指揮官Lv0

「戦闘指揮官……ですか?」
「はい」
ブリッジに呼び出され出向いてみれば、パイロット総出でお出迎え。
そして戦闘指揮官への任命、である。

「元々当艦ではゼンガー少佐が務めていたのですが……」
「アサルト1はキョウスケが引き継いだんですけど、指揮官はそうもいかないでしょう?」
「自分は情報部からの出向なのですが……」
あまりにもお粗末過ぎる言い逃れ。
これで任を逃れられるとはギリアム本人も欠片たりとも思っていない。

「本来そうでも今はパイロットとして出向していただいておりますからなぁ」
「いつも先頭に立つのに何言ってんだか」
「教導隊の人っすよねぇ」
「階級、実績、共に問題ないわ」
「少佐なら大丈夫です!」
「信用していますから」
「それに他に適任も……」
「全会一致でしたよ、少佐?」

畳み掛けるような言葉の嵐。
――やはり言わない方がよかった。
わかっていても抵抗を試みないのは嫌だという不屈、或いは無謀な闘志、もしくは愚かな心。
やらないわけにはいかないに違いないのに。

「……了解、です」

そして統合軍との遭遇。
「わお、早速って感じ?」
――やるしかない、か。
「私とカチーナとキョウスケが先鋒、残りはそれに続いてくれ。増援が恐らく1時方向から、今いるのと同程度の規模で来る。各自警戒の上攻撃開始。……遅れるなよ!」
「了解」
「へへっ、あたしが切り込みたぁわかってるじゃねぇか少佐殿!!」
3機の幽霊が敵に向かって飛び出していく。

「嫌がっていたわりにはノリノリねぇ」
「それにしても伏兵までわかるなんて、さすが少佐ね」
「でも方向や規模までわかるものでしょうか? それがわかるくらい特殊な配置というわけでもないですし……」
思わず浮かんだ疑問を口にした瞬間、怒声が舞い込んだ。

「戦闘中だ! 口を動かす間にも手を動かせ!!」

低く耳に良く通る叫び。
ギリアムが発したものだと気付くまでの時間は個人差があった。
彼が怒鳴るのは初めてのはずなのに、どこかで聞いたような言葉。
「……隊長の同僚だって、今ものすごく納得できたんですけど」
「同感」
「質問と意見は戦闘終了後に聞く!!」

問答無用、で切り捨てないだけまだいいのだろうか。
……五十歩百歩。
とりあえず、順調に敵軍を撃破しているのは確かなようだ。

「で、本当に来るんだから凄いよなぁ」
「本当、どうしてわかったんですか?」
――――勝つためとはいえ、やはり能力を無闇に使わなければよかった。
しかもそれを堂々と宣言してしまうとは。
ギリアムは頭を抱えていた。
何と言い訳すればいいだろうか。
戦闘となるとついその場の勢いで動いてしまうのは彼の悪い癖だ。
いくら直そうとしても、決して直らない、どうやら生まれついての性格的問題。
冗談めかして言ってしまえばいいかもしれない。本当のことを。
自分は、予知能力者だと。
しかし、それが冗談で受け取られればいい。
しかし、ラーダとヴィレッタがいる限り冗談でなく本当だとわかってしまうに違いない。
色々と理由ありなため、それは少し不味い。少し、むしろとても。

「……トップシークレット、ということで」
「そりゃないっすよ少佐!」
「まあ、いいんじゃないかしら? 直感で言ったんじゃないなら」
ヴィレッタが助け舟を出す。
助け舟は助け舟でも、泥舟だったが。
そのつもりがあるのかないのか、随分皮肉的だ。

「少し援護しにくかったけど、別に少佐がその場の勢いで突撃したわけでもないでしょうし」
「カチーナ中尉やキョウスケならともかく、少佐が突撃趣味っていうのはないんじゃないかしら、お姉様?」
エクセレンは天然だ。それはわかる。
しかしヴィレッタは……わかって言っている。そうに違いない。 ギリアムは考えこんでしまった。
性格的欠陥がバレたところで痛くはない。
この部隊ならむしろそれが愛される――多分。
しかし指揮官でそれは不味いのだ。

だから戦闘指揮官はしたくなかったのだ。
後方指揮はむしろ彼の得意とする所である。
敵の策を暴くのは彼の十八番だったから。
が、前線では彼の先読み・深読みはあまり役に立たない。彼の性格がどうしても邪魔をする。
本来の無鉄砲な性質。突撃狂と貶されたこともある。
どうしても、先に立たずにはいられない。
そしてこの部隊の特性から言って突撃以外に何をしろというのか。

ギリアムは今は敵にまわった友のことを考えていた。
DCの理想の是非はともかく、友がそれを望むなら正々堂々と戦うつもりだった。
しかし、今のこの状況。
DCの目的はこちらに試練を与えること。
となれば、これはギリアムへの試練か。
少しは反省するように、と。
――――そんなはずがあるわけないだろう。だいたいあいつらも似たようなものだ!
段々と苛立ちを覚えてきた。
ゼンガーはギリアムがヒリュウに来ることなど知らなかったに違いないのだ。
エルザムの料理を自分も食べたかったのに、2人だけでよろしく――
――いや、これは私怨だ。
どちらにしろDCの理想にギリアムは賛同しはしない。
それをわかっていて誘いに来なかったのだ。きっと。多分。
ああ、しかし少しだけだが腹が立つ。
きっと、明日になったら忘れているのだろうと思いながらも。

このDC戦争を、ギリアムは何とか戦闘指揮官として乗り切っていった。
問題はなかった。
彼は決して指揮官として無能というわけではなかったから。
嫌がる態度は見せなかった。決して、他人の前では。

「現在、我が隊の戦闘指揮官はキョウスケ・ナンブ中尉が務めているのですが……」
そして、舞台はオペレーションSRWへと移っていく。
「異論はありません。それに、自分は任務の都合上、身軽な方が助かりますから」
ショーンの言葉にギリアムは頷いた。
そう、異論などあるはずもない。
前指揮官のイングラム少佐が裏切ったと聞いて、ギリアムは内心戦々恐々だったのだから。

 

キョウスケ編前半で号令出すのはレフィ艦長だったりキョウスケだったりギリアムだったりなのですが、
やっぱり戦闘指揮官はギリアムだったんだろうな、と。
アポロン総統なのですから指揮官としても有能なはずですが、何せ第4次がアレですので。
OGでも命令はやっぱり「突撃せよ」ばかりでしたし。

 

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