■星々の煌めきが導いてくれた

ウード、セレナ、アズールが行方をくらませて数ヶ月経った。
最後の手がかりは依頼を受けて神竜の聖域に行ったところまで。
八方手を尽くし捜索を行っているがそれ以降のことは全くわからない。

「姉ちゃんの方のノワールも具合悪いのか?」
ライブの杖を握った『ウード』が心配そうに見上げている。
彼は先程まで『ノワール』の手当をしていた。
彼を見ていると――当然だが――幼い頃のウードを思い出す。
違いと言えば剣より斧と治療術に傾倒していることだろうか。
ずっと好きだった。誰かを守ろうとするその背中が。
それは『ノワール』にとっても同じようで、倒れたらすぐ助けてくれることもあり『ウード』の後を追っている。
「大丈夫、大丈夫よ、ウード……」
「そんなこと言ったってここんところずっと顔色悪いぜ。ったく、こんな時に兄ちゃんは何やってるんだろうな」
心が締め付けられる。
何かと派手な3人組だ。生きていればその痕跡が見つからぬはずはない。
それに3人とも得意な武器は剣だ。槍兵の軍団や魔術士の軍団に狙われたら――
「姉ちゃん! しっかりしろよ!」
悪い考えが巡って暫し気を失っていたようで、杖を構えた『ウード』が覗き込んでいる。
「ごめんなさい、ウード……」
水に浮かべた絵の具のように混ざり合い混迷の模様を描き出す思考。
――これは、治療の杖では治らない。
必死にライブの杖を振る彼に、それを告げることは出来なかった。

優しいウード。格好をつけたがるウード。勇ましいウード。詩人ウード。
その面影が薄れていく。
「母さん、呪術を教えて」
「人捜しの術、でしょう? わかりきっている。私もヘンリーも協力してるのよ。今更あなたが加わった所で……」
「このままだと私の中のウードが死んじゃう! 呪いでも何でも刻み込まなきゃ!」
「あはは、ノワールは心配性だね~。君のウードが死ぬわけないじゃないか。だから捜すのは僕たちに任せて~」
ヘンリーがへらへらとノワールをたしなめる。
いつもは大好きな父親のその笑顔に初めて苛立ちを覚える。
「もう思い出せないのよ! ウードが私のケーキに付けてくれた名前も! その時の笑顔も!」
「ん~、でも妊婦さんが呪術を使うのはオススメ出来ないな~。子供まで呪われちゃうよ~」
――――今、何と言った?
「ヘンリー、もう一度言ってくれる?」
サーリャも焦った様子で問いただす。
「ノワールのお腹にはウードの子供がいます! だからウードとの繋がりが途切れる心配なんていらないんだよ~」
さも当然かのように父は言う。
「ノワール、行為に心当たりは?」
サーリャが短く問う。
「あ、あるけど……」
「最近の体調は?」
「身体と頭が重くて……でもこんな時だしいつものが酷くなっただけかな、って……」
「治療院に行くわよ……ヘンリー、何でわかったの?」
「ウードを捜すたびにノワールの気配に当たるから何でかな~って生命をよく見てみたんだ~。でもわかったのは今だから黙ってた訳じゃないよ~」

そして医師にも妊娠を告げられる。
元々身体が弱いノワールは日当たりの良い病室に即日入院となった。
「私もとうとうおばあちゃんかー。お母さんになるのも突然だったけど時が経つのは早いよね!」
見舞いに来たリズが籠に入った果物を剥きながらノワールに話しかける。
「こうなるとますますウードが心配ですね。流石にあの未来の私たちでも身重の母親を置いて死ぬような真似はしなかったと聞いてますが……」
「こら、フレデリク! 死ぬとか言うなー! ウードはどこかであの調子でやってるよ! ただちょっと帰るのが遅れてるだけなんだからー!」
リズが少し涙ぐんでいる。
「リズさん……オフェリアが教えてくれてるわ。ウードは無事で、そしてもうすぐ帰ってくるって」
「オフェリア……?」
「お腹の子供の名前らしいわ。女の子でその名前がいいってノワールに教えてくれるんだそうよ」
「そうよ。この子はオフェリア。この子が私の時計を動かしてくれた……」
呪術の才には恵まれなかったがこれだけはわかる。
この子はとても素敵な『魔法』を使える子なのだと。

また数ヶ月。
柔らかな金の髪を持つ女の子が生まれ、ノワールは予定通りその子に『オフェリア』と名付けた。
ウードは茶髪、ノワールは銀髪。どちらにも似ていないがきっとリズに似たのだろう、と。
「聖痕がある! 本当にイーリスの血を引いてる子なんだ!」
リズがオフェリアを抱き笑みを見せる。
『ウード』と『ノワール』が不思議そうな顔をしていた。
その時扉が激しく叩かれティアモが駆け込んできた。
「ノワール……! ああ、良かった、リズもいるのね。セレナが見つかったのよ! ウードも、アズールも一緒に……!」
「ティアモ! 良かったねオフェリア、お父さんに会えるよ! あ、ノワールは立っちゃダメ! 引きずって連れてくるから!」
「いえ、リズさん。私の手でオフェリアを抱いて、私の足で立って迎えるわ。ウード……」
溢れる涙を抑えられず、それでも笑顔で立ち上がる。
ウードは想像通り罰の悪そうな顔をしていた。
ただ、いなくなる前より随分逞しくなったようだった。
「貴様、覚悟は出来ているだろうな……!?」
そして、久しぶりにノワールはキレた。

 

第151回フリーワンライ、お題は『アカにまつわる話(アカは変換自由)・そんな話は聞いてない・マーブリング・君が死んでいく・進み始めた秒針』でした
例によって全部使ってウドノワです。ヘンサーノワールなら強いオフェリア生まれそう。
覚醒時空では子供は母親準拠ですがマークちゃんとルキナという例外がいるので大丈夫大丈夫。

 

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