波に浮かぶ恋心

東京の海は、少し泳ぐには向かない。
環境問題が騒がれて旧西暦の時代よりは綺麗になったらしいとはいう。
しかし旅行でしか浅草を離れたことのないショウコにとって、海とはやはり東京の海だった。
「修羅界には海ってあったの?」
「あったぞ。海を縄張りにした奴らがいて、軽い気持ちで出たら痛い目に遭う」
少し予想とは違う、でもだいたい想像通りの答えに期待が膨らむ。
「今停泊している所のすぐそこにレーツェルさんのプライベートビーチがあるんだって。行ってみない?」
「そこに海の修羅……この世界で言うところの海賊はいないのか?」
「いるわけないでしょ。泳ぐかはともかく、見に行ってみようよ!」
半ば強引に連れ出す。
兄のことが頭によぎらないでもなかったが、どうせ口煩くされるだけだと少し反抗期の気分を味わう。
ショウコは反抗期らしい反抗期を経てこなかった。憧れもしなかった。だが、今になって少し同級生たちの気持ちがわかった気がした。

碧に澄み切った海と白い砂浜は、フォルカは勿論ショウコにも新鮮だった。
サンダルのまま足を浸し、指間をくすぐる波に自然と笑みが溢れる。
「ショウコは眩しいな」
「な、何言ってるのいきなり!?」
口説き文句のようなものを真顔で至極感心したかのように言うので、動悸が高くなってしまう。
「いや、水しぶきのせいなのか光の反射のせいなのか、いつもより輝いて見える」
「そ、それは私が楽しんでいるからだよ! ほら、フォルカも一緒に楽しもうよ!」
ぱちゃり、軽めに水を掛けると、戸惑いながら笑っている。
次は水鉄砲――何らかの技で届く前にかき消された。
「何なのそれ!? 反則!」
「いや、無意識の防衛で……すまなかった。次は甘んじて受け止めよう」
「もう……そんなにしょんぼりしないでよ。私もフォルカに楽しんで欲しかっただけなんだから」
少し膨れたくもなるが、フォルカの真面目さに微笑みのほうが強くなる。
「俺が水を被るとショウコは喜ぶのか? ならば今度滝行の姿を」
「そういう意味じゃないからね!?」
そういう修行に興味がないと言ったら嘘になるけれども。
地球を護る一員なのだからそれくらいした方がいいのかと危機感を覚えすらする。
言った当人は怪訝な顔で水際で手遊びしているが。
「私はね、フォルカ」
聴こえるか、聴こえないか、わからない小声で。
修羅の聴力なら聴ける、けれどフォルカの鈍感さでは聴いていないも同然だろう。
「フォルカが色々見て、驚いて、感心して、楽しそうにして、それで地球を知って行ってくれるのが嬉しいんだよ」
そして私のことも――とは、聴いていないだろうとは言え流石に言えない。
波のように揺れる乙女心の奥に、しまいこんだ。

 

スパロボワンライ用SS。お題は『海』でした。
渚のバカップルなジー秋とどっちにしようか迷いましたが、公式が絶対無敵なので他カプに。
フォルショもうちょっと書きたいなぁ

 

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