もしも願いが叶うなら

今日は流星群の日だという。
天気の予測は晴れ、月もなく絶好の観測日和。
アイビスのテンションが高い。彼女の異名が“銀の流星”だからだろう。
「流星は夜を切り裂いて飛んでいるんだよ!」
季節外れの笹を持ち皆に短冊を配る。
笹には『スイーツ食べ放題!』と書かれた短冊が既にぶら下がっていた。
「折角だから皆で願い事、しよっ!」

『プレミアム超合金完全変形合体バーンブレイド!!』とリュウセイが書いていた。
「それは前発売されてなかったか? 軍の給料は安くはない。無駄遣いしていなければ買えるはずだ」
ライが呆れ顔で『チーム内円満』と書かれた短冊を抱えている。
「リュウも私も無駄遣いはしていない! ただネット通販限定だった上に受付期間が任務で空かなかったんだ!」
「私も、ってマイ……」
「テンバイヤーから買うのはぜってーヤだから! こうして再販を祈る!」
「わ、私も祈るぞリュウ! 二人分の願いを流星に掛けるんだ!」
最早言葉が出なくなっているアヤの肩にヴィレッタが手を置く。
「これ以上手遅れにならないよう祈るんだな」
「もう今更すぎる気がします隊長……隊長は何を? やっぱり愛しのあの人のことですか?」
「さて、誰のことかしらね」
短冊とペンを取り思案する。
とぼけたものの思い浮かぶのはギリアムの顔。彼は今夜の流星群に何を願うのだろうか。
自分の願いを考えるのは、それを聞いてからでも遅くない気がした。
ありもしない呼び出しの用事を告げて、情報部のメンバーが詰めているデータ室に向かった。

「マトモな休暇が欲しい俺たちの元に! 救いの女神が!」
ヴィレッタが訪れた瞬間光次郎が叫んだ。
「短冊にも書いてましたね、光次郎さん。休暇が欲しいって。というわけで絶賛修羅場中ですがもしかして手伝いに来てくれましたか?」
怜次が疲労を隠しきれない微笑でヴィレッタを迎えた。
「そういう怜次先輩もメカいじりする時間が欲しいって書いてましたね。あ、私はヴィレッタ大尉のような有能な諜報員になりたいと書きました!」
「あら嬉しい。でももっと目標を高く持って欲しいわね、サイカ。で、どういう状況かしらこれは」
「どうもこうもうちのボスの厄介事引き受けるクセのせいですよ。しかも当人は現在RVの改良で整備やマオ社と詳細突き詰め中です」
つまり、これはこう答えるしかない状況。
「……手伝わせてもらうわ」
嘘から出た誠、と言えなくもない。

途中でギリアムが戻ってきたがそのせいで増えた仕事がまたあり、効率は上がったが修羅場はなかなか峠を越えなかった。
目処が立つ頃には日付も変わり、流星群の時間も終わっていた。
「短冊、書く暇がなかったな。ヴィレッタもすまない。この埋め合わせは今後していこう」
「いえ、力になれて嬉しいわ」
展望室でコーヒーでも飲もう、と誘う。
残り火があるかもしれないから、と。

「あなたは結局何を願う気だったの?」
コーヒーを口にし、空を映す外壁に反射した彼の姿越しに問う。
「何だろうな。今が充実していて、なかなか思い付かない。君と過ごす時間がもう少し増えると嬉しいかな?」
「また誰にでも言うような歯の浮く台詞」
「本気さ」
横に並ぶ。
高身長からか本人の持つ得体の知れない雰囲気からか威圧感があると言われる彼だが、ヴィレッタはそれを感じなかった。
むしろ暖かく感じる。
「でも私も願いたいわ。あなたがずっと私の隣にいてくれることを」
――たとえそれが絶対叶わない、願ってはならないことだとしても。
その思考は口にしなかった。
口にした瞬間、彼が本当にどこかへ消えてしまいそうな気がしたから。
「……俺の勘が正しければ30秒後に星が流れる。願い事を決めておくんだな」
「ならさっき言ったことを。あなたは?」
「これから先も、君と共に在ることを」
――願いは、そうではない現実の裏返し。
彼の言葉通り流れた星と共に、一滴の雫が瞳から流れた。

 

願い事→流れ星、という訳で流星群。
SB69のウワサノペタルズ(推しバン)の「流星群」に影響を受けたことは否定できない。
何で私のギリヴィレっていつもこんな湿っぽいんでしょうねー。
たまには障害なくたっていいじゃないですか!

 

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