若さのヒケツ

「ほら、こんなのもあるぞ」
「これはまた懐かしいものを……」
談話室の隅で元教導隊の4人が何やらやっている。笑いあって、何かやたらと楽しそうだ。
「何やってるんですか、少佐たち?」
「おう、何、教導隊時代の写真をな」
談話室の他のメンバーも興味を持って集まってくる。
手から手に回される一枚の写真。揃いの軍服で肩を組んでいる6人組。中央の男性以外は皆見覚えがあった。
「わお、カイ少佐もボスもわっか~い!!」
「こうして見るとやっぱりライに似てるよなぁ」
「この人がカーウァイ大佐ですか?」
「なるほど……流石写真からでも何か風格が感じられるなぁ」
艦内は娯楽が少ない故であろうか。
どこから聞きつけたのか、珍しい物が見られると外からも集まってあれやこれやと言っている。

「ところで……」
ガーネットが視線をやった先にはギリアムがいた。
「ん? ああ……」
「確かにね……」
次々と女性陣の視線がギリアムに注がれていく。
「何だ? 君たちは……」
壁を背にし他から隔離された形で囲まれる。
端から見れば羨ましい光景かもしれない。
しかしその中央のギリアムは表面は冷静だったが、正直に言えば怯えていた。
何しろ女性陣には妙な威圧感がある。
「ギリアム少佐って……」
予知能力などなくても感じられそうな、とてつもなく嫌な予感。

「老けてない、ですよね?」

「…………そう、かな?」
「確かにそうかもしれないな」
「エルザムッ!」
ギリアムは叫んでから慌てて口を抑えた。少し情けない声だったかもしれない。
しかし、何ということか。この目をギラつかせた女性陣が見えないのか。
「どれ見ても髪形以外変わってないんですよね」
「この写真で27歳って言っても違和感ないですよ」
――――そこは逆で言うのが優しさじゃないのか!?
昔から老けていたと言われるより、今でも若いと言われる方が、誰だっていいに決まっている。
ギリアムとて例外ではない。
何のために自称27歳で通しているのか。
それより上になるとオッサンと言われる確率が上がる。 しかし下では若造だ。
考えた上でのこの年齢である。
「ねぇ、教えてくださいよ少佐!」
「若さの秘訣を!」
「秘訣と言われても、これは体質的なもので……」
押され気味だが、嘘は言っていない。こんな所で嘘を言ってもしようがないし、彼は嘘が嫌いである。
ただその体質的な問題が、桁外れなだけだ。
「体質!? サギじゃないですか、そんなの」
「サギでも何でも本当なんだからしようがないだろう?」
「そう言われても何か怪しいですよ?」
女性のこの手のものにかける執念は凄まじい。
本当の所を言ったところでそうそう簡単に諦めてくれるはずがない。
そして引かせることが出来るだけの嘘を、彼は知りえない。
更に詰め寄られる。悪意のない相手というものはやりにくい。それが集団なら尚更。
――こういう時に限って、エアロゲイターは休日のようだ。
そしてギリアム以外の男性陣と、そういう事に興味のない女性陣は完全に置き去りである。
「助けるか? ゼンガー」
「よくある光景だが……確かにすこし羽目を外しているな」
「民主主義の悪いところだ」
「お前たち、何をしている! 早く手伝え!!」
その場を収めようとしていたのはカイだけだった。
傍観者の視点になっていたゼンガーとエルザムに怒声を浴びせ、女性陣を掻き分けさせる。

女性陣はカイに軽く説教を受けることになった。
そして当のギリアムはすっかり憔悴して弱々しい笑みを浮かべていた。
「ああ、我が友よ……変わり果てた姿になってしまって」
「縁起でもない言い方をするな」
しかしエルザムにツッコミを入れる気力はあったらしい。
最もこの部隊の人間は、どんな時であろうともボケとツッコミをする気力だけは残しているのだが。
「お前の回避力を発揮できないとは珍しい」
「戦闘中ならともかく、相手はあれだぞ? 情けないのは自覚している……情けなくて涙が出そうだ」
「男たるものその程度で泣くな」
何だかんだと言いつつ、叱咤しながら構っている。
昔からそうだ。
普段は頼りになるだけに、時折情けない一面を見せた、そういう時は余計に構われていた。
「それに結構気にしていることを言われたのでな……痛い所を突かれた、というところだ」
「老けていない、ということが、か?」
「笑うなよ? いや、笑い飛ばしてもらった方がいいかもしれないが……教導隊どころかそれ以前から、外見の変化がない。こうなったら既に怪談の域に達しているだろう?」
「……気付かなかったな」
ゼンガーがあまりにも真面目な声で答えるので、二人は思わず吹き出した。
「だが、そんなものだろう? 少なくとも雰囲気は変わった」
「どういう風に?」
「落ち着きが出た。突撃狂は相変わらずだが」
「そう、か…………?」
二人が言うならそうなのかもしれない。
とてもそうとは、思えなかったけれども。
前向きに考えるのは悪いことではない。
「まあ、我々は外見というものにはあまり頓着しないからな。お前も気にするな」
「「機体色は外見ではないのか?」」
ゼンガーとギリアムが同時に突っ込みを入れた。
エルザムが乗機をどんな機体であろうとも、しかも上や元の持ち主には事後承諾で、彼のパーソナルカラーである黒7赤2黄1にペイントすることは周知の事実である。
「……我がトロンベは例外だ。お前だって漆黒の機体に乗っているだろう?」
「001は元々黒だろう。それにDC戦争時は007-01だったが青のまま、塗ったりはしていない」
「……何の話だお前ら」
今回の説教は短めだったのか、カイが戻ってきた。
短くても濃厚だったらしく、女性陣の気力は50に低下していたが。
「ギリアムは老けないということを気にしていたらしいです」
「ほう……珍しいな。大抵のことはあまり気にしないお前が、か」
そう、普段は気にしていない。
ふとした時に意識してしまい……たまらなく、嫌な気持ちになる。
刻に取り残され、微かな記憶だけしかその中に残らないときのこと。

いつまで、 忘れないでいられるだろうか。
いつか、この記憶も苦痛に変わってしまうのだろうか。
今は良くても――――いずれ同じ刻を歩めなくなる。
そうなったら、本当に、今と同じことを言ってくれるだろうか?

「まあ、18歳にしか見えないならともかくちゃんと27歳で通るのだからいいものだ。希望としてはあと10年くらいはこの年齢で通したいな」
茶化して笑った。
今から気にしても仕方のないことだ。 そんな時まで生きていられるかもわからない。
未来を憂えるよりも、過去に怯えるよりも――今、この時を生きる事を。
「おっさんおっさんと言われる俺を前にしてそれを言うか。――まあいい。ところで女性陣は若さの秘訣については退いてくれたが、シャンプーとリンスと肌の手入れについて教えて欲しいそうだぞ」
「エルザムの方が適任かと思われますが」
「覚悟がいるぞ?」
「何の覚悟だ」
「まあ、女性は美に関してはいつも覚悟を決めているがな」
少なくとも今だけは、同じ刻を歩めるのだから。

 

電視大百科(安売り中)にギリアムが長命人、という表記があり、それを受けて書いたもの。
まあどう考えても 、少なくともFギリアムは27じゃないよなぁ……

 

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