■燃ゆる想い

「なあ、バートのおっちゃんってジョディとサムス、どっちが好きなんだと思う?」
「……? マスターが好きなのはサムスだろ。何でジョディが入るんだよ」
「鈍いくせに何で断言できるかなぁ。リュウに聞いたオレが馬鹿だったのかも知れないけど」
「だって普通にそうじゃないか」
「まあサムスは当然。リュウにわかるくらいだから。でも態度や雰囲気違うのはジョディもだよ」
「俺はサムスだと思うんだけどな。まあどっちでもいいんじゃないか? そりゃF-ZERO嫌いとかだったら反対するけどあの2人じゃ文句つけようがないし」
「……2人とも、そういう話はせめて私に聞こえないようにやってくださいね」

陰でそんな話をされているとも知らず、当の2人は仲が良かった。
ファルコンハウスで時々話すくらいだが、とても気が合う。
乱闘とF-ZERO。賞金稼ぎと刑事。
戦場や立場は違えどその姿勢はよく似ており、趣味や性格、歳も近い。
お互いそんな相手が身近にいないこともあって、女同士気楽にやっていた。
今度ファルコンハウスを離れ2人でミュートシティでショッピングをしようと約束した。
この街はあまりにも広くて把握しきれていない。彼もこの街に詳しいが少々性質が違う。だからとても楽しみだった。
しかし、サムスにとっても気になる所ではあった。
ジョディを相手にした時のバートは何か違う。そう感じていた。
それは彼女自身に対してもそうではあるが。
この店で戦士やパイロットは特別珍しくもない。
だがそれでも、彼女とジョディと――あとリュウに対してだけは絶対的にそれらとは違う何かを感じた。
リュウについては説明は簡単だ。
バート――ファルコンが認める戦友にしてF-ZEROにおける最大のライバル。
彼女にとっては少々羨ましい相手ではある。
賞金稼ぎや戦士として戦っていても、ファルコンの本分はやはりF-ZEROであると感じ、そしてその世界には彼女は入りこめないから。
そして親愛なるマスターとやはり彼にとっても戦友でありライバルであるファルコンが同一人物だと知らず、純粋に接することが出来るのも。
好青年でもあり、バートであろうとファルコンであろうと彼のことになると熱が入るのは当然であると思えた。
――無論そういう感情ではないのは知っているから、羨ましくはあっても嫉妬はしないのだが。
彼女自身についても簡単だった。
何しろファルコンとしてなら堂々と口説いてくるし、実際恋人同士である。
店では飽くまで親しいマスターと客を演じているが、滲み出てしまうのは仕方がない。

――――なら、ジョディは?
彼のみならずジョディの方からも少し違う雰囲気が漂っている。
彼の人柄に惹かれる客は多く、中には完全にその気になってしまっている者もいるが、それとは違うようにサムスは感じた。
そして彼は二股をかけられるような人間ではない。博愛主義者ではあるが。
――――――昔の、恋人?
ついそんな考えに至ってしまう。
過去誰と恋愛をしていようと今愛しているのがサムスであるなら彼女は構わないつもりでいた。
生きていれば人を好きになるのは当然であるし、彼は彼女より長く生きている。
そして彼の気持ちを疑いたくはないが、ずっと気になっていた。

そんなある日。
サムスはいつものようにファルコンハウスに向かってミュートシティを歩いていた。
「あら、サムスじゃない」
「ジョディ……偶然ね」
ジョディは服の雰囲気こそいつもと変わらなかったが、紅い花を抱えていた。
「…………ちょうど良かった。あなたに話したいことがあったの。少し付き合って」
「ファルコンハウスでは出来ない話?」
「ええ。買い物じゃなくて悪いけど」
ジョディについていくと、郊外の墓地についた。
「ごめんなさいね。墓参りなんて付き合わせてしまって」
「別にいいけれど」
紅い花が捧げられた墓碑の名前を読んだ。
アンディ・サマー。
――家族、だろうか。
「私の兄よ。幼い頃両親を亡くした私にとって唯一の肉親……歳は離れているけど、それだけに余計に尊敬しちゃって」
言われて生年を見た――――生きていれば37歳。
「正義感が強く誇り高く、勇敢で優秀な刑事だった。私が警察に入ったのも彼に憧れて。未だに追いつけないけど」
「謙遜する必要はないわ」
「ふふ、ありがとう……でもそのせいで、数年前のダークミリオンとの戦いで私を庇おうとして…………」
――――古いけれど決して色褪せない記憶。
肉親を失った時のこと。
しかし彼女にはそのことは話していない。
それなのに。
少し感傷的になることはあるだろうが、何故ここまで饒舌なのだろう。
「サルビア……墓地には少々不似合いな紅い花。でも彼には相応しいと思うの。彼が一番好きな花だし、それに彼は…………」
俯き気味だったジョディが微笑んだ。意味深長に。

