渡せずとも、心は傍に

「ギリアム少佐ならしばらくいませんよ。少佐からのプレゼント、預かっています」
私の目的を瞬時に理解した怜次の無慈悲な一言。
何だか前もこんなことがあった気がする。
「まったく、こういうのは直接渡すもんじゃないでしょうかね。あ、こっちは俺からですっ」
「ここぞとばかりにポイントを稼ぐな、光次郎。ああ、これは私からSRXチームの皆様へと」
「壇さんも負けずにアピールしてますね……」
彼らに用意したプレゼントを渡し礼を言う。
「あれ? 少佐の分は?」
「こういうものは直接渡すものだと思うから」
彼らは合点がいったという風に頷く。
だが私の本心としては、もう渡す気にはなれなかった。

任務であれば不在は仕方ない。
だが腹立たしいこととして、彼はプレゼントを当日に渡す手段を確保しているのに、私には不在を告げなかったのだ。
部下たちに預けた所で彼の手に渡るのはその任務が終わり彼が戻ってきてからだろう。
今年は少し頑張って、手作りの菓子を用意した。
あまり日持ちがするとは思えない。冷蔵保存にも限度がある。
故に、今日食べて欲しかった。
「……別にいいじゃない。こんな行事に乗らなくたって、私がギリアムを愛しているのに変わりはないわ」
わざわざ口に出さなければ不安になってしまう。
悪意があってのことではないだろう。
それだけにぶつける場所がなく、余計に苛立ちが増す。
彼に貰ったぬいぐるみに愚痴でも吐こうかと思ったが、そこまで正気を失う気にもなれない。
――そういえば、あった。彼に貰ったものが、もうひとつ。

「お元気かしら、ギリアム少佐」
世界中を飛び回る彼を随時捕らえることが出来る、特殊回線を用いた端末。
緊急時でもなければ使わないものだが、気軽に使っていいとは言われている。
流石に『大きな耳垢が取れた』くらいだと彼も怒るかもしれないが。
「いつも通りさ、ヴィレッタ。何用かな」
映像は送られてこず、音声のみ。
彼の表情の不器用さだと映像があってもあまり変わりはないが、せめて顔を見せてくれてもいいだろうに。
「用という用ではないけれど、世間一般では恋人の日だから少し甘えてみたかっただけ。ハッピーバレンタイン、ギリアム」
「ああ、ハッピーバレンタイン、ヴィレッタ。直接会えずに済まないな」
「まったくよ。手作りのお菓子を自分で食べることになってしまったわ」
「手作りか。バレンタインの口実なしでも味わってみたいものだな」
軽いやりとり。少し不安がほぐれてきた。
代わりに頭をもたげたのが、疑問。
「今回の用事も大変なの? 中身は勿論言えないでしょうけど、私に手伝えることがあったら言って頂戴」
「用事自体は大したことはないな。もう済んでいる。だが……」
「だが、何?」
「……怪我を負ってしまってな。集中治療中だ」
そういうことか。
あの3人組は無論知っていただろう。
いつも通りの軽口で誤魔化されていた。流石は情報部、彼の部下といったところか。
「それ、私に言って良かったのかしら?」
「不要な疑念を呼ぶよりはいいだろう。退院したら会いに行くよ」
「待てない、って言ったら? 任務ならともかく入院なら場所を突き止めるくらい簡単よ」
「それはそれで嬉しいが、君も責任ある人間だからな。節度を持ってくれると嬉しい」
「……わかっているわ。お大事にね」

通信を終え、ぬいぐるみと向かい合う。
「怪我で済んで、良かったわ」
抱きしめて、彼からのプレゼントと彼のために用意した菓子を開封する。
彼の好みに合わせた菓子は、思った以上に苦い仕上がりだった。

 

スパロボワンライ『バレンタイン』10ウン年もやってると何回目かなあ、ってなるギリヴィレバレンタイン。
ヴィレッタさんのデジャブは去年のワンライですw
情報部の彼らが相変わらず自重しませんね、私の小説は……w

 

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