天衣夢包の愛逢道中

月を、眺めていた。
神楽天原の『温泉』は疲れを癒してくれる上に月見酒、花見酒と洒落込めるので人気があるそうだ。
それを貸しきり出来る幸運に感謝する。
輝きながら彼女の宿命を嘲笑うようで憎らしくすら感じることもあったエンドレス・フロンティアの月だが、今はただその輝きすら愛おしい。
桜の花もだ。神楽天原の花は常に咲き常に散っていく。その儚さを神楽天原の者は愛でるという。だがその儚さを彼女の運命と重ね合わせてしまった。
今は、花を愛でる彼女を愛し、故に花も美しく思う。
「ハーケンさん、お背中流しましょうか?」
「おおっといけないな、プリンセス。旅のバウンティ・ハンターの俺をプリンセスがもてなすなんて、見る奴が見ればノーグッドだぜ?」
「月と桜しか見ていませんよ。それとも私では、嫌ですか?」
敵わない。惚れた弱味だ。
潤んだ瞳で見られては、石の床が汚れることになりかねない。視線を反らしつつ理性で本能を抑えた。
「帽子とコートを脱いだハーケンさんも素敵です」
「プリンセスが簪を外した所も見てみたいな」
「あ、そうですね。御風呂なんだから外さないと」
溢れた髪がハーケンの首筋をくすぐる。
――限界だ。
「最近のエンドレスフロンティアはまーた物騒になってきやがったな」
露骨な話題そらしで何とか己を静めようとする。
「ええ。でもハーケンさんなら何とかしてくれるでしょう?」
「世界どうこうってのは俺の性に合わないいのさ。それに何だ、その根拠のない自信は」
「だってハーケンさんだけでなくアシェンさんもいるし、錫華ちゃんも零児さんも小牟さんもいるし、リー艦長や鞠音博士もいるでしょう?」
背中を洗いながら語る内容とは思えないが、そう言われて奮起しないのは男が廃る。
「それにプリンセスもいる。この連携に敵などいないさ」
「ええ、我に敵なし……我らに、でしょうか? それとも我らに断てぬものなし?」
「どれでもいいさ。大事なのは」
胸元をスルーして目を見詰める忍耐が必要な高等技術。
「お前が俺と供に歩んでくれるということなのさ、神夜」
神夜が真っ赤になるが、黙って笑う。裸同然で。
「め、面と向かって言われると恥ずかしさ極まりないです!」
「プリンセス、それは俺の台詞だ。婚前交渉の誘いと取られても仕方ないぜ?」
「婚前交渉……! そ、その、ハーケンさんが良ければ私は……!」
そして面食らう。
これは神夜こそが『我に敵なし』なのでは、と深く感じた。
何故なら、天然に勝てる者はいない。
少なくとも自分には無理だ。
そして自分自身の中にも神夜と結び付きたいという欲望がある。
「OK、プリンセス。部屋でゆっくり話をしようぜ。ここは冷たい風も吹くからな」
取り敢えず結論を先送りにする。
30分後の自分が冷静な判断を出来ているかは、『分の悪い賭け』だ。

 

スパロボワンライ。お題は『我に敵なし』
真っ先に浮かんだのがこのカプ、というか神夜でした。龍虎王のテーマなのにねw
糖度高いですがハー神ならこんくらいやらないと、というか公式最強なのでw

 

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