おめでたい男

宇宙を行くヒリュウ改の暦は地球の標準時刻が適用される。
今日は12月31日、年の瀬である。
特に警戒する事案もなくパイロットたちはそれぞれ休息を取っていた。
タスクの部屋のチャイムが鳴る。
出し物の練習をしていたタスクは慌てて小道具を隠し応答する。
『タスク? 出るのが遅くてよ』
「すまねぇ、レオナ! お前だってわかってたらもっと急いだんだけどよ!」
扉を開き恋人を出迎える。
「大道芸の練習? 相変わらずこういうことにだけ真面目なんだから」
「え!? そ、そんなことはないぜ。そっちにだけは俺だって『天才』なんだからよ」
「ベッドの下から傘がはみ出していてよ」
「だああぁぁっ!?」
赤面し顔を背ける。
タスクは努力家だ。ただ努力をしている所を知られたくない一面もある。
レオナは勿論日々整備のマニュアルを読み込み手品の新しいネタを練習するタスクを知っているが、案外本人は知られていないつもりだったのかもしれない。
「バーッとやって驚かせたかったのに、地道に練習してる所見られるなんてよ……」
「努力するポイントを間違えているのはともかく、私はあなたのそういうところす……嫌いじゃなくてよ」
「レオナちゃん、今好きって言いかけてくれた!?」
「き、聞き違いでしょう!?」
部屋の入り口で問答する。
通りがかった下士官が無言でルートを変えたことなど2人が知る由もない。
「そ、そんなことより! そろそろ年越しよ。折角だからあなたと過ごすのもやぶさかではないかと……す、少し思ったのよ」
「オクト小隊の年越し馬鹿騒ぎ、もといミーティングは?」
「カチーナ中尉はさっきまでトレーニングをしていて、民放の年末特番を見ながらお風呂で汗を流すって。ラッセル少尉は中尉がそれなら騒ぐタイプでもないから」
全体の意志がそうなら、レオナの提案を断る道理もない。
展望室に行き地球を眺める。いつ見ても母星は、そしてレオナは美しい。
他愛のない話をしながら年越しを待つ。
そして、時報と艦長挨拶が流れた。
「ハッピーニューイヤー、レオナ」
「あけましておめでとう、タスク……そして」
小袋を握らされ、頬に柔らかいものが触れる。
「誕生日、おめでとう」
暫し気を失っていたらしい。気付くと天井を見上げレオナが覗き込んでいた。
「……レオナのデレ、すっげー威力……」
「タスク!? 大丈夫なの!? もう、あなたのことだから喜んで駆け回って調子に乗るかと思ったのに卒倒するなんて、そんなに私があなたの誕生日を祝うのが意外!?」
怒りと照れで真っ赤になったレオナの頭を撫でながら身を起こす。
「意外じゃねえし期待もしてたけどよ……いざ来ると幸せすぎてさ。も、もう一回いいかな?」
「調子に乗らないで頂戴! どれだけ勇気が要ったと思ってるの!?」
「じゃあさ」
レオナを引き寄せて抱き締める。
「こうする権利くらいは貰っていいよな?」
「……ええ。誕生日おめでとう、タスク。生まれてきてくれてありがとう、私の大切な人……」
力を緩め口付けをしても拒むことはなく。
ただ、2人とも真っ赤なことに変わりはなかった。

 

明けましておめでとうございます、と言えば元日生まれの男! タスク・シングウジ!!
題名の「おめでたい男」は色々な意味が含まれていますが褒めていますw
私のタスクはレオナちゃんの愛情を求めてる割にいざデレられるとショートするドMです←
タスレオはこっ恥ずかしいの堂々書けるのでいいですね!

 

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