――――――青みがかったグレーの眼――彼と、同じ。

37歳。
正義感と誇りと役者根性の塊。
勇敢というか恐れを知らず、優秀と言っていいかは別として腕は立つ。
大切なもののためなら命をも投げ出す。
彼の象徴である青と赤という色をこよなく愛する。
あれが本名かどうか、少々疑わしくはあった。
そして恋人ではなさそうだが微妙な雰囲気。

目を見張ると、ジョディの笑みが強くなった。
「ふふ。知っているかしら。サルビアの花言葉は『家族への愛』っていうの」
「……紅い花でも色々ね」
「ああ、言っておくけど、兄は少々心配性ではあったけれどちゃんと恋はしていたわよ。今思えば少し、妬いていたかも。でも一応応援していた……多分」
――――それなら似ているから、ではないか。
彼曰く一目惚れのはずだし、外見自体はあまり似ていない。
重ねてしまっている所もあるにはあるだろうし、恋が多いというのはあまり嬉しいことではないけれど。
「でも私が心配だったのか、その他色々な使命感のせいか、あまり深い仲にはなれなかった。だけどきっと、もっと出会うべき人がいたからそうなったのよ…………あと、今は私も気になる人が出来たから」
「……そう。頑張ってね」
「気になるだけよ、少しね……長話に付き合わせてごめんなさい。どうしてもあなたには話しておきたかったから……私があなたにこの話をしたこと、誰にも言わないでね」

ファルコンハウスの扉をくぐる。
「いらっしゃい、サムスさん」
バートの声が迎える。リュウとクランクもいた。
サムスは短くいつもの、と応じた。
店の花瓶には紅い花が生けられていた。
「……サルビアね」
「ええ、綺麗でしょう」
「…………花言葉は『家族愛』」
「よくご存知ですね」
――――他の花言葉なんて――やはり紅い、薔薇ぐらいしか知らないけど。
「あ、もしかしてマスターとクランクの?」
「オレそういうの嫌なんだけどなー」
「いやいや。何となく呼ばれた気がして買っただけです。言いたいなら直接言いますよ。そうでなくちゃ伝わりませんよ……勿論クランクのことは大好きだよ」
「……直接言われるのも恥ずかしいんだけど」

――――言いたくても、言えないこともある。
伝えられるなら、伝えておこう。
たまには少しだけ、素直になって。本当の名前を知っていることは秘密だけど。
そして勿論、後でゆっくりと。
――――――彼と彼女も、きっといつか。

「そういやさ、おっちゃん、オレがいつも世話になってるからジョディに弱いんだってさ。むしろオレが世話してるってのに」
「ったく、生意気言いやがって。お子様には早いんだよ。結局俺が言ったとおりだったじゃねえか」

いつものコーヒーは、苦くてほのかに甘かった。

 

ファルサムでありジョディ話でもあります。妹! あとやっぱり似ていると思うんです。
サムスとジョディが女友達で、彼とジョディの仲が誤解されるのは私にとってデフォです。そして妙な所で鋭いリュウも。
彼は本名を隠していますが、彼女相手なら聞かれれば教えたはず。聞かれなかっただけで。
ちなみにジョディの気になる人は私的にはスチュワート氏。「私を倒してから行きなさい」な兄も彼なら許すんじゃないかと思う。
タイトルはサルビアの花言葉で『家族愛』と同じくらいメジャーなもの。

 

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