世界に駆ける

その時、不思議なことが起こった。
卑劣にも過去の世界に干渉し、パワーアップ前の仮面ライダーBlackを消すことで現在を変えようとした秘密組織だが、RXの持つ力の一つが彼を過去に送り、更にロボライダー・バイオライダーも駆け付けたのだ!
力を合わせた4人のライダーの前に敵は最早敵ではなく、圧倒的な正義の前に姑息な悪は滅びた。
だが彼の戦いは続く。この世界に真の平和が訪れるまで……

****************

「な・ん・だ・よ・こ・れ!」
雑誌を捲っていた光太郎が怒声を上げた。血の気が多い彼だが、その中でもかなり頭に来ていることはアムロとダンには理解出来る。
「おいアムロ、これ書いたのお前の友達だろ! 何でこんなデタラメ書くんだよ!」
ジャーナリストに転身したカイ・シデンはいくつかの雑誌にコラムを持っており、先の内容もそのひとつだ。
「それ、読者のウケが取れればいいゴシップ誌ですし、逆に身内だからと遠慮なく話を盛ってるんですよあの人は。僕の戦績とジオンとの戦いでの行動、かなり捻じ曲げられたまま世間に伝わってますし……ゼウスに入ってからのは更に」
それはたとえばギレンの演説にキレてモニターを叩き割った、だとか。
離島で子供たちを守るジオン脱走兵のザク共々機体を金色に光らせて格闘戦で追撃を退けた、ツインテールの肉を食べて平然としていた、等々、枚挙に暇がない。
「……この前は僕とタロウには隠し子がいる、などというスキャンダル一歩寸前の与太話を流されたな」
彼が女性に弱いという点は真実なのだが、セブンの子は素行が悪く光の国からの追放処分を受けている、などとなかなかに酷い記事であった。
勿論、カイは大手報道会社の正規の契約ジャーナリストである。真面目な記事の方が多く、あの戦いではレジスタンスへの紹介や潜入の手引きもしてくれた。
そしてゼウスの彼らが語った戦いの全容──特に秘められていたアポロンの願いや彼が語ったこの世界の真実──を綴ったシデン・レポートはエルピス全土に衝撃を呼び、今も議論が途切れることはない。
「悪い人じゃないんですが、息抜きにこういうの書いたり色々逃げ道を確保しているあたり、ずるい人ですね」
その人柄を良く知り付き合いも長いアムロは、溜め息をつきつつも微笑を隠さない。
「いや、これデタラメとか誇張じゃなくて、漫画やアニメの世界じゃねえか。俺が四人に増える、とか」
ダンとアムロは顔を見合わせてしばし沈黙を見せた。
「やりそう、ですね。光太郎さんなら」
「やれそうではあるな。光太郎なら」
真面目な顔でうんうんと頷きあう。当然言われた本人には不本意であるが、当人すらも少しは出来るかもしれない、と考えてしまう絶妙なラインが彼らを良く知るカイだからこそ書ける、荒唐無稽な中の真実味かもしれない。
「何だその扱い!! そりゃRXへのパワーアップはだいたいそんなだったけどよ!」
だからといって、怒りが収まるかといえば話は別なのだが。

ネオ・アクシズとの決戦から数ヶ月、エルピスは概ね平和である。アポロンの予言した世界の破滅など訪れそうもない。
そして一度共通の敵を前に団結した各大陸・各国の繋がりはその必要がなくなったからと簡単に瓦解することもない──無論問題が起きていない訳ではないが、穏便に話し合われている。
今のゼウスの役割は、首魁をなくしたネオ・アクシズ残党の処理と、平和の象徴としてのものだった。
個別での任務もありなかなか会えず、という所で久方振りにこの三人に対する任務が下ったようだ。
ただ肝心の司令官たるハロ9000が別件──政府間の交渉に第三者として入っており、時間を潰している所だ。
「……実際に未来から来たのはロクでもない絶望だった訳だしよ」
しばらく睨んでいた光太郎が溜め息と共に吐き出した。
彼が消沈し、まして他者に見せることは珍しいが、どうしても考えずにはいられなかった。
アムロが辞令を受け取っている間、この部屋で親交を深めようと好きな芸能人を聞いて、他の『2人』に素気なくいない、と返された時のことを。
「予知だとか創世王だとか、どいつもこいつも下らねぇオカルトに踊らされやがって」
「そういえばシャドームーンとまた戦ったと聞いたが」
あまり良くない傾向だ、とダンが少しだけ話題を変えた。思い悩んでいるのはそのあたりの影響もあるとは察しがつく。
「ああ、そうだな。相変わらず人の話聞きやしなかったけどさ。総統の仇討ちだとか言って余計に態度固くしてるし。こっちが言いたいよなぁ、ギリアムを返せってさ。ま、生きてるってことはいいことだ」
ニヤリと不敵な笑みが溢れて二人も安堵した──ムードメーカーとはかくも大事な存在である。
そしてギリアムと同様、ヘリオス要塞でその運命を共にする心積もりであっただろうシャドームーンが生きていたなら、と微かではあるが希望を持つ。彼もMIAの後生還したのだから。
「あ、ハロ9000の用事が終わったみたいですよ。行きましょう」

