太陽に焦がれる影の希望

忘れていた。俺が記憶喪失だったことを。
名前以外の全てを忘れて、軍の演習場に倒れていた。
技能だけはあった俺はαフォースの一員としてゲシュペンストで活躍した。
漆黒の堕天使の異名は少しどうかと思ったが、赤い彗星や白き流星のようで悪くはなかった。
その一年で功績が認められ、ゼウスに選抜された。
世界中で暗躍するテロリストの討伐を主目的とした治安維持組織だ。
ゼウスの初期メンバーは俺を含めた4人。
他でもない白き流星のアムロは、機械弄りが好きで本来戦うことが好きではない。
だが戦えるので戦い、英雄扱いされるのに戸惑う、困惑的な笑顔が印象的な優しい奴だ。
モロボシ・ダン。正体は光の国の英雄の1人、ウルトラセブン。
義兄弟の話をよくするが、それと同じくらい警備隊の話をする。
ダンとウルトラセブンが結びつかない彼らを騙していることを悔いていた。
誰かが何とかしてくれる、というのはあまりいい傾向ではない。
他でもないその『誰か』であるゼウスに選ばれたダンは腐ることなく皆をまとめていた。
南光太郎は仮面ライダーBLACKだ。
血気盛んな熱い男で、その一方でアイドルが好きでテレビ番組や自販機のジュースに反応し、ダンと漫才をしている。
その強さはきっと、平和の大切さを知っているからだ。

何者でもなく戦う力だけで選ばれてしまった俺だが、ゼウスはとても楽しかった。
アムロの強さを、ダンの強さを、光太郎の強さを少し分けてもらった。
αフォースの全滅を聞き先走り人質に取られた俺を、責めるどころか気遣った彼らと共に戦っていた。

************

思い出してしまった。
俺はテロリストだ。
ゼウスが設立された契機のテロリストの一斉蜂起は俺が計画したものだった。
一斉蜂起した割にそれぞれの動きが乱雑なのは、首謀者が失踪したからだ。
腕があるのも当たり前だ。

************

崩れかけたビルで、俺は正しいと思えることをした。
たかが1人の少女とはいえ見捨てることは出来ない。
逃げ遅れたのは1人なので、1人が探し3人は皆の安全を確保する。
ビルの崩壊に対応しやすいのは機動兵器であり、単独行動の多かった俺が残る。
少女を見つけたが友達とはぐれてしまった、とまだ泣いていた。
その友達はくまのぬいぐるみのヒューイ。
――ゲシュペンストに残っていれば少女は安全だ。
「ヒューイを連れて来る。君はそれまでここで待っていてくれ」
「わかった! ギリアムのお兄ちゃんありがとう!」

************

間違ったことをしたとは思っていない。
ゼウスとしてするべき行動は1つだ。
ただ、俺は結果として間違った。
ヒューイは見つからず俺はしばらく気を失い記憶を取り戻し、瓦礫から這い出た時には彼らはいなかった。
ビルの崩壊にゲシュペンストが耐えられたか。
そもそもあの少女がちゃんと待っていたか。
そして結局このビルの崩壊もバスジャックも、テロリストの仕業だ。

************

腕にはパーソナル転送システムがある。
修理されているであろうゲシュペンストは、俺の意思のみで動く。
ゼウスとして戦ったゲシュペンストをテロリストの統率者が操る意味はない。

成功したテロは革命と呼ばれ、俺は革命を起こそうとしていた。
破滅に満ちた実験室のフラスコの未来を変えようとした。
正しいかどうかは歴史が決める。
改造人間も怪獣も宇宙人もモビルスーツ同士の戦争もそれぞれの正義がある。
故に各地に潜む反逆者たちをまとめた。

今の俺の正義は何だ。
テロリストの統率者の自覚を持った俺が、何事もなかったかのようにゼウスに戻れる訳もない。
だが戦う力と意志があり、何よりも戦わなければならない。
まだ未来は暗雲に包まれている。
機動兵器を操る腕前だけはあり、行くべき場所も思い出した。

************

俺は歓待された――失踪していた革命者の帰還。
「よくぞ御無事で」
その中で俺に敬意を払う男を、俺はゼウスとしても知っていた。

光太郎は熱く明るい男だが、陰がさす時があった。
ゴルゴムの改造人間だが、仮面ライダーBLACKとして戦えることは誇りだと笑っていた。
ただ対になる創世王として同じくゴルゴムに改造された兄弟同然の親友を想っていた。
月と太陽が重なる皆既日蝕の日に生まれた2人に、月と太陽のキングストーンを埋め込み戦わせる。
決着が付き2つのキングストーンを手に入れた者がゴルゴムの真の創世王となる。
「そんなクソ迷信本気で信じてるんだぜ、信彦は。俺は割とまあ馬鹿だけど、あいつはもっと馬鹿だよな」

