■Garnet Moon

 
突然の出来事だった。
空に現れた割れ目は、人も、マシンも、コースも、街並みも、惑星も、全てを飲み込んだ。

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髪を2つにまとめた少女が、彼が目を覚ましたことを喜んでいる。
彼はその少女を“シスター”だと認識した。
お転婆そうな少女は華美ではないとはいえ一般的な修道女のイメージとは程遠く、その認識を疑問に思わないでもなかった。
体調や意識レベルを確認しようとする様子からすれば、看護師と言った方が正しい気がした。
「ちょっと貴方! 折角リズが貴方を心配しているのに、応答の一つも出来ないのですかこの唐変木!!」
「マリアベル、混乱しているだろうし私達の言葉がわからないのかも知れないでしょ」
傍らのもう一人の少女マリアベルは令嬢と呼ばれる人種であるが、言葉は随分と乱雑だ。
「……いや、わかるよ。ありがとう、リズ……でいいのかな、君は」
「馴れ馴れしくしないでくれます? リズにはこう見えても婚約の儀を交わした殿方が」
飽くまでも高飛車な姿勢を崩さないマリアベルに呆れるが、すぐに朗らかな笑顔が咲く。
「うん、私はリズだよ。あなたの名前は?」
「ケント……ケント・アケチ」
「ケント、これF-ZEROマシンだよね? これあなたのなの?」
そう言われて彼はようやく自分の状況を認識する。
――レース中に現れた謎の割れ目に、ファルコンmk-IIごと飲み込まれ、気を失った。
あれはワームホールだとかその手の類のもので、その先がどこか別の場所に通じていて、それをリズたちが見付けたということなのだろう。
「ああ、ファルコンmk-II、僕のマシンだ。ここはどこなんだ?」
「ここはね、イーリス王国。F-ZEROは最近見るようになったけど、ファルコンmk-IIっていうのは聞いたことないなぁ」
「僕もそんな国の名前は聞いたことないよ。僕が世間知らずなだけかもしれないけれど」
ただ、F-ZEROを知っているならファルコンmk-IIの名は知っているだろうと自画自賛ではあるが彼は感じた。
だがリズたちはそれで事情を理解したようだった。
「世間知らずのトンマに教えてやろうじゃありませんか。世界と世界を隔てる壁が壊れて世界が融合する、そんなことがあちこちの世界で起きやがり、ここはその融合世界というわけです」
「mk-IIって確か後継機を意味する言葉だったよね。私たちはファルコンmk-IIは知らないけれど、ブルーファルコンなら知っている。凄い活躍だよ!」
ケントが目を見開いた。
「ケントはファルコンさんと何か関係があるのかな?」
その問いの答えは既にあったが、口にするまでに時間と覚悟が必要だった。
「…………僕は、ファルコンの、息子です」
何度となく言ってきたこと。
表彰台でのインタビューで堂々と宣言したこともある。
その度に一笑に伏され、“自称”という修飾語と共に紹介され、世間の好奇心に晒された。
それはむしろ望むところではあったが、この場においては前提からして違う。
「そっか……あなたも大変だったんだね。ファルコンさんに知らせた方がいい?」
だからリズが理解を示し、且つ気遣ってくれたのは意外だった。
「いえ、父さんと――ファルコンと会うのはしばらくこの世界のことを知ってからにします」
「そっか。じゃあケント用の天幕用意するから、しばらくここにいるといいよ! お兄ちゃんも多分いいって言ってくれるから!」
「リズのお人好しには呆れますわね……でも、そこが貴女が人を惹きつける所。貴方、リズに感謝なさい!」
「ありがとう、リズ……そしてマリアベルも」

世話になっておいて何もしないのも嫌なので、料理当番に立候補した。
これが好評で、イーリス王国自警団には教えを請う者もいた。
他に飛ばされたパイロットの安否も全員の無事が確認されているようで胸を撫で下ろした。
「ケントさん、よろしいですか」
夕食後、ルキナが声を掛けてきた。
彼女はリズの兄であるイーリス王クロムの娘であるらしい。
リズやマリアベルを『母さん』と呼ぶ青年も確認している。
イーリスの人々は随分と若くで子供を生むようだ。
キャンプから少し離れた草原で、口を開く。
「貴方のいた世界で、貴方のお父様は……キャプテン・ファルコンはどうなっていました?」
いきなり、確信を突かれた。
「……私やウードやブレディたち、変だと思ったでしょう? 年齢が変わらないどころか年下にすら見える人をお母様だとかお父様だとか言って」
「!! もしかして、ルキナたちも世界融合で!?」
「いえ、私たちは神竜ナーガ様のお力により過去世界、つまり世界融合前のお父様たちがいて平和なイーリスがある、この世界に飛びました」
ルキナがファルシオンを握りしめる。
先程の質問とそこからこの話題からすると、ルキナたちが元いた世界でのクロムは――
「…………父さんは死んだ。パイロットの大半を巻き込む、F-ZEROの存亡にすら関わる大事故に……殺された」
「そうですか。貴方は勇気がある方なのですね」
意外だった。
事故で飛ばされただけなのに、と言うとルキナの硬い表情が柔らかくなった。
「ファルコンの息子を名乗ったことです。私は伝説の英雄王を騙るという冒涜を犯すことは出来たのに、お父様に貰った名前を言うことがなかなか出来なかった」
「僕はファルコンの所に行く勇気がない。ルキナの方がずっとずっと凄いよ」
しばしの沈黙の後、ルキナは微笑んだ。
「他人の私が言うのもおこがましいですが、貴方は名乗り出るべきです。そして、運命を変えるべきです」
「運命……」
「だってそうでしょう? ファルコンさんはまだ生きています。事故は優秀な医者がいたおかげで皆命は落としませんでした。とするとこの先別の事故が起こされる危険が……」
ルキナの双眸がケントを覗きこむ。
不思議な眼だった。片方の瞳には紋章のようにも見える模様が浮かび上がっていた。
「ケントさんの活躍、楽しみにしています」

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「さーて始まりました今日のF-ZEROグランプリ! 何と今日から異世界のF-ZEROから殴りこんできたパイロットとマシンたちも参戦だ! どこかで見たようなマシンも多いですが、特に注目すべきはファルコンmk-II!! 何とパイロットのケント・アケチは自分をキャプテン・ファルコンの息子だと言っております! その腕前、如何ほどの物か!! 今日のレースは特に目が離せないぞッッ!」
「ケント、久々だけど負けてなんかやれねぇからな」
「こっちこそ!」
彼らの戦いが、始まった。

 

Xまでしか出ていない頃(2015年)にTwitterの流れからぷらいべったーに上げていたもの。
ルキナ参戦するとは思っていませんでしたね。
サイトの設定に組み込むか迷っていたんですがforGBA混ぜたいという欲望によりforくらいから混ざったことにしました。
元々欲望しかないので今更ですね!
ちなみにタイトルの元ネタは島谷ひとみですw
深紅もですがACEのテーマ曲はクロスオーバーゲーということもありスマブラSSのイメソン採用率高いです。

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