■光を継ぐもの

ヴァイス・ブレイブの武器庫でセリスは1人物思う。
数多の世界から集められた英雄たちの武器が保管されているが己が操るティルフィングは迷わず手に取れる。
手入れをする。
聖戦士バルドの直系であることの証明の神器。刀身に顔が映る。
――――瞳は父親のシグルド譲り。顔つきは母親のディアドラ似。
両親を知るオイフェやシャナンはよくそう言ったものだった。
「ここにいたのか、セリス」
「エルトシャン王、私を探しておられたのですか?」
「最近お前が物思いに耽っていることが多いとユリアが心配していた。あまり妹を困らせるものではないぞ」
儚げなユリアをよく気にかけていたのにいつの間にか逆になっていたのか、と苦笑する。
異父妹だと知らされた時は驚いたものだが、初見で受けた強い印象はそのせいか、とも納得もした。
「何か悩みでもあるのか? 召喚師殿やユリアに言いにくいのであれば私が聞くが。もっとも私は武人故あまりそういう相談は得意ではないがな」
「悩みというほどのものではないのですが……エルトシャン王は本来私と貴方がこのように会うことはありえないと仰った」
「ああ。私があのアグストリアの地で散った時、君はまだ生まれたばかりだった。君が生まれたことを教えてくれたシグルドの喜びよう、幻のような存在となった今でも思い出せる」
「父上と親友同士だったと聞いています。心ならずも、アグストリアの状況が2人を戦わせることになってしまったとも」
「面倒事を押し付けてしまってすまないと謝る余地すらもなかった……その後のシグルドのことは天に召された私には知る余地もないが、君があの召喚の間に現れた時言ったな。シグルドは無念の最期を遂げたと」
セリスの表情が陰る。
「そう聞かされています。万が一のために私やラクチェやスカサハを連れてイザークへと逃れたオイフェとシャナン……その下にエーディン公女が部隊の全滅を知らせに来た、と」
「君がティルフィングを扱えているということは一欠片も望みはない、か。不器用な奴だったからな、と私にだけは言われたくないか」
気を遣わせてしまっている、と肌で感じていた。
だから告げた。
物思いの原因を。一欠片の望みを。
「ですが思うのです。私とエルトシャン王が奇跡の邂逅を遂げたように、このような世界であれば父上や母上が喚び出されることもあるかもしれないと」
「セリス……」
「ああ、でも父上と母上は赤ん坊の私しか知らないのですね。今の私の姿は2人に誇れるものでしょうか……」
「セリス」
周囲の空気が引き締まったのを感じる。
獅子王と呼ばれたエルトシャンの持つ覇気がそうさせているのだと嫌でもわかる。
「その可能性を私も考えなかった訳ではない。だがそれはエンブラ帝国の支配下に彼らが置かれることを意味する。あれはあまり気持ちの良いものではない」
「ええ、知っています。だから悩んでいたのです。私は何と罪深いことを願っているのかと……」
エルトシャンは答えない。
「顔も声も覚えていない両親……なのにシグルドの意志を継ぎ世界の闇を払うと、自分こそがディアドラの皇子でありグランベルを継ぐに相応しいと騙ることに対する呵責……ユグドラルを離れた今でも私を苛む。だから『証』が欲しいなどと……敵としてでも2人に会いたいと、願ってしまうのです」
「ティルフィングだけでは証足り得ぬか」
「これはバルドの証です。『シグルドの子』の証ではない」
沈黙が覆う。
――――思ったよりセリスはディアドラの方に似たな。
戦場での強い眼差しはシグルドを思わせるが、己の弱さを吐露し悩む姿にはその面影はない。
「その想いの是非は置いておこう。私とてシグルドやキュアンに再び会えたらと思うことがないわけではない。だが共に戦う者として言おう。君が戦う姿、悩みつつも前に進む姿は、紛れもなくシグルドとディアドラの子だ」
「エルトシャン王……ありがとうございます。もう少し思い悩むことに……」
「にいさま! エルトシャン様!」
ユリアが息を切らせて駆け込んでくる。
「召喚師様が次の出撃はわたしとにいさまとエルトシャン様とラケシス様だと……エンブラ帝国が新たな異界を占拠しているのでその対処だと」
「む、その組み合わせは……まさかその新たな異界というのは」
「はい……『聖戦の異界』……ユグドラルを取り巻く戦いの歴史の英雄が集う異界だと」
――悩んでいる時間はない。
「ティルフィングよ、どうか我々に導きと力を……」
「わ、わたしもこのナーガの書で微力ながらお力添えします!」
「……ミストルティン」
出撃準備をする。
答えが出ないまま、戦場へと導かれる。
――――わかるぞ、シグルド。そこにいるのが。あの時のアグストリアでは返せなかった借りを、仮初めの今この時、貴様に返そう。この魔剣でお前の鎖を断ち切ろう。だから、待っていてくれ――――

 

FEHに聖戦(シグルドとディアドラとティルテュ)実装!ということで勢いで書きました。
書けば出る教に頼っているとも言う。
特にシグルドさんが森川さんなのは切実に願っていたので嬉しいですね!
そしてガチで聖剣ティルフィングとして別物になった……セリスかわいそす

 

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