政の方が得意そうな2人

盆暮れ問わず仕事があるのが、軍隊というもの。
しかし今年は平和で、基地博ではアルトアイゼン・リーゼの展示が人気スポットとなり、兵士たちはオフに近隣の祭りを楽しむことが許されている。
「それで何故君が引率に? SRXチームの彼らも子供ではないだろうに」
夜空を彩った男性用の浴衣を着用したギリアムは、わたあめを味わいヴィレッタに問いかける。
長い髪も後ろで結っており、軍人らしさが感じられない。
それが彼の情報部としての偽装術なのかもしれないが。
「あなたは何故だと思う? 推理力に期待するわ」
一方のヴィレッタは橙色の浴衣を提灯に光らせ笑う。
思案する。わたあめを少しずつ口にしながら。
「まず、その浴衣はアヤの見立てだろう? それを着せるために彼女は君を引率という名目で呼んだ」
「正解。でもそれだけじゃないのよ」
「眉間のシワが取れなくなるのを防ぎたかった」
「わざと的はずれな推理を言ってヒントを引き出そうとしても無理よ」
わたあめを持つ手が止まる。
「お見通しか」
「お互い様にね、と言えるように全部当てて欲しいわね」
今度はわたあめを食べずに持ったまま考えにふける。
「君は引率を交替制にしたいからと俺を呼んだ……俺と祭りに行くためか?」
ヴィレッタが笑う。
「フフッ、それが正解かは想像にお任せするわ。どうも引率対象が騒がしいし」
出店の前でリュウセイとマイが目をきらめかせている。
飴細工のサイバスター。値段もクオリティも出店のものとは思えないものだ。
「すっげー! 食べるの勿体ないけどすげー!」
「店員さん、Rシリーズはないのか!?」
「ほう、お嬢さん着眼点がなかなかツウだね。しかし合体が再現出来るまで無理だ!」
よく見ると出店の主はトウマ・カノウだったが、リュウセイとマイは気付いていない。
トウマが冷や汗をかいているのがわかる。何せマサキとは長く連絡が取れていないから、当日版権の許可も何もあったものではない。
そしてこの技を持っているのがわかったら、次から何を作れと言われるかわかったものではない。
楽しんでくれればそれでいいとは思うが、バイトとしてやっている以上資金にも変えたい。
「食べないなら買っても仕方がないだろう。他に買いたい人の邪魔になる前にここからどきなさい」
「隊長厳しいなぁ。何で引率とか言ってついてくるんだよ……祭り楽しみたいだけなら素直にそうと」
「明日からの特訓メニュー、1.2倍」
「ひぃっ」
トウマの出店から離れようと歩みを進め、振り返るとトウマが感謝を伝えるらしい何かのジェスチャーをしていた。
ギリアムが串刺しのぶどう飴を女性陣に渡し、自分はわたあめを食む。
「そうだ、ギリアム少佐に聞きたいことがあったんだ」
皆マイの言葉に少し驚きを覚えた。
他の人間とも上手くやれるが、基本的に彼女の世界はSRXチームで完結している。
「ギリアム少佐は神話や伝承に詳しいのだろう? この祭りはどういう祭りなんだ?」
「アヤ、任せる」
即答したギリアムに対しアヤが抗議の声を上げる。
「2人そろってそれですか! 仲いいんだなーってある意味では嬉しいですけど!」
「フッ、冗談だ。まあそれはともかく、こういうことはライの方が詳しいんじゃないか?」
傍観していたライが急に話題を振られて一瞬考えこむが、すぐに笑顔になる。
「確かに俺は祖母と義姉の影響で日本文化への興味が深くそういうことも調べています。よし、マイ、質問があったら言って欲しい。リュウセイよりはいい答えが出せるはずだ」
「あ、なんだよー! 俺だって日本生まれの日本育ちだぜ! そりゃコウタとかには祭りとか地元への愛、薄いかもだけど!」
「私もライとリュウには質問したいことがあったのよねー」

少し離れた木の下で、ギリアムとヴィレッタは二人並んでいた。
「お祭り、楽しいわね」
「ああ。お誘いありがとう」
そのまま額にキス。身長差のせいか不意打ちを受けやすい。
キスする部所によって感情が異なるという詩だか何だかがあるようだが、ギリアムは唇を避けているだけだと少し不満に思う。
2人が唇を重ねたことがないわけではないが、ギリアムはヴィレッタにキスされるのを嫌がっている。
所有印を付けられるようで嫌なのか。
――――また遠い世界へ行くつもりなのか。
「ギリアム、私も聞きたいことがあったの」
「花火が始まるので手短にな」
「愛しているって、言って」
沈黙が2人の間を支配した。
「……愛している。そんな陳腐な言葉、いくらでもあげるさ」
「ええ。知っている。愛してくれていること。でもね」
大輪の花火に照らされた彼女は、どこか闇に溶けそうな部分が強くあった。
「お互いこんな因果な身、心残りはナシでいきましょう?」
花火の打ち上げ音が続く。
キスをして、小声で、しかし聴こえるように、彼は一言を告げた。
「ああ……愛している。だがどんな結末でも心残りはナシなんて出来ない……」
大輪の枯れない花が、2人を彩りのある影に変えた。

 

スパロボワンライ用SS。お題は『祭』
ペルQの郷土展の漢祭が真っ先に浮かんで色々な意味で落ち込みましたw
相変わらず私のギリヴィレは方向性が迷子だなぁ。甘くするならしろよー

 

テキストのコピーはできません。