『愛』を覚えるには未熟

『俺は、闘う事しかできない不器用な男だ。だから、こんな風にしかいえない。俺は、お前が、お前が、お前が好きだっ!! お前が欲しいっ!!』

流麗な字で書かれたその文章を見て、ヴィレッタは己の好奇心を悔いた。
何故ギリアムが真顔で書いていた手帳に流派東方不敗の継承者の告白が記されているのか。
無論好奇心だけでなく彼に関する情報が手に入れば、と思っていたのだが。
万が一見られても大丈夫なようにか、その手帳には食事のメニューだとか――今日の昼食は日替りA定食だったらしい――あたりさわりのないことしか書かれていなかった。
昨日の謎の文章は『ダイヤモンドより君だ』だった。
『好きになっちゃったんだからあったりまえだろ!』
『僕は、君の……君の落語を聞きたくて、夜も眠れなかったんだあ!』
1日ごとに1つの口説き文句または告白が記されている。
――見てはいけないものを見てしまった、気がする。
手帳にも色々で、1日の励ましとなる言葉を記しているものもある。
ただ、これは明らかにギリアム自身の書いた文字だ。
理由を聞きたいが、それをすると手帳をこっそり見ていたのがバレてしまう。
「もうバレているがな」
壁際に何の気配もなくギリアムが立っていた。
「……いい趣味じゃないわね」
「君の行動もな」
やれやれ、と肩をすくめ手帳を取り返す。
パラリ、と使い込みの割には小気味のいい音が妙に冴え渡った。
食事はレーツェルに言われて記録するようになったという。
「じゃあ口説き文句はジェイコブ中将、ってところかしら?」
「半分は正解だな。俺が諜報員として至らぬ点をいくつか指摘いただいたのだが、そのための自習というところだ」
「じゃあ実践してみる?」
上目遣いで口角を上げる。
その長い髪故か、ギリアムの表情はわかりにくい。しかし感情は伝わる。念動力などなくとも。
「あー、何か一言? それでは……ロストヒーローズ2もよろs」
「そうやって逃げるのは無しよ」
翻した身体を追い腕を掴む。
鼓動が伝わる。
「……君さえ口説くことが出来れば他にかける言葉などいらないさ」
「あら、上出来」
彼を解放しパチパチと手を叩く。
ギリアムは逃げはせず、逆にその手を取って口吻をする。
「出来ればこの先もご教授いただきたいな、ハニートラップの先輩として」
「人聞きの悪いことを言うわね」
下げた頭を撫で、口を近付け囁く。
「私もあなたを落とすくらいしか出来ないの」
「……それが出来れば上出来さ」

 

スパロボワンライ。精神コマンド月間でお題は『愛』
お題がお題なので私にしては珍しく甘ったるい話です(当社比)
手帳の台詞の選択が一番楽しかったかもしれないw

 

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