償いの最終回(ファイナル・エピソード)

始まりがあれば終わりがある。
生があれば死がある。
出会いがあれば別れがある。
これが世の理であり覆すことは出来ない。
いくつの別れを重ねてきたか、その数はとうに数えるのを辞めている。
常人より長い寿命を持ち数多の『極めて近く限りなく遠い世界』を渡る俺にその全てを背負えというのは狂えというのと同義だ。
それに全てを記憶していては次に別の可能性と出会った時にその可能性を否定することに繋がる。
そうして俺は忘却を肯定する。
そうして俺は別れの時に『また』と言う。
それでも俺は忘れたことはない。
生きろというあいつの言葉を。
生きて罪を償えという呪縛に等しいあいつの純粋な願いを。
常に死と隣り合わせの戦場に在りながら死を逃れてきたのは俺の持つ予知能力とその祈りが俺を生かしてきたから。
だから俺は戸惑った。
この世界が平和になった時、俺は世界に必要とされなくなり別れが訪れるのだと当然のように思っていた。
その未来は予知していなかった。
平和な世界で穏便に生きる、などと。
当然の帰結ではある。俺は既に世界を渡る力を捨てたのだから。
そして俺は平和のために戦ってきたのだから。
俺は長く戦いの中に在りすぎた。
そして罪を償うという意識はありつつも何を償えばいいのかわからないほど罪を重ねてきた。
生きている限り俺の贖罪は続く――――どうやって?
その答えを示してくれたのは、やはり仲間という存在だった。
「あなたの一生を掛けて私を幸せにする、というのは?」
俺に『恋』を教えてくれた人。
武器としての性ではなく生命として備えている『愛』を示すための性を教えてくれた人。
ヴィレッタ――――当然のように彼女にも別れを告げるのだと思っていた。
「嫌、だ」
そう答えた時俺は永く無縁だった涙を流していた。
「これ以上別れが辛くなるのは嫌だ。今ならまだ……仲間としてならその痛みには慣れている。これ以上君を好きになったら捨てられなくなる」
「あなたの寿命のことは知っているわ。故に平和になってもそれを穏やかに享受することが出来ないことも。でも、忘れた? 私も普通の人間ではないのよ」
「生ある以上死は訪れる」
「それまでの生を共に過ごすことは出来る。独り人を避けて生きるより、2人の方が楽しそうじゃない? バルシェムの寿命に関するデータはないから何年、っていう保証は出来ないけど」
未来を見ようとした。
だがこの能力はそう都合の良いものではなく人生の指標を教えてくれることはなかった。
「私を、独りにしないで」
決め手となったのは、格好のつかないことに『愛』とか『勇気』ではなく、そんな傷の舐め合いを求める『同情』だった。
そうして俺は彼女の夫になり彼女は『ヴィレッタ・イェーガー』になった。
最初の死亡届を出して戸籍を捏造し直す時に氏名を変えるか尋ねた。
「じゃあ次はあなたが『ギリアム・プリスケン』になってみる?」
彼女は笑った。
多分その時の俺はあからさまに顔を歪めたのだろう。
即座に冗談だと笑い飛ばしこれまで通りの名を続けることを望んだ。
俺も彼女も、生物学的な意味では人間ではない。
だからこそ僅かばかりの望みをかけた。
はぐれ者同士だからこそ、何かの奇跡が起きるのではないかと。
結局それは淡い望みで家族がそれ以上増えることはなかった。
平和は続いた。
小競り合いは無論起きたが、介入を行うことはしなかった。
俺はヴィレッタを。ヴィレッタは俺を。
幸せにするためだけに、生きている。
それに彼らが築いた平和はその程度では崩れないと信じていたから。
予知するまでもなく、知っていたから。
実のところ、俺の予知能力は戦場を離れると共にはたらくことが極度に減っていた。
だから、その瞬間が来るまで気付けなかった。
俺が彼女より先に死ぬなんて。
老いることのない身体。
それでも生ある以上死は必ず訪れる。
身体が言うことを聞かなくなり、思考がだんだん闇に閉ざされていく。
ヴィレッタは笑っていた。
「無理して笑っていないか?」
「わかる? あなたが見えなくなったら思い切り泣こうかなって」
「済まない。君を一生掛けて幸せにすると言ったのに」
「その約束は守っているわよ。今あなたが死を迎えようとする瞬間も、私のために声をかけてくれている」
「君を、独りにしないと言ったのに」
ヴィレッタは笑いながら涙を流していた。
その涙にどうにか指を伸ばした。
彼女は答えない。
「その償いは別の俺がする。また君に逢いにくる。その時は『ギリアム・プリスケン』でも名乗ろうかな」
「いなくなるからって簡単に守れない約束しないで頂戴」
「いや……俺にはそれがわかる」
「あなた、予知能力なくなったって言ってなかった?」
「最近はたらいてなかっただけだ。大丈夫、これは必ずだ」
「……1つだけ訂正。あなたは絶対『ギリアム・イェーガー』で会いに来て」
「そうだな。では、またな、ヴィレッタ」
「またね、ギリアム」
そうやって俺は嘘をつく。
この嘘の償いをするためなら、俺はまた生きることが出来る。
最期の嘘で、最期の約束。
ただ、意識が完全に途絶える瞬間、俺は見た気がした。
俺とヴィレッタが再び巡り逢う、そんな未来を。

 

スパロボワンドロ&ワンライ運営お疲れ様でした&ありがとうございました!
お題特になしということでしたが『最終回』を個人的にお題にしてしまいました。
最初の三行思いついてあとは勢い任せに書いたんですが死ネタになるとはちっとも……いや、ちょっとは思ってたな。
ギリヴィレの終わりはどんな感じだろう、という予てからの妄想が具現化した感じですねー。ワンライという機会に感謝です!

 

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