心のあたたかい人

日本の夏は蒸し暑い。
おまけに今2人がいる会議室は今しがた冷房を入れたばかりで、じりじりと汗がにじみ出る。
しかも彼女の隣にいる涼しい顔をした仕事相手の髪型はその暑さを増長させる。
――バリカンか鋏はどこにあったかしら?
しかし彼も内側では焦れていたようで、冷たい物を買ってくると言い出した。
「ちょっと待って少佐。私の分のお金……」
さっさと行こうとする彼の手を思わず掴み、2人の背筋が同時にびくりと震えた。
冷たい。
この夏日の蒸し暑い会議室にはまったく不似合いの冷えた指先。
ヴィレッタはしばらくその手を掴んだままだった。
「……ヴィレッタ?」
「少佐、病気? 冷え性?」
「生憎俺は健康そのものだ」
手が冷たい人は心が温かいのだとラーダが言っていたが、これはその範囲を超えているようにヴィレッタには思えた。
「……君になら言っても大丈夫かな」
ため息をついてヴィレッタの手に更に掌を重ねた。
「…………人間じゃない、とか?」
神妙な顔をするギリアムに対し、ヴィレッタは真っ先にその可能性をつきつけた。
何しろ彼女自身が人造人間である。
そしてギリアムは頷いた。短絡的に言えばそういうことだ。
「代謝が極端に低いんだ。だから身体が熱を最低限にしか発しない。ある程度コントロールは出来るから健康診断は誤魔化せるが」
「……そう」
その言葉は感情がこもらず淡々としていた。
しかしヴィレッタにはわかる。その躊躇いが。
「ところで、あの…………いつまで手を握っているんだ?」
言われて慌てて手を離す。
考え事をしていたせいか、気付かなかった。
離す瞬間のギリアムの手は、ヴィレッタの体温が移ったのか、最初より暖かくなっていた。
「手が冷たいのも、悪いことではないな」
「またそんな冗談を言う」
「本気さ。自分の体が冷たい分、人に触れられた時暖かさを実感しやすいんだ……生きてるんだな、って」
窓の外を見る彼の手を、今度は掬うように手を添えた。
少し冷たいけれど夏だからあまり気にならない。
その手を頬に当て目をつぶった。
「夏は、これくらいの方がいいかもね」
「普通の人間だったら倒れる所だろうが、な。そんなに気持ちいいのか?」
「ええ。冷却機としてはイマイチだけどね」
そして彼を解放し、飲み物とアイスの代金を渡した。
微かに顔を赤らめた彼が出て行く頃には、会議室の冷房も少しは効いてきたようだった。

 

「ギリアムは手が冷たいと思う」から出たこんな話。
焔とのトークで出た話なので甘いです。糖分担当ありがとう!

 

テキストのコピーはできません。