「シャドームーン、久しいな」
ゴルゴムの月の創世王。かつて信彦だった男。
光太郎のことをゴルゴムの太陽の創世王の名、ブラックサンと呼ぶ。
テロリストを利用した決戦者だ。
そして光の国の影で暴虐なる宇宙人と呼ばれるヤプール。
理想の世界を創るために戦争を行い、どの勢力にもつくシロッコ。
彼らこそ幹部に相応しいと言うと、前の俺もそう言っていたらしい。
彼らの正義を肯定する。決意を決め、ゼウスのように縁起を担ぐとしよう――彼らの名と同様、意味は何でもいい。
「俺の新しい名はアポロンだ」

************

計画の大幅な狂いはあったが、向こうの手を知っている俺には問題ではなかった。
ネオ・アクシズを建国して総統を名乗り世界中に宣戦布告し、テロリズムではなく戦争になった。
ただ俺はゼウスの正義を残したままだった。
こちらばかり手の内を知っていたのでは不公平で、ネオ・アクシズもゼウスの力を見くびっている。
「ゼウスのメンバーが戦力増強を図っている。お前たちで奴らの試みを妨害してくるのだ。ただし殺してはならん」
シロッコやヤプールやシャドームーンが命令を守るかは、彼ら次第だ。

そして彼らは失敗を報告し口々に謝罪した。
「俺の責任だ。自らを責める必要はない。殺すな、と命じたのは俺だからな。ああ、見くびっていた」
ゼウスの強さも彼らの強さも。
「俺の名前はギリアム・イェーガー……失踪していたのは記憶を失って別の戦いをしていたからだ。証拠を見せよう」
俺も強くならねばならない。
「コール・ゲシュペンスト!!」
ギリアムの名を知らずとも、その機体は皆が知っている。
英雄を集め強くなり続けるゼウス。
その中で失われた力もあり、ただの協力者もいる。
ゲシュペンストは設立の初期メンバーの機体であり、俺は最初の脱落者だ。
「ショッカー残党がバスジャックで廃ビルに立てこもり、人質の救援を優先してMIA、でしたか」
シロッコが笑う。
「実にゼウスらしい最期だと考えておりましたが。なるほど、見くびる訳にはいきませんな」
ヤプールが笑う。
「ショッカーの残党如きが見苦しくも人質を取り、身代金を要求した。粛清は必然」
シャドームーンは断言する。
「ゼウスにも真実を伝えねばなりません。このままでは陛下の決意が無意味になります。戦争屋かつ演出家の私にお任せを。役者はゼウスと陛下、そして私です」
シロッコの意図は見えないが、最早後戻りは出来ない。

************

待機場所以外の脚本はなく、正しいと思える行動をした。
ハマーンたちが使った抜け道の前でシロッコがジ・Oで待ち伏せし、彼らは来た。
議論をするが相容れるはずもなく、戦いが始まる。
敗北したシロッコにダンが言い放った。
「帰ってアポロン総統とやらに報告するんだな。貴様の野望は僕達ゼウスのメンバーが叩き潰すと」
「その必要はないよ、ダン」
アポロンの言葉が出て、ゼウスは気付かなかった。そうだろうな。
「俺だよ。忘れたのか?」
忘れるはずがない、君たちが。
姿を見せれば喜ぶに決まっている。わかっているさ、君たちのことは。
だから話した。記憶を取り戻したことを。アクシズを止めることなんて出来ないことを。
そして優しく正しい君たちにわかるはずがない。
あそこにいたギリアムは偽者だ、などと。
「アウフ・ヴィダーゼン!」
ゲシュペンストを操り、決別を証明した。

************

その決意は彼らにどう映っただろうか。
「ゼウスの敗北、ギリアム・イェーガーの自殺ですね」
シロッコが言い放った。
「転移座標は操作しております。裏切りの絶望の中、死を迎えるように」
ヤプールの憎悪が蠢く。
「陛下の胸中の決意、痛み入ります。我らにとっては許し難き宿敵であれど、陛下の中では友だった」
この男はシャドームーンなのか、信彦なのか。
それらの意図を図るのに意味はない。
彼らの旗印である俺は、止まることも後戻りも出来るはずがないのだから。

************

秘密警察の跋扈、徴兵、疑心暗鬼。手段を選ぶ時間などない。
そして各国が連携をとった。
最早戦争ではなく、独裁国家への粛清へ動いている。
だがまだ終わらせない。
まだ未来は暗雲に包まれているのだから。
「苦しまぬようにだけしてやってくれ」
――苦しむがいい。

