青き絆に感謝を

今日もブルー・スウェアでは戦乙女が話の花を咲かせる。
「だから號はそういうんじゃないって! アイツが勝手に守る守るって言ってるだけで私は別にアイツのことなんか!」
「そうやって真赤になる所がアヤシイのよねー」
ルーがニシシと意地悪な笑みを見せると周囲もそれに同調する。
「それ言うんだったら! ルーはジュドーとどうなのよ!」
「アイツ? プルたちのことはまだ気にしてるけど別にそういう感情じゃないってわかってるし、エルはビーチャの方といい感じだし、ここはお姉さん余裕見せないとねぇ」
「うっ……ミカは!? タケルとはどうなってるの!」
「私と彼そういうのじゃないの。信頼しあっている大切な仲間ってだけよ」
「ジュンと鉄也は!?」
「私もそういうのじゃないわ。パートナーってだけ」
「う、ううっ……」
冷静な彼女たちに対し、渓の冷や汗が勢いを増している。
「で、渓は結局號のことどう思ってるのかなー?」
「こ、こういうことは! 三角関係真っ盛りなミレーヌを問い詰めた方がいいんじゃないかな!?」
「あ、ズルい! 渓も三角関係じゃない!」
「誰とのよ!?」
半分キレた渓の質問に周囲が真顔になった。
「……ねえ、渓。それ本気?」
「何が?」
「自分は三角関係じゃないって思ってる?」
「だって誰と?」
ため息が場を支配した。
渓以外の全員が恰幅と気のいいゲッターチームのメンバーの顔を思い浮かべ同情や哀れみを寄せていた。
「な、何この空気!?」
「さーて、機体の整備でもしよっかなー」
「私もコスモクラッシャー隊の打ち合わせが」
「そういえば私も新曲の練習の時間だったんだ。どうせバサラ来ないけど」
頭に疑問符を浮かべたままの渓とため息をつくジュンだけが残された。
「ジュン、どういうことなのこの状況。助かったといえば助かったけど」
「いえ、私たちが悪かったのよ。気にしないで」
「気になるよ!」

からかいすぎたかな、とジュンは少しばかり悔いていた。
女が集まれば自然とそういう話になるし、渓の反応は初々しくとてもからかいがいがあった。
それは渓も同じく『女』であるという当然の事実に基いているが、よく考えてみればそれは当然ではないのかもしれないと思い当たる。
何の意図があってかは不明だが早乙女博士は己の娘を『元気』という少年として育てていた。
紆余曲折あって彼女は今弁慶の養女・車渓として生きているがインベーダーを相手に戦って生きてきた彼女に『女』の自覚を求めるのは酷であったのかもしれない。

「これからもチームメンバーを大事にね、という結論でいいんじゃないかしら」
「それは当然だけど……何なんだか」
ぶつぶつ言いながら渓も格納庫への通路を進んでいく。
そこには当然號も凱もいるということを前提とした行動だろうと察するが自覚のない彼女にそれを言っても無駄だろう、と感じた。

何よりジュンはそれをからかう気になれなかった。

他のメンバーのように凱が哀れになったというのもあるが、何よりジュンは己を惨めに感じていた。
「そういうのじゃない、パートナーってだけ、か」
独り呟く。
ジュンも幼い頃から戦闘と訓練の中に生きていたが、渓のように『女』の自覚がないわけではなかった。
むしろ性差や役割は十二分にわかっていた。
――偉大な勇者の隣に在るのは、勇ましい戦女神。
そう信じてきたから。
しかしこうも色々な者が集まるブルー・スウェアだと疑問を持ってしまうのだ。
剣鉄也にとっての炎ジュンは、グレートマジンガーに対するビューナスAは、パートナーという『だけ』ですらないのかもしれないと。
ジュンがいくら女を自覚しようと鉄也がジュンを恋愛対象として見てはいないという認識はあった。
凱の微かな想いを察しない渓のように。
だからこそせめて隣で戦えるようにと己を鍛え続けてきた。
ブルー・スウェアの仲間に不満がある訳ではない。
むしろ渓を皆でからかう時のように『女』としての自分を発露出来るのは喜びですらあった。
だが思ってしまった。
『女』としての意識がなかった渓が號の存在でそうなったように、鉄也にも戦士ではなく『男』として『女』を愛する時が来るのかもしれない、と。
そしてその相手は自分ではないかもしれない、と。

「ジュン」

掛けられた声に思考の海から目覚める。
その声は紛れもなく鉄也の声だった。
「グレートの調整にお前の手を借りようと思ったがいないのでな。渓に聞いてここに来た」
號と凱に激を飛ばす渓にジュンの居場所を聞く鉄也の姿が何故かすっとイメージ出来て、くすりと笑った。
「わざわざ探してくれたのね。ありがとう」
その笑いは自然と笑顔として今のジュンを形作る。
――少なくとも今のところは、鉄也は自分を必要としてくれる。
「その、何だ……元気そうだな」
足取り軽く格納庫へ向かうジュンに鉄也が珍しく――そう、ジュンにとっては哀しいことに珍しくだが話しかける。
「渓の話ではお前の、いや、お前だけではないが……まあ様子がおかしかったということだったのでな」
「ふふ、少し悩んでいたけどあなたが来たから吹っ飛んじゃった」
疑問符を浮かべる鉄也の腕を抱く。
「私はあなたをサポートするためにいるから、あなたがいればいつも全力なの」
鉄也の顔を覗こうとは思わなかった。
いつもの鉄面皮だったら、また少し傷ついてしまう。
少しでも照れてくれたなら、とその表情を想像しようとして出来なかった自分にまた笑みを強くする。
「ならば、良かった」
ただ、その声の調子はいつもより柔らかい気がして、ジュンの足取りもまた軽くなった。

 

スパロボワンライお題『グレートマジンガー』からD世界での鉄←ジュン。
D世界のジュンさんは渓のからかい要員で出番多かったので「で、からかっているそっちのお姉さんはどうなんですか!」的な感じで書きやすいです
他にも鉄ジュンが美味しい世界はあるんですが號×渓書ける私得感もあってどうしてもDで書いてしまいますw

 

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