■秘密のバート先生

「ねえ、ファルコン。あなたの顔に傷があるのは何故?」
初めて彼の素顔をみた時から疑問に思っていた。
顔の左側についた大きな古傷。メットを被れば見えないが、素顔になるとかなり特徴的。
戦えば傷つくのは当然だが、治療は簡単なのだ。
実際私の身体には――少なくとも見えるものはついていないし、彼もそれ以外は目立った傷はない。
それである日思い切って聞いてみることにしたのだ。
「……それは君にも教えられない、かな」
軽く笑って受け流す――――やたら説明好きなくせに自分のことになるとすぐこれだ。
しかも聞かれたがっている節があるからタチが悪い。
「治療はしないの?」
「その方がカッコいいじゃないか」
そしてこれもいつもの答え。
確かに男の勲章という奴かもしれないけれど。
そして話題を変えられた。極めて自然に。

――――だが、気になる。

ファルコンハウスに行った時に聞いてみた。
「そういえば、何故バートは顔に傷があるの?」
もしかしたらこっちでは教えてくれるかもしれない、と僅かな期待にかけてみた。
同じことを二度聞かれたことはないせいか、彼は少し狼狽したようだった。
「あー、それは……うーん、どうしましょうかねぇ…………」
「何だ、サムス。今まで聞かなかったのか? この傷はな……」
どうやらリュウは知っているらしい。
確かにリュウはここの常連として長いから知っていて当然かもしれない――バートがファルコンであることには全く気付いていないようだが。
しかしリュウの台詞をバートは慌てて遮った。
「ダメです、リュウさん! 喋っちゃダメです!」
「何でだよー、マスター。俺には教えてくれただろ? サムスがマスターのこと知りたいって言っているんだぜ? チャンスじゃないか」
そしてリュウはバートの私への恋心を知っていてそれを応援している。
――――それを気付く勘があって何故彼の正体に気付かないのか、私は正直な話疑問でならない。
付き合いは私よりずっと長いのだし、本質的には理解しているように思えるのだが。
「興味や関心を示されるのはとても嬉しいですが、私にも色々と、ね?」
「別に恥ずかしい理由じゃないと思うんだけどなぁ」
「とにかく秘密なんです。世の中少しくらい謎があってもいいはずです」
「マスターってそういう妙な所拘るよなぁ」
「……全くね」
ファルコンだろうがバートだろうが、彼は変な所で凝り性だ。
結局彼の傷についてはそのまま有耶無耶にされてしまった。
バートに口止めされた以上リュウも喋ってくれることはないだろう。

――――いつかは、教えてくれる日が来るのだろうか。

私好みに淹れられたいつものコーヒーに口をつけながら、彼の横顔を眺めた。
傷の形容詞としては相応しくないかもしれないが――綺麗な傷だと思った。

 

日記からの加筆修正。アニメ見た人ならお馴染みの最大の謎にしてネタ。
本当に何故なんでしょうね。ジャックは大笑いしていましたけど。
リュウがOKならサムスもOKだとは思いますがまあそこはネタなので。
そして気付かないリュウもお約束。

 

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