互いを繋ぎ止める鎖

感覚にどうしようもないザラつきを覚える。
ここにいるのはユーゼスが造り出したバルシェムの残党。
単なる量産型。私の自我を揺るがすには至らない。
私にはイングラムの代行者としての誇りを持ち、そして妙な話ではあるが造られた者であることを感謝している。
そのはず、だった。
しかしその仮面の残党指揮官と思わしきバルシェムと対峙する度、私はとてもザラつき揺るがされる。
ヴィレッタ・バディム、或いはヴィレッタ・プリスケンからその意識を引き剥がし無理矢理ヴェート・バルシェムという枠に抑え込まれるような感覚。
バルシェムたちが消えるとその感覚も消える。
そして宣告されたような気になるのだ。お前は、所詮紛い物だと。
誰に何を言われようと私はこの身体とイングラムから貰った心を誇りにしている。
揺るぐはずがない、そのはずだった。
「ヴィレッタ、コーヒーでもどうだね」
「あら、インスタントでもそのお誘いは嬉しいわ」
その思考に割り込むように、ギリアム少佐は誘いの言葉を掛けてくる。
勿論このお茶会に情報交換とそれを兼ねた雑談が含まれるのは承知の上で。
「で、今回お求めの情報は何かしら? 生憎ユーゼスが造ったバルシェムについては私の知識の範疇ではないわ」
「いや、今回は情報は特にいい。ただ君とコーヒーが飲みたかった。そういうのは駄目かな」
「あら、珍しい。いいんじゃないかしら? あなたらしくないけど」
「そうだな……俺らしくもない。君の前だとこうなってしまうのさ」
「少佐、情報部の技能をここで発揮しなくてもいいのよ? 口説かなくてもいつでも情報は提供するから」
ギリアム少佐は、慌ててコーヒーに口を付ける。
「因果な商売だよ、情報部というのも」
「よくお似合いよ」
「君もな。SRXチームの隊長ほどではないが」
サイカという秘書のようなことをする部下が増えたとはいえ彼にとって私の情報はまだまだ利用のしがいがあるらしい。
そして、私自身にも。
それを恋愛感情と言っていいのかは、私には、そして少佐自身にも判断が付かないだろう。
ただお互い一緒にいると安心する。それだけで十分だった。
「まあ正直な所を言うと、君が心配だったんだ」
「私が?」
「このまま手を伸ばさずにいたら君が届かない所に行ってしまう……そんな予感がしたんだ」
彼の勘は鋭い。一部では予知能力があるとすら言われるほど。
「あのバルシェムの出現で、少し君が遠のいてしまった、そんな気がした」
ああ、そうだ。
ヴェート・バルシェムではなく、ヴィレッタ・プリスケンでありヴィレッタ・バディムである私を大事にしてくれる人がここにいたんだ。
「その心配は割と私の方がいつも感じていることだと気付いてくれればもっと良かったんだけどね」
「ど、どこのことかな」
「シャドウミラー」
ごふっとどこかで聞き慣れた息を漏らしギリアム少佐は咳き込んだ。
「心当たりがないとは絶対に言わせないわよ。その後もダークブレインの時は少し危うかったし」
「そんなに顔に出ているか?」
「顔というより行動に」
沈黙が訪れ、互いがコーヒーを啜る音のみが響く。
「だが誓うよ。君がどこに行っても俺は必ず君を連れ戻してみせる。そして俺もこの世界で生き抜いてみせる……約束だ」
「約束……」
彼は律儀な性格で約束を守る事を何より大事にしている人だ。
今の彼の生き様も昔の約束に依るものだという。
「ふふっ、あなたは約束は守る人だものね? 私が私でなくなったとしても……あなたという楔があれば戻ってこられる気がする」
「俺もだ。俺も君がいれば二度と皆を裏切る真似はしない」
交わした口付けは、微かにコーヒーの味がした。
次に彼らと対峙した時、恐らく私はこれ以上までに揺らぐだろう。
でも繋ぎ止めてくれる人がいる。彼が、SRXチームの仲間が、そして鋼龍戦隊の仲間が。
ならば恐れることはない。一息ついて、残ったコーヒーを一気に飲み干した。

 

スパロボワンライ『ヴィレッタ・バディム』からMD時間軸のギリヴィレです。
スペクトラさん出てきた時の微妙な変化気にして欲しい。
それにしてもギリアムお題の時は何とか単体で書こうとする努力したのにヴィレ姉お題だと容赦なくギリヴィレにする嗜好何とかならんか。

 

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