■時と時を結ぶ鈴の音

時空ホールを抜けても、ジュプトルとヨノワールは組み合って殴り合っていた。
もう、彼らは過去の世界に干渉することは出来ない。
故に世界の行く末はその手を離れていたが、それでも。

「何故歴史を変えようとする! 時間は正しく刻まれなければならないのだぞ!!」
「こんな狂った世界が、本当に正しいって思うのか! あの世界を見ても!」

闇に包まれ時を止め色を失くした世界。
ポケモンたちは憎しみあい、いや、そんな感情を抱くことすらなく、傷つけあう。
この世界の大抵の者は絶望を知らない。
希望を知らないから。
ジュプトルも後の相棒となる人間と出会うまでそうだった。

「これが正しいというなら、俺は間違っていて構わん!」
「貴様は何も背負うものがないからそう言えるのだ!」
「背負うもの? 自分の意地だけで十分だ! それで足りないならあいつと、過去に生きていた奴らと、それと……」
ふと思い浮かべた顔。それと同時に鈴のような音が鳴る。

虹色に輝く葉嵐が、ヨノワールを切り裂いていく。

「ジュプトルさん!」
現れたのは桃色のセレビィ。
光を放ちながら空中でくるりと回る。
そう、ジュプトルが思い浮かべた表情。しかし彼は目を見開く。
「お前、何で出てきた! もうときわたりで歴史を変えることは……」
「………………変わったのよ」
その呟きの意味を、ジュプトルもヨノワールも瞬時に理解した。

過去の世界で、星の停止は食い止められた。
希望と友情で種族も時も越え繋がったものたちによって。

「お前たちさえいなければ……!」
震える声を振り絞る。
「認められるものか……たとえ歯車が狂ったとしても、今ここに流れる時間がある以上それを護るのがディアルガ様とあのお方に仕える私の使命のはず……!」
掴んだ相手を霊界に引きずり込むといわれるその大きな手は、今は虚しく暗い空を握るばかりだった。
「あなたたちがそうであるように、わたしはときわたりをしながら、何で昔はあんな綺麗な世界があったのに、この世界はこんなに暗いんだろうって思ってた。だから変えようって思ったの」
「お前も消える……いくらときわたりをしようと、お前が生まれたのはこの世界だ!」
「……そうね。こんな世界で独りで生きていく位なら消えた方がマシ、って言いたいけど、言えない。だって……怖いから」
「…………意地、なんだろうさ。それも。そして結果がこうなったってだけだ」

強気な彼らも声を落とした。
がむしゃらに戦い続けてきたが、たどり着き振り返ると恐ろしくなる。
それはジュプトルもセレビィも、そしてヨノワールも、変わりはない。

「私は、どうすれば良かったのだ……? どうすれば良かったのですか、ディアルガ様……!!」
答える声はない。
その代わりであるかのように、風が彼らを揺さぶる。

時が、動き出した。
世界が光に包まれる時、彼らもまた、光に包まれる。

 

「ジュプトル、禁を冒すのなら容赦はせん! この盗賊が!」
「別に荒らしにきたわけじゃない。それに一応、俺は探検家だ」
「セレビィがお前などの前に姿を現すはずがないだろう。ディアルガ様すらもなかなかその姿を捉えられぬ。奴らには時の守護者としての自覚はないのか」
「ああ。ここにいるのはその中でも特に珍しくってきまぐれだっていう桃色のセレビィだな……だが何だか会える気がしたし、会いたいと思ったんだ」

鈴の音と、優しく舞い踊る葉風。

世界が生まれ変わる時、彼らも、また。

 

探検隊未来組。空が出る前に書いた奴です。
ジュプセレを書くはずがヨノワさんに愛を注ぎまくってしまいました。直接は書けなかったけどディア様も大好き。
大好きですヨノワさん。現在世界での「ここはいい所ですね」は本音だったと思っています。
そして別の歴史を辿ればジュプトルとはいいコンビだったと。そんな諸々の気持ちを込めてみました。

 

テキストのコピーはできません。