ギリアム少佐は南条光の追っかけのようです

今日の光の営業は新しいCDの手渡し会だ。
「お姉さん、前の握手会に来てくれた人だな! いつも応援してくれてありがとう! おかげでこのCDが出せた!」
20代と思わしき女性に力強く握手をしあらかじめサインを入れたCDを手渡す。
「ありがとう光ちゃん! この日のために投票頑張ったから嬉しい! 宝物にするね!」
手を振りながら指定された順路へ。
次に並んだのは夏にも関わらず黒いロングコートをまとった長髪、しかも前髪まで長く伸ばして顔の右側を隠している男性だ。
「お、お兄さん……また会ったな」
「どうした、南条光。声が震えているぞ。悪の組織のボスにはCDを渡せないかい?」
南条光のファン層は少し特殊だ。
勿論普通に『光のひたむきな姿に惹かれた』『小さくて元気で可愛い』というファンが多いが、南条光が持つ『特撮とヒーローが好き』という特性に同様にそういったものが好きな者が――光に言わせれば尊敬すべき同志――惹かれてくる。
故に凝った設定を付けて光にその設定をアピールし少しでも光に覚えてもらおうとする者も多い。
ただ、この青年だけはそれとは違う。
本当に悪の組織のボスなのかはわからない。光の理性的な部分はむしろそれを否定する。
しかし彼は実際超常的な力を持つ。
その証拠に、隣のブースで同様にCDを渡している日菜子やファンの声が聞こえない。
むこうで並んでいるファンたちのざわめきも。
「まさか! アタシは信じている。お兄さんはそんなことを言っているけど本当は正義のヒーローだって! それにいつも応援ありがとう!」
「ふふ……君は本当に真っ直ぐだな。このCDは大切にするよ」
急に空間に音が戻る。
――ああ、やっぱりあのお兄さんの力だったんだ。
裕子に聞けばサイキックパワーだと言うだろうし、晶葉に聞けば何らかの装置を使ったのだと言うだろう。
ただ、聞いてはいけない気がした。
ヒーローとして力無き一般市民を巻き込むわけにはいかない。
――――何がヒーローとして、だよアタシのバカ。アタシだって力無き一般市民には変わりないじゃないか。
本当に力がある相手に対して、何が出来るというのか――――
そんな憂慮を頭から追いやりファンに向き合う。
いつもより多い握手を心に刻みつつ、その日の営業を終えた。

「光、お疲れ」
「相棒もアシストお疲れ!」
横で見守っていたプロデューサーと事務所にてジュースで乾杯。
「そういやお前面白いファンいるなー。俺に対して『プロデューサーさん、光をここまで導いて下さりありがとうございます』って言うんだ」
「?? それのどこが面白いんだ? プロデューサーの大事さをわかっている礼儀正しい人じゃないか」
「それがだな、その後『彼女は悪の組織のボスである俺にも温かい握手をくれる』って。大方お前にもその設定で話しかけているんだろ?」
――巻き込まれた、相棒が。
「あ、ああ。でもあのお兄さんは本当に不思議な力を使えるんだ。アタシはあの人を正義のヒーローだと信じたい。でも本人は悪の組織のボスだと言ってるんだ」
「……光、それはヒーローごっこの設定か? それとも真剣に言ってるのか?」
「アタシはいつも真剣だ! 相棒はアタシを信じてくれないのか?」
いつの間にか光は涙目になっている。
「いや、俺はお前をいつだって信じている。自称悪の組織のボスが本当は正義のヒーローだってこともな。だってそうだろ? 本当に悪の組織のボスだったらわざわざ名乗らないし光のことをあんな嬉しそうに話さないよ」
「ありがとう、相棒。でもちょっと怖いんだ。本当に力を持っている人が……その力をどう使うのか」
プロデューサーは逡巡し、思い立ったように胸ポケットからペンを渡した。
「その気持ちをお前のマル秘歌詞ノートにぶつけろ。きっといい歌詞が書ける」
「力を持つものの苦悩、周囲からの恐れの視線、それでも正義のために……そうだな、相棒。アタシはアタシの力、アイドルでヒーローの活動をする!」

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「少佐、今更ですけど光ちゃんに普段の格好で接触したのまずくないですか? 普段の少佐凄く目立ちますから恨み買ってる連中から光ちゃん狙われちゃうんじゃ?」
「ふむ、では次から完璧に変装して南条光にだけ名乗るとしよう。最近来ないと思われたら困るからな」
「ギリアム少佐、それ完全に不審者です」

 

南条光(デレマス)にかつての仲間と同じ『ヒーロー』を見出して大ファンになってしまうギリアムさんのお話第2弾。
書けば出る教で書くつもりで書き始めましたが誘惑に負けてガチャったら30連で出ましたので純粋にデレステSSR&ボイス実装おめでとうSSです。
祝い方のベクトルがずれてるのは仕様です。

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