新たな誓いと気付いた感情

――君は、誰なんだ?

ギリアムの夢に出てくるおぼろげな影。
わかるのは、それが女性であることと、彼女が悲しんでいること、そしてその影に恋をしていることだ。
顔も交わす言葉も知らない。それでも彼は恋慕の情を抱いていた。
理由や過程はない。ただ彼女に恋をするという結論があるだけだ。
予知という能力を持つ彼には、たまにそういうことが起きた。
結果が先にあり、そこから過程を導き出して、自らが起こす行動を決める。
そうして彼は予知を実現、或いは回避していた。
しかしこの事態は流石に未知のもの。
誰とも知らぬ相手にも関わらず、止められずに焦り、身を焦がすようなその感情を制御することが、彼には出来なかった。

――君は誰で、どんな風に話すんだ? 何故君は悲しんでいる?

答えのない問い。
その残響を引きずりながら、現実に帰っていく。
そんな夢が何度も続いた。
しかしある時を境にそれが変わった。
女性の姿がはっきりとわかるようになった。
そして、現実でも彼女に出会った。
女性の名はヴィレッタ・バディムという。
夢でその姿を現したと思えば現実でも現れた彼女に、ギリアムの心は大きく揺れた。

――何故俺がヴィレッタに恋をする?

いつものように過程を探る推論を巡らせようにも、うまくいかない。
ヴィレッタは美しい。それは確かだ。
しかしそれは一因にはなるとしても、大きく恋焦がれるほどのことではない。
確かに、夢と同様悲しみにくれる原因、その陰はあるようだった。
少しでもフォロー出来るよう気を掛けた。
もっとも、それは仲間であれば当然なのだが。
共に戦い気に掛ける中で彼女のことを色々と知った。
イングラムのこと。一種の同類であること。その志。親しくもなった。
しかし、やはりずっと続く恋慕の念を説明するには到らなかった。
恋をしているのは確かなのだ。
笑顔には心を掴まれ、彼女と話したいばかりに情報交換を持ちかける。
しかし、何故仲間に対する信愛でなく、男女間の恋愛感情なのかは“そんな予知をしたから”としか言いようがなかった。
出会う前から好きだった――相手が運命論者でない限り白い目で見られるような台詞。
しかしそうとしか説明が出来ない。
それでも彼は、彼女を愛していた。

戦火の中で彼は決心した。
彼女たちが生きるこの世界にとって最良の選択――彼を含めた異物をまとめて消し去る決心を。
世界の歪みを知りながら、今までそれをしなかったのは、生きて償うという友との約束があったからだ。
しかしこの感情と、今の世界の状況に決着をつけるには、これしかなかった。

結果として、彼の計画は失敗した。
世界の状況は何とかなり、彼は無事に帰還した。
そしてシステムXNを消滅させた彼を迎えたのは、今にも泣きそうなヴィレッタだった。

「どうしてそんな顔をしているんだ、ヴィレッタ」
「わかっていたつもりだった……覚悟も出来ていたつもりだった。でも、駄目だった。あなたがいなくなることを実感した瞬間……怖くて、悲しかった! あなただってこの世界にいていいはずなのに、何であんなことをしたの!?」
「それは……」
彼女の涙を止めようとしたが、言葉がうまく見付からないもどかしさに震える。
そして思い出す。
この恋の始まり、しかし本人が現れてから見なくなった、あの夢。
今の状況にとても似ていた。
あの夢がこの時を予知していたのか、それはもうどうでもいいことだ。
それより言いたいことがある。
「大丈夫、俺はもうどこにもいかない。俺もこの世界で生きていたい……その感情を、もう否定したりしない」
「絶対にあんなことはしないって、約束できる?」
「ああ。思い出したんだ……君たちと出会って。未来に希望を持つことを。誰かを想うことの、嬉しさを……君が好きだ、ヴィレッタ。その想いにかけて誓う」
目を丸くして、数度まばたき。
「……なら何で置いていこうとしたのよ。嘘を言っていないのはわかるけど!」
彼の感情を否定も肯定もしなかったが、涙と裏腹に緩んだ口元が、全てを表していた。
「それが君たちの幸せだと思ったからだ。だが、先程も言ったように自分の感情を否定したりしないようにする。君に夢中だということも」
「少佐……ありがとう。私も……いつの間にか好きになっていたのに、気付いた。だから、少し戸惑うけれど……よろしく」
そして新しい約束を、小指と唇に誓った。

――後悔はしない。不確定な予知をしながら、ずっとそれを回避する方向ではなく、実現する方向に動いていたのだから。
彼女を愛するようになることを、望んでいたのだから。

 

「約束」です。光太郎との約束、ヴィレ姉との約束、そして約束された未来……ってことで。
お題を選んだ時には「守れなかった約束」ってことでVSアポロンをやるつもりでいました。
しかしその後OG2が出て、もう少し前向きな約束にしようかとずっと迷っていましたが、結局これ。
予知能力者ならではの恋というかギリアムならこういう経緯もありかと思ったんですが、いかがでしょうか。
ちなみにギリアムの中の人のキャラソンに「千年の約束」があります。お察し下さい←

 

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