************

予知なのか予想なのか、彼らは来た。
そうなると思っていたが、辛いものだな――見せてみろ、ゼウス。
「コール・XNガイスト!!」
これが今の俺の力――究極の機動兵器。
「デュワッ!!」
ダンが転じたウルトラセブンの姿は変わらないが、輝きが増していた。
「コール・ν!」
アムロは白き流星の名に相応しい新型のモビルスーツ。
道中で加わった最終決戦の4人目もそれに相応しい力だ。
「変身!!」
光太郎は太陽の子、仮面ライダーBlackRX。
「全ての決着……ここで付ける!」

************

未来が変わった。
知っていた、彼らの方が正しいことなど。
裏切り者でテロリストの統率者、そして独裁者の俺のために涙を流せるような奴らだ。
幼い少女の友達など助けることは容易く、これからいくらでも増やしていける。
知っていたのに裏切ってしまったのか、俺は。どうにもならないな。
だが生きろという願いは零れていく命には無意味でしかなく、彼らのために最後の力を振り絞るしかない。
これだけは本当に正しい戦いだ。
「……あのぬいぐるみを探していた女の子……助かったのか?」
その答えは最期の未練を消すには十分だった。
助かった。俺のことを大好きだと言っていた。
――良かった。

************

良かったのか、と口にした。
ゼウスたちには正しいとは思えなかった。
「良かったんだよ。そうでなきゃギリアムの奴も浮かばれねぇ」
だが正しいことにしなければならない。
苦しみながら正しくあろうとしたのだから。
この事実は5人だけが知っている。
「ギリアムさんは急ぎすぎたって言ってました。僕たちは自分たちの歩く速さで進んでいきましょう……自分の足で」
「未来がある、か。戦い続けるしかない。少しずつ希望を繋いでいこう」
決意を新たにした。
「一緒に正義と平和のために頑張ろうぜ! ギリアムはすっげー馬鹿野郎だから、俺たちだけでなくテロリストどもも逃がしちまってるに決まってる」
「ああ、そういう人ですね、ギリアムさんは」
「仕方ないな。我々ゼウスの任務だ」
笑いあって未来へ進む。

************

俺は馬鹿だけど、それ以上に馬鹿野郎でお人好しなギリアムは、絶対に馬鹿な信彦を助けている。
というか信彦は凄く馬鹿だしトドメを刺さなかったとか言って怒っていたので、ギリアムが何もしなくても生きて俺のことをブラックサンとか呼んで狙ってくる。
断言するがあいつは殺しても死なないし生き返る。俺より絶対しぶとい。
カッコつけ野郎のギリアムも絶対生きている。
自分を省みず女の子の友達のぬいぐるみを助けに行くとか、カッコいいよな。
それでビルが崩れて頭打って記憶取り戻してしまいましたとか、エルピス一というか宇宙一というか銀河一運が悪いだろ。
太陽の子の俺だって生き残れるかわからねぇ。
俺はお前たちの敵だ、なんて言いつつしばらく遠くへ行ってもらうとかカッコいい。
本当に敵だったら不意打ちでブチ込めばいいだろ。カッコつけやがって。
なので自分を犠牲にして仲間を助けました、とか凄くカッコいいことやったら生きているに決まっている。
絶対見つけていじくりまくって笑いまくって、カッコつけたこと後悔させてやる。
普段はハンサムな好青年だが事件が起きれば愛と正義の太陽の子に変身する俺。
ツッコミキャラはタロウのせいっぽい、何だかんだでいい奴なダン。
ハロ弄ってる方がお似合いだけど最強のガンダムを使うアムロ。
ぶっきらぼうでカッコつけでお人好しで運が悪すぎるギリアム。
その他諸々、皆合わせて南光太郎と愉快な仲間たち……もといゼウス!
最高。絶対勝てる。希望を掴む。
生きてみせる!

************

また会おう。

 

———————-

 

凄く久々に純粋に『ヒーロー戦記』を書きました。
書きたいことは書ききったと思っていましたが『アポロン』を書いていなかったです。
アポロンとゼウスの狭間で揺れるギリアムとかED後生還した、は書いていたのですが抜けてました。
劇中のアポロンはヤバい描写しかないですが、ギリアムの行動として『迷い』以外の正統性がほしく。
迷いは十分に書いたので彼らしく戦い抜こうとしましたがシャドームーンと光太郎はなかなか卑怯です。
「ヒーロー戦記の光太郎はいいけどシロッコとヤプールは絶対違うw」で黒い彼らを書きましたが、黒くしたらただの決闘者のシャドームーンが目立ちますよね!
どうしても光太郎は目立つしゴルゴムの仕業ですね。
ヒーロー戦記のギリアムを書くと「彼が見ていた希望の未来は自分が再びゼウスとして戦う未来なのではないか」と思ってしまい、OGギリアムがシステムXN作ってしまう理由もわかってしまいます。

テキストのコピーはできません。