閃光と氷槍のお料理行進曲

「こんな……こんな料理が食えるか!」
メイシスが皿を叩きつけるように置いた。
「な……何と」
「てやんでえ、何しやがんだ! 食いモンには神様が宿ってんだぞ!」
レーツェルが珍しく狼狽している。
無理もない。絶対の自信があった彼の料理をこのように拒絶されたのだから。
「メイシス! レーツェルに謝るんだ!」
「嫌な物は……嫌なんです!」
アルティスに叱られ、食堂を駆け出して行ってしまった。

「信じられんな、こんな美味い食事を……フォルカ、食わんのなら俺が食うぞ」
「良く噛んで食べなくてはならないとショウコが言っていた。吸収が良くなるらしい」
フォルカの皿の上では白熱した攻防戦が繰り広げられていた。それでもこの2人はいつもどおり会話をしている。
すっかり打ちひしがれたレーツェルをアルティスが慰める。
「気にしないでくれ。彼女はまだ馴染めないでいるだけなのだ」
「あの氷槍の女将軍様がそんなタマかよ。第一これまでの食事は普通にうまいって食ってたぜ」
「彼女はとても繊細で心優しい。それに彼女も私ももう将軍ではない」
「あーあー、そうだろうよ! お前の前では昔の可愛い可愛いメイシス嬢ちゃんのまんまだもんな! ったく、俺がどんな扱いを受けてきたと思ってるんだ」
「お前の扱いはともかくとして、私はメイシスを追ってくる。レーツェルに頭を下げて謝らせなければならん」

メイシスは格納庫のペイリネスの前に佇んでいた。
「やはりここだったか、メイシス」
「アルティス様……」
「ふふ、無理をしなくていい。私が寝ている間、ずっと私の名前を呼んでいただろう? 聞こえていた」
「あ、あの……それは……と、とにかく、無理なんてしていません!」
真っ赤な顔でそっぽを向く。
アルティスが見たことのない表情だ――この世界に感化されたのか――或いは、ずっとこんな顔でいたのに、気付いていなかっただけかもしれない。
「メイシス……食べ物を粗末にするものじゃない。いつも言っていたじゃないか。それにレーツェルが心を込めて作ってくれたのだぞ」
「……食べたくなかったんです」
「味が気に入らなかったのか? それならそうと言えばいい。何もあんな態度を取ることはなかった」
「そうではないんです。本当は……美味しかった」
呟くように言って俯く。
「ただ……自分が許せなかっただけで」
「馴染んでいくのが怖いのか? 自分が、変わっていくのが」
修羅は戦いの中でしか己を見出せない。
昔は心安らかな時もあったのだが――戦いのうちにそれを忘れていった。
それに疑念を抱いたのがフォルカ。彼を導いたのがこの部隊の者たち。そしてそれが他の修羅をも変えていく。
「だが……だからこそ君はこの部隊で戦うことを選んだのではないか?」
「そう……そうですね。あの男にはちゃんと謝ります」
メイシスは微笑んで、そして少し困ったような顔になった。
「でも……それだけではないんです」
「何だ?」
「今まで食べたどの料理よりも美味しいと思った……そう、アルティス様の料理よりも」
アルティスの表情が止まった。
「だから、そう思った自分が許せなかったんです。アルティス様の料理より美味しい物などあるはずないのに」
「……そうだな。レーツェルの腕は確かだが……この世界の食材は修羅界の物より豊かだからな……」

全く同じ2つの料理。調理した人間だけが異なっている。
目にも止まらぬスピードで食べつくしたメイシスは口を拭きながら言った。
「この皿の方が、美味かった」
レーツェルのゴーグルの奥の眼が輝き、アルティスがあからさまに肩を落とした。
そして、メイシスは理解した。
「ああああああ! わ、私は何てことを……!」
「そ、そうか……そうだな……この戦い、結末は見えていた……」
「何故アルティス様の料理がわからなかった!? こうなればこの氷槍のメイシス、敵と戦って死ぬしか……!」
「早まるなメイシス!」
フォルカがメイシス腕を掴み、フェルナンドも訳がわからぬままそれに従い、アリオンがどさくさに紛れて胸を触り急所を蹴られた。
「触られて困るような胸かよ!」
「黙れ。黙らんと次は斬るぞ!」
「剣抜きながら言うんじゃねえ!」
アルティスの肩を明らかに勝ち誇った笑みを浮かべたレーツェルが叩いていた。

 

日記からの加筆修正。修羅参戦記念アルメイinOG世界。ラブコメというかバカップル?
面と向かってアルティスと呼べるようになるのはまだまだ先のお話。
外伝ではこうなるといいなー、という期待と願望と妄想に溢れて……いたんだけどなぁ(泣)
でもまたこの設定で書くと思います。アルティス様は絶対竜巻兄さんと仲良しになる!

 

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