彼女の虚憶と『いつか』への想い

夢を、見た。やけにリアルな夢だ。
夢の中の私は現実と同じくソウルセイバーに乗って戦っていて、現実と違って『アキミ』と呼ばれていた。
父さんもジンプウさんも、サリーもジークもフェアリさんもいた。
ただ、私の双子の弟――本来の『アキミ・アカツキ』はどこにもいなかった。
元気だった頃の母さんに聞いたことがある。
子供が生まれる時名前は『アキミ』だけ決めて、男だったら『秋水』と書いて女だったら『光珠』と書こうと決めた、ということ。
出産が近付いた時の検査で男女の双子ということがわかって、慌てて私の名前を『アケミ』にして漢字は変えないままにしたのだ、と。
パラレルワールド――並行世界。おとぎ話のような話だけどこの鋼龍戦隊では常識的な概念でそちらの世界出身の人も多くいるという。
もしかしたら私が一人っ子の『アキミ・アカツキ』だった世界もあったのかな、などと単なる夢なのに気になってしまう。
でもどれだけ考えても私はアキミの双子の姉の『アケミ・アカツキ』だ。それが私のアイデンティティ。
姉だから私がしっかりしなくちゃ、とか色々昔から考えて――アキミが無鉄砲なのもあるけど――それが今の私を形作っている。
アキミがいない人生なんて考えられない。
私はズイウン・アカツキの双子の子供でいずれはモガミの重職につくレールが敷かれている。
それはどうしようもなく、変えられない事実だ。
「おい、水溢れてんぞ」
思案する私の指に水がかかるのとその声で私は現実に立ち返る。
考え事をするあまり給水器の水を出しっぱなしにしていたのだ。
その時声を掛けてきた相手は、アキミ以上に今の私が会いたくない相手で。
「悪かったわね。順番待ち? 待たせてごめんね」
ジーク・アルトリート。異星人勢力ガディソードからの亡命者。
といっても私たちとそう歳が変わるようには見えないし考え方もそんなに変わらない。
「まあ順番待ちもあるけどよ、お前と何となく話がしたくなってな」
ジークの言葉につい強い否定の言葉が飛び出す。
そんな気分じゃない、話相手ならフェアリでもアキミでもサリーでもいいはずだ。
「おっまえなぁ、そんなイラつく何かあったのかよ」
そして私より高い目から呆れた視線を浴びせられる。
今日の夢にはもう1つ気になることがあった。
夢の私は、ジークと恋人同士だった。
いや、朧気な夢だ。そう断言するのは早計かも知れない。
ただ自分の服を破いてジークの手当をしたり、公園でゆっくり話をしたり、笑顔で追っかけっこしたり――
思い出しただけで顔が赤くなる。
都合の悪いことに、私は現実のジークのことを悪く思っていない。
恋人、というのは飛躍しすぎかもしれないけれど、彼のことをよく知っていい友人同士になりたいと思っている。
「何かあったなら話せよ。誰にも言わねぇから」
ジークの言葉に鼓動が高くなる。
――ちょっとした、チャンスかもしれない。
やましい意味は全くない。ただ、ジークともっと親しくなれる。
そして苛立ちの原因にそれをぶつけるくらい、たまには許されるはずだ。
「へ、変な夢見てそれが気になってるだけよ。ジークとかサリーとかフェアリさんの夢見たの」
「おう、そこまで俺たちのこと気にしてくれてたのかよ。何かわりぃな」
「夢の中ではアキミはいなくて私が『アキミ・アカツキ』だった……変だよね。皆いるのにアキミだけいないなんて」
ジークは思案する。
ただ元々深く考えるのが苦手な彼は早々に思考を放棄したようだった。
「安心しろよ、ただの夢だ。お前は口うるさい双子の姉であいつは無鉄砲でバカな弟。それは絶対、変わらねぇよ」
ああ、そうか。
私はアキミを失うことを恐れていたのか、と今更のように気付く。
「って口うるさいって何よ! ジークに言われる筋合いないんだけど!」
「そういうところだよ!」
しばらく細かい口論が続く。
これだから口うるさいって言われちゃうんだろうな、と心の片隅で思う。
「ジーク」
「ん、何だよ」
「戦争終わってガディソードとの和平成立したらさ、地球の街に行こうよ。サリーも誘ってさ」
「地球の街ねぇ。ま、悪くないな。お前たちの地元食い物美味いんだろ」
アキミがサリーに惚れているのはわかっている。
もしかしたらダブルデートの総重効果で私とジークも夢に出てきたような――――――
――――――って、私はジークのことは気になるだけでそういう意味で好きとかそういうんじゃないんだけど。
「それにしても夢のことで悩むなんてお前も案外女らしいところあるんだな」
「それ本人に言う? 乙女心わかってないのね……」
「GGで敵前線ぶっ飛ばしまくってるお前が乙女とか言っても説得力ねーよ!」
「地球には戦乙女って言葉があるんだから!」
でも結局ジークとは口喧嘩になってしまう。

――――いつか来るのかな。私とジークが恋人としてイチャついたりする日が。
単なる夢のことだけど、やっぱりジークを前にすると凄く気になってしまう。
顔の紅潮を見られないように、俯き気味で口論を続けた。

 

GC/XOネタにしようかと思いましたがお題が『アケミ・アカツキ』な以上OG設定で勝負すべきだろうと思いつつ夢ネタでGCの虚憶を持ってることにしてみました。
アキミ君が同じ夢見たら「やっぱアケミがいねーとしまんねーよな!」とか言うのかななどと。

 

テキストのコピーはできません。