■冬祭りの使者

「またすり抜けかあああぁぁぁぁ!!」
ヴァイス・ブレイブの城に召喚師の悲鳴が響く。
いつものことなのでアルフォンスもシャロンも英雄たちも最早気にしていない。
「でも特に今回は難航してるっぽい? 誰をそんなに召喚したいんだろ」
「ほら、アレですよ。こないだ会った冬祭りの格好したリズさんやクロム様たちです」
オーディンとリズが広間の隅で話し込んでいる。
召喚以来有事の際に真っ先に駆り出される部隊の仲間ということですっかり打ち解けていた。
「あのわたしかぁ! いいよね、あの服! きらーんとしてて! わたしも着てみたかったなぁ」
「バトルシスター一直線って感じでハンドベルが様になってましたね。あ、そうだ、リズさんにこれを」
「木箱?……あ、オルゴールか! いい音色だね! しかもこれ手作りじゃない?」
「音を鳴らす部品だけはあの異界で買いましたが、まあ箱とかは俺の手作りですね。どうか遠慮なさらず。冬祭りなんで色々な人にプレゼントを用意してるんです」
しばらくオルゴールに耳を傾ける。
音色に合わせてリズが歌を口ずさんだ。
「子は眠る、母に抱かれて。母は歌う、父に見守られて。ナーガの祝福は全ての民に……ちゃんとイーリスの聖歌だ。よく知ってるね、オーディン」
「え!? あ、まあイーリスの方々ともだいぶ長い付き合いになりましたし……はは」
「そっかぁ。召喚師さんはずっとアレっぽいからこないだの闘技の景品皆に配りに行く? 冬祭りの格好をしなくても冬祭りは出来るよ!」
「そうですね!」
手分けして配り歩く。
配られた英雄も手伝いに加わってくれたので配り終えるのは容易だった。
リズが広間に戻ると既に仕事を終えたらしいオーディンが船を漕いでいた。
随分と不用心だが、オーディンのそういうところをリズは好ましく思っていた。
しかし暖炉がついているとはいえこの広間で椅子寝をしたら風邪をひいてしまうだろう。
起こすための蛙を部屋に取りに戻ろうとしたリズをオーディンの呻き声が呼び止める。
「うっ……ううっ……」
――うなされている。悪戯どころではなさそうだ。
「ううっ……ごめん、母さん……」
そして後悔する。見つけた時にすぐ起こすべきだったと。
「オーディン! 起きて、オーディン!」
揺さぶると夢の世界から帰還する――と思いきや、その眼はまだ虚ろだった。
「母さん! 俺、母さんを守れなかった! 父さんと約束したのに! ごめん、母さん! ごめん……!」
リズを抱きしめポロポロと涙を流す。
いつもの気取った喋りが嘘のように弱々しく。
幼子のように泣きじゃくり、力だけは大人の男性で。
「お、オーディン、痛いよ……起きて。落ち着いて。わたしだよ、リズだよ。嫌な夢を見たんだね? 大丈夫、大丈夫だから……」
「母さん……? あ……わあああ! す、すみません、リズさん! 俺寝ぼけてて!」
泣きはらした顔で慌ててリズを解放する。
「寝ぼけてお母さんとわたしをまちがえたんだね。ふふ、ちょっと嬉しいかな。皆わたしのことちんまいとか子供っぽいとか言うから! ほらほら、もっと甘えていいんだよ?」
距離を取るオーディンを笑顔で手招きする。
「……すみませんがその優しさに甘える訳にはいかないんです。でもありがとうございます、リズさん。俺、部屋に戻りますね」
そそくさと退出する。
独り残されたリズは膨れて呟く。
「演技ぶっ飛んでるしまだ泣いてたじゃない……放っとけないよ」

