変わらない人

「お前は変わらないな」
レーツェルが笑った。友の唐突な言葉に意図を測りかねて、ギリアムは問う。材料を切る手は止めないまま。
「いや、最初は私も驚いた。私がいくら美味い食事の魅力を伝えようとしても、目を離せば味気ない栄養食ばかり食べていたお前が料理を教わりたいなどと」
「必要性は理解していたさ。ただ何を食べるか、という思考の手間に見合わないと考えたからな」
口元を歪めて続きを促す。
「その合理性より感情を優先する……まったく、お前らしい。飲み込みが早いので教え甲斐があるがな」
「お前のおかげだ」
手を止めて向き直る。
「その感情はお前が教えてくれたものだ。心と知識と技能を尽くして、美味しいものを作ってあげたい、という。だから俺は、変わったんだ」
「フッ、そういう所が変わらないというのだ」
呟いて、料理の指導に話題を戻した。

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ギリアムがヴィレッタを食事に誘うことはそう珍しくもない。
珍しいのは、場所が彼の部屋であったこと。
明らかに既製品ではないその食事を見て、まずヴィレッタは疑念を持った。
「レーツェルに吹き込まれたんでしょう? 本当に世話焼きなんだから」
「世話を焼いてもらったのは確かだが、俺が頼んだ」
ギリアムの言葉は意外で、訝しむ。
「君のために店を見繕うのはなかなか楽しいが、たまには別の趣向もいいかと思ってな。俺の手作りだ」
それはなかなか興味深く――嬉しかった。
「レーツェルに教わったなら味は確かね。ありがとう、いただくわ」
彩りも、栄養も、味も、組み合わせも。
よく計算されているのがわかる。
「ごちそうさま。ありがとう、美味しかったわ。何より私のためにここまでしてくれたのが嬉しかった。ふふ、私もレーツェルに教わってあなたにご馳走しようかしら」
「それは」
いいな、と言おうとしたが出なかった。
逡巡する。この感情の正体が掴めず――
「あら、嫉妬?」
――自力ではわからないまま言い当てられた。
「我儘ね。自省の必要があるんじゃないかしら」
「サイカを除けば君以上に一緒にいる女性はいないのだが」
「女性は、ね」
彼女の言わんとする所に後ろめたさがあって表現を選んだことまで、見抜かれた。
ヴィレッタは勝ち誇った笑みを浮かべる。
「正直なんだから。それでよく情報部が務まるわね?」
「単に君の洞察力が高いだけだろう」
「あなたにそこを褒められると嬉しいわね。だから私も料理を教わるわ」
「楽しみにするしかないか」
溜息をついてふと思案する。
「……レーツェルに言われた。俺は変わらないと。だが俺は変わった気がするんだ。君や皆のおかげで」
思わず噴き出す。
「そこで皆って付けてしまうあたりが変わらないのよね。でもそうね。変わった、とも思うわ。きっとそういうものよ、私もそうだから」
「ああ、君はそうだな……俺も同じ、か」
喜びと共に、噛み締めた。

 

平成も終わり、ということでスパロボワンライ&ワンドロ一夜限りの復活! ありがとうございます!
お題フリー、ということで折角だからギリヴィレを書きました(いつものこと)
『再会』をテーマにしようと出したネタがどう考えてもワンライにならなくて、ただギリアムがヴィレッタを幸せにしたいだけの話です。
トロンベ兄様マジ便利キャラ。情報部とどっちが出番多いだろう。

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