■運命の扉の向こう側

その『悪意』とも『災異』とも呼ぶべき『何か』は瞬く間に眷属を増やしていった。
便宜的に『戦禍』と呼ばれている『それ』は英雄を飲み込んでいく。
唐突に現れては『核』を変え己の勢力を増やさんとする。
今回『核』になったのは聖戦の異界、バルドの末裔の聖戦士、シグルドだった。
「すまない、ディアドラ……!」
そう呻いているが今彼が斬ったのが当のディアドラであることに気付く様子もない。
「ああ……シグルド様……」
しかし既に英雄という概念になった彼らに死は存在しない。
しばらく倒れていたディアドラはゆるりと立ち上がり聖書ナーガを手に取り周囲を攻撃しはじめた。
――何なのだ、これは。
「父上…………」
彼らの息子であるセリスに凶刃が襲いかかり、やがて新たな眷族が生まれる。
「シグルド様! やめてください!」
アーダンが剣を向ける。程なく斬り刻まれる。
「へへっ……頑丈なのが取り柄でね。貴方のために死ねるなら幸せってもんだが今のシグルド様は明らかにおかしい!」
――実力差はわかりきっているであろうに、それでも貴様は盾となるのか。
裁きの炎よ(ファラフレイム)!!」
シグルドは耐える――ティルフィングは耐魔の結界。『あの時』も何度も何度も、灰になってすら撃ち込まなければ気が収まらなかった。
「ディアドラ……!」
「シグルド様……」
――君の願いならそれも良いだろう、ディアドラ。
だが今のシグルドは君のことを振り返りもしないではないではないか――
苛立ちと共に炎を強めるとようやく倒れるがまた無傷で立ち上がる――終わらない戦い。
「兄上やめて! リーフは……リーフだけは巻き込まないで!」
闇の凝り固まったような鎖に囚われたエスリンが声を張り上げる。しかしそれが届くことはない。
「キュアン! キュアン助けて! 兄上がおかしいのよ! 悪夢だわ……兄上を救って! 私を助けに来て! ねぇ、キュアン……!」
「俺は……! 俺は戦禍になんか屈しない! 俺は『シグルド様』についていくと決めたんだ! ディアドラ様やセリス様を斬った貴方がシグルド様であるはずがない!」
――そうだ。シグルドは何かの悪夢に囚われているように見える。
そしてそれは間違いなく――
「『戦禍』に対する抑止力よ。我が声を聞け。この『戦禍』は強力な核を取り込んだ。いずれ他の異界も取り込んでいくだろう。私が道を開く。この悪夢を終わらせる力をここに喚べ……!」
『皇帝アルヴィス……君がファラの聖戦士として正しい道を選んでくれたことを喜ばしく思う。君が開いた道を無駄にはしない』
響いた声は少年とも少女ともつかない。
だがこの悪夢に変化が訪れた。
「異世界の私よ……! 悪夢に囚われた孤独な貴様を、このティルフィングで解放する!」
「ああ……! 兄上! キュアン! キュアン!」
「エスリン……!? これは好都合か。異世界の君を解放するだけでなく我が最愛の妻を助けることが出来るとは! エスリン! もう少しだけ我慢してくれ!」
「私がこの場においてやるべきことはただひとつ……お前たちの手助けをすることだ。行くがいい、我が友よ。どこまでも共に参ろうぞ!」
――そうか。これが『この悪夢を終わらせる力』か。
「なれば私は邪魔というものだな。奴に必要なのは『裁き』ではなく『救い』だ……」
そうしてその異界のアルヴィスは誰とも知られず身を隠した。

特務機関に所属するアルヴィスは出番が来るたびに独りごちる。
「これが因果であり業なのだろうな」

FEH、戦禍の連戦『運命の扉』まさかのあのマップでシグルド様ラスボス。
いつもにも増して勢いだけで書いた小説です。システム的なアレであって狙ってないとはいえアルヴィスやアーダンは出てこない理由付け。
最終マップでエルトやディアドラがついてきたり道中でセリスやリーフが出てきたりしんどいし尊いです。
たまには『書けば出る』以外も書きたいなーなどと。シグルドとキュアン強すぎて周回クッソ楽しいです。

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