酒もあるしな」
――ギリアムが変わったのは、過去と未来は見ていても現在は抜け落ちているから。
どこまでも交わらない、しかし似た存在の虚ろな笑みに、ふと彼女の涙声が聞こえた気がした。

 

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お題ガチャ『すきな人にあいされるガチャ』より『ギリアムの最後の相手になりたいヴィレッタ、一緒のお墓に入る気しかないギリアム』です。
えーっと、ここからどうしてこうなった?(自問自答)
ギリアムさんの宿命的に『最後の相手になりたい』は結構意味が重たいし(この世界が『最後の旅』であるのは示唆されてますがだってギリアムだぜ?)一緒の墓に入るイコール結婚は私のギリヴィレ的にはアリアリのアリなのですが、お互い人間でなくともどちらが先かはともかく結構な寿命差があるっていうのも私的なギリヴィレへの考え方なのです。
ちなみにラミアはEFやら星間連合やらと忙しく飛び回って彼女は彼女なりに思う所はあれど、親しい人たちの子孫やらと過ごしていると思っています。
で、何故ギリアムさんがそうなれなかったかといえば、無垢寄りのラミアと違って持ち上げて落とされた、多少ボヤはあっても何を相手に戦えばいいのかわからず贖罪の仕方がわからない……あたりの考えです。
3人の関係性に相変わらず夢見すぎですが、流石に既に壊れきっていてイングラムが現れたのは因果律や次元の乱れの予兆調査が本命(『改修を続けた愛機』の今の姿は……ってことですね)ってのは横道に逸れすぎててやめました。
普通にラブコメなギリヴィレは!またちゃんと書きます!

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