しかしオーディンを追うことはせず、サーリャの部屋を訪れる。

「きゃは! サーリャ待ってたの!……何でリズなのよ。ルフレが誘われて来るような香を焚いたのに」
「召喚の間と同じ香りだね……召喚師さんにその願掛け教えたのサーリャかぁ。って、そうじゃなくて! 呪術師が貰って嬉しいプレゼントって何? わたしオーディンにプレゼント貰ったのにお返ししてないから!」
「何? 惚気話なんてうんざりよ。冬祭りで浮かれる連中は死ねばいいんだわ」
「ノロケ……ってオーディンだけはない! 確かにカッコいいし守ってあげたいけどそういうんじゃない!」
全力で否定する。一切の照れはない。
確かに仲はいいがそれは兄のクロムと仲がいいようなものだと思っている。
「世界を超えて集う以上そういうのも有り得るのよ。実際あなたとあの男の間には強い繋がりを感じる。でも何かしらね……確かにそういうのじゃなさそうなのよね。で、呪術師が喜ぶもの? 残念だけどあんな三流呪術師の欲しいものなんてわからないわね」
「三流って……サーリャと同じようにブレード魔法使えるじゃない」
「あのニノって娘と同じよ。溢れる魔力を力任せにぶつけているだけ。しかもあの子ほどの魔道の才はない。まして何で呪術師やっているのかわからないくらい憎しみや歪みがない。聖職者の方が余程向いているわ」
褒めていないことだけはわかる。
むしろ苛立ちが伝わってくる。なまじ同じ系統の攻撃魔法を操るだけにオーディンやニノと並べられることへの。
ただ、リズは嬉しかった。オーディンはやはり優しい青年なのだ、と。
何故そんなわかりきったことを改めて明言されただけでこんなに嬉しいのかはわからなかったが。
「そんなこと言わないで何か教えてよ! あの子悪夢見てた。そういうのは治療の杖じゃどうにも出来ないんだから!」
「あの子って彼あなたより年上だと思うのだけど」
「そういう感じなの! 放っとけない感じが!」
サーリャは思慮する。
――面倒だがこれを何とかすればルフレの覚えもいいだろう。
「仕方ないわね……今からあの男に眠りの呪いをかけるわ。あなたの言うとおりならあの男は悪夢にうなされる……この植物を持って枕元で物語を囁けば夢の中身はその通りに書き換わる。呪いというよりおまじないだからあなたにも使えるわ。物語は自分で考えなさい」
植物を手渡すと札を取り出し陣を敷く。
「どうしたの? 早くいかないとそれだけあの男は悪夢にうなされるわよ」
「え? う、うん、わかった! すぐいく! ありがとサーリャ!」
「私のルフレによろしくね……ふふ、ふふふ……!」

サーリャの部屋を飛び出しオーディンの部屋に向かう。
鍵は掛かっていなかった。そうっと開くとベッドからオーディンの呻き声が聞こえてきた。
足を忍ばせて近付き、寝息が変わらないのを確認する。
「物語、物語……よし! オーディンのそばにはお母さんとお父さんがいるよ。2人とも嬉しそうに笑っている。今日は冬祭り。オーディンのためにお母さんとお父さんがプレゼントを用意してくれたんだよ!」
オーディンの寝息が安らかになっていく。効果はてきめんのようだ。
「オーディンを抱きしめてお母さんは歌っている。2人を見つめてお父さんも笑っている。ナーガ様の祝福に守られ……ナーガ様でいいのかな? まあいいや、イーリス教徒じゃなくてもナーガ様は護ってくれるよね! オーディンはいつの間にかすやすや寝ちゃった。それを見てお母さんとお父さんはまた笑った。オーディンが元気でいてくれることが2人の一番の幸せだから。そしてお祈りするんだ。オーディンがいつまでも元気で笑顔でいてくれますようにって」
オーディンの寝息を確かめる。
安らかな寝息をあげる口元には笑みが浮かんでいた。
ただ、そのまなじりに涙が浮かんでいるのを見て心が締め付けられた。
――これは優しいようで残酷なおまじない――いや、間違いなくこれは呪いだ。
オーディンの傷を無理矢理封じ笑顔を強いる呪い。
足早に部屋を出てドアを閉める。
そこでようやく息をつく。
「ごめん、ごめんね、オーディン……わたしひどいね……でも今日くらいはいい夢見て……今日は冬祭りだから……」
ポロポロと涙を流す。
「何でオーディンを置いて死んじゃったんだよ、オーディンのお母さんもお父さんも……オーディン泣いてるじゃない……」
泣きながら廊下を歩く。
――今夜くらいは思い切り泣こう。明日からはまた笑顔で飛び跳ねられるように。

「リズさん! おはようございます! リズさんにこれを!」
翌朝、オーディンは満面の笑みで木彫りのアクセサリーを手渡した。
「ええっ!? 冬祭りのプレゼントは昨日貰ったよ!?」
「その、何というか……昨日両親の夢を見て……リズさんに言われたように母さんに甘えるつもりでリズさんに甘えます! この朝の目覚めは鳥の声が如き爽やかさ、天啓の赴くままにこの造型を作り上げ……」
「……良かった、いつものオーディンだ」
「野郎どもぉ! オーブ回収に行くぞ! 今日こそ召喚だ!」
オーディンの長台詞とリズの呟きは召喚師の叫びにかき消され、そのまま出撃準備に移る。
一面の雪景色。しかし空は高く晴れ、凍気が風で刺してくる。
さて、今日の異界は――――

 

FEHでクリスマスネタ。
クロム以外すり抜け、つかすり抜けどころか☆5が来ない!という大爆死を前に慌てて書けば出る教に縋りました。
ルフレも『ふつうの女の子』サーリャも、そして誰よりもリズが欲しい! 推しのカーチャン最強!
……という想いを込めました。正直書いててしんどかったです。それもこれもウードではなくオーディンで実装されてるせいです。
推しのカーチャンがクリスマス衣装で実装されたというのに何で推しを苦しめているのかといえば爆死のせいです。リズ欲しいです
※追記:これ書いて上げた翌日にクリスマスリズ引けました。書けば出る教は本物ですね……

 

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