恋人のいない夜

プレゼントは前日までに用意しておいた。
レオナやカーラに混じってレーツェルの講義を受けてまで手作りをする気にはなれなかった。
レーツェルはやたら世話焼きだからギリアム少佐の好きなお菓子のレシピを手ほどきしてくれるだろう。
だが、それでは駄目なのだ。
レーツェルに教わる限り、手作りに拘る限り、彼の料理を超えるのは不可能だ。
無論少佐なら「君が作ってくれたのが一番さ」と笑うだろう。
その笑顔を誰にでも振りまいているであろうことが、とても寂しい。
少し苦いチョコレートに、ネクタイを添えた。
それで彼を拘束出来る、なんておまじないをしなかった訳でもないけれども。
彼(と情報部の面々)がいつもいる小会議室に行ったが、ギリアム少佐だけが不在だった。
「あ、ギリアム少佐なら急な案件で今日一日いませんよ」
私の目的を瞬時に理解した怜次の無慈悲な一言。
「全く、バレンタインだってのにどこで仕事なんてしてるんでしょうね!」
「光次郎、世間的には逆を言われるものだぞ」
「だってヴィレッタ大尉がわざわざプレゼント用意してくださっているんですよ!?」
彼らに安めのチョコレートを渡して礼を言う。
仕事、か。
彼を責める気にはならない。私も同じ状況なら行事を忘れ任務に身を投じていただろう。
それでも寂しいと、悲しいと思ってしまう。
身勝手な私。よく『クール』だとか言われるが、私だって感情に任せたい時はある。

艦内を行く宛もなく歩いていると、様々なカップルたちを見かける。
「ひゃっほー! レオナのプレゼントだ! じゃあこれをポケットに入れて……」
「随分乱雑ね」
「ポケットを叩けばビスケットが2つ♪っと」
「きゃあっ! 何をするの、タスク!」
「驚きなさんな、レオナちゃん。プレゼントはこちらに無事にあります!」
「え、でも今絶対にポケットに……」
「それではポケットの中身大公開! 俺からレオナちゃんへのプレゼントが増えていましたー!」
手品か……よくやるものだな。
レオナが照れているのか怒っているのかわからない言葉を投げつけているが、あの2人ではよくあることだ。

「お姉さんは手作り頑張ったけど、キョウスケからのプレゼントはないの?」
「プレゼントはないが、お前と飲み明かすための酒は用意したぞ」
「わお、眠らせてくれない予感?」
この2人もいつもどおりだ。

クスハとブリットがどちらがプレゼントを先に渡すかで固まってしまっているのもこの2人なら当然か。
「ユウからは紅茶の葉?」
「お前が淹れてもそこそこの味にはなるような茶を選んだ。茶の入れ方を書いておいたからよく読むといい」
「どれどれ……『カップは暖めろ』『茶葉の量は水の量に対し』……パス! 『お前が淹れてくれたなら不味くても飲んでやるから、挑戦してみて欲しい』『その後俺が本物の紅茶というものを教えてやる』それから……」
「読み上げろとは言っていない!」
真っ赤になったユウキと喜色満面のカーラ。

――――自室に戻ろう。
今日は甘い話題なんて聞きたくない。

ドアには何か小包が立てかけられていた。
差出人は不明だが「Happy Valentine!!」のカードがついていた。
部屋に入って小包を開けた。
地味だが配色と生地が美しいブランケット。
座り仕事が多い私を気遣ってのものとわかる。
「『我が愛しい人、ヴィレッタへ』か……ずるいわね、少佐」
筆跡からしても、何故か同封されていたシ○バニアファミリーからしても、彼の贈り物であるのは明確だ。
自分だけこんな準備をしておいて、私には当日渡す権利をくれないのだ。
勝手な人。でも彼にだけは身勝手になってしまう私にはちょうどいいかもしれない。
怜児は今日一日、と言っていた。
もしかしたら深夜になったら返ってくるのだろうか。
彼の能力ならそれがわかるのだろうが、私にはそんな能力はない。
だから、待つことにしよう。
彼が帰る時をこのブランケットに包まって待って、プレゼントと恨み言の一つでもあげよう。
そして、喜ぼう。
私の愛しい人、ギリアムと、一緒にいられることを。
きっとそれは喜び合いになるはずだ。

恋人のいない夜。
待つというのは、苦しいけれども、とても楽しくて、暖かい。

 

スパロボワンライ用SS。お題は「バレンタイン」でした。
カプ書きとしては何度も通るお題ですが毎回悩みます。
で、悩みながら聞いてた作業用BGMが某SFCのクインテットゲーだったのでそこからひらめきましたw
まああんたのにくだよ、とかシネマに行くってSSにならなかっただけ良いのではないのかとw

 

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