戦う理由

「君にも君の仕事があるだろう? 俺は、大丈夫だから」
ギリアムの言葉で我に返った。
彼の準備を手伝っていたが元々荷物は少なくやることは少ない。
つい考え事をしてしまっていた。
鞄を受け取ろうと手を伸ばしている。
ため息のような微笑。
渡せばしばらく彼には会えなくなる。
――――大丈夫なんてそれほど便利な言葉じゃないのよ。
視線を微かに逸らせながら鞄を手渡した。
青の亡霊が視界に入る。
この機体を受け取った時は嬉しかった。
彼女のために調達してくれたこの機体は彼にとって特別な意味を持つもののはずだから。
知識や腕が求められているだけでもよかった。
何でもいいから少しでも多くのことを為したかった。
その彼女を彼が人間として信頼してくれた何よりの証拠に思えて。
しかし今は喜ぶ気にはなれなかった。
初出撃が“インスペクター”の襲撃を受け、あんなことになったからかもしれないけれども。
「あまり無理はしないでね」
「それはこちらの台詞だな。またSRXチームの様子でも教えてくれ。元気にしているならそれが何よりだ」
レビ・トーラー、いや、マイ・コバヤシやヴィレッタ自身という爆弾を抱えていることを知りながら彼は言う。
それがまた、何かを隠そうとしているように見えた。
ギリアム・イェーガーという人間から受ける印象が、彼女がよく知る者に似ているからかもしれない。
そう、思うことにした。思うようにした。
“ギリアムは無理をしている”
そのことは事実に近い形として感じ取れ、どうやら以前からのものだというのも推測していた。
しかしそれを先に知っていたら、彼女はどうしたか。
イングラムの言葉を破りギリアムの元へ行ったか――否。
そして別の形で今彼を支えることが出来るか――それも、否定せざるを得ない。
故に、前と同じ言葉を彼に伝えて別れる。
「必要になったら、いつでも呼んで。協力させてもらうわ」

ギリアムは黒の亡霊と彼女の寂しそうな笑顔を瞳に焼き付けていた。
笑えているか、心配だった。
彼女が立ち止まらなかったのだから、大丈夫だろうけれども。
「俺は大丈夫。この世界のために戦える。だからどうか元気に」
一人残されて呟く。
―――――そして後のことは、頼む。
それでもその思考は、口には出来なかった。

 

スパロボワンライお題『ザ・ストレンジャー』(異星人&異世界人限定)
お題見た瞬間これはギリヴィレやるしかないと確信しましたがいつものOG2のすれ違いネタです。
本編ギリアムが「後のことは頼む」って言ったのがイングラムと重なって非常に残酷で好きですね!

 

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