****************

「ツァイト市郊外から救難信号?」
ダンが渋い顔をする。ウルトラ大陸の最南端、火山性の電磁波の影響でルートが安定せず辺鄙な第5都市。
ギリアムの奇襲により単身転移させられ、それだけでなく彼にとって苦い記憶が幾重にも増えた場所。
「ええ。しかも識別はゼウスです」
「え、待てよ! ゼウスの識別信号持ってるのって、俺たちと本郷先輩、タロウ、ハヤタ、カミーユとシーブックくらいじゃ!?」
「……あとはギリアムさん、ですね。ハロ9000、皆の無事は?」
「確認されています。ギリアムさんはゲシュペンストごとネオ・アクシズに行ったため彼らの残党であれば信号の擬装は容易でしょう。直線距離で言えばガンダム大陸に近いこともあり、空間制御に長けた彼らがヘリオス要塞への裏ルートを造った可能性が……約78%、という所ですね。そして時空間の歪みがここの所強くなっています。火山はダンさんがマグマを逃してから安定、よって直因からは外れます。あなた方にはこの救難信号の確認と、空間の歪みの原因解明を命令します」
手元の端末に詳細なデータが送られてきた。
救難信号はツァイト市郊外の森を移動しながら微弱ではあるが常に発せられているらしい。
「今更、ではありますが裏ルート経由で新たな拠点を作るにはうってつけですね。野良怪獣には事欠かないみたいですし、あの手の組織は迷いの森が好きですからね」
踏み入れた人間を研究素材や食材として回収しても神隠しとしか取られない。そして彼らは組織によって程度の違いこそあれオカルトを好み、呪われた森を恐れる人々の隙を狙う。
「怪獣どもはともかくモビルスーツや改造人間まで目撃アリ、皆ビビっててこれは放ってはおけない、と」
「……火山ではなく森の方、か」
「? どうしたんだダン。顔色が悪いぜ」
「前に話しただろう。幻の第4都市の話を」
ロボットに占拠された時空の狭間の街。そこでの体験は未だに夢ではないかと疑っている──ただ夢でないことも知っている。
「まさか……な」
少年の幽霊と友情を交わした破滅の街は、まだ存在しているのだろうか、と。
そして袂を分かってしまった友が、そこで惑っているのか、と。

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霧が深い。しん、と沈み手で掻き分ければ水滴に戻りそうだが、そうはならない。
どうにも通常の濃霧で片付くものでないのは、異様な濃さと含まれる磁気からも判断出来る。
駄目押しで解析出来ない成分が含まれていることもわかった。
敵襲がなくとも、この状況で生身での調査は御法度と判断し、警戒は怠らない。
「何か同じ所グルグル回ってないか?」
その危惧は的中し、目立って大きな樹木に付けた掻き傷と何度も遭遇することになるる。
「前に来た時とはまた変わっているようだな。だが3人が3人揃って惑わされるというものがあるのか? こういうことがないように混成部隊になっているというのに」
ただこの霧や時空間の乱れはこの森に限られており、ツァイト市そのものに影響を及ぼすものでないというのは幸いだった。
だが最早戻る道は霧の彼方だ。
「……あちらから呼ばれている気がします」
νガンダムのサイコフレームが僅かに光を放ち、ダンもそれに同意する。
「僕も何かを感じる。センサー類がアテにならない以上、藁にも縋るしかないだろう」
「俺もだ。太陽光が遮られてるのにキングストーンが反応している。偶然じゃ済まされねぇな」
歩を進める。事前情報のようにネオ・アクシズ残党と目される敵は現れず、ただ惑わされ、それでも前へ行く。
「歪みが強くなっているな……」
そして霧も深くなっていき、周囲の木々すら視界に届かず乳白色に埋もれる。
互いの姿と正体のわからない感覚だけを頼りに霧を掻き分けていく。
「呼ぶならそちらから来てほしいものだ、な……!」
前後不覚と共に意識が霧と呼び声に呑まれそうになって、軽口を叩いて正気を保ち、オールポーションを服用した。
一時しのぎにしかならないのは理解しているが、気と身体の重みは少し楽になる。
「……戦いを拒絶する意思……? それなら逆だ、生きる意思だろっ!」
アムロは呼び声の意図をある程度理解したらしい。しかし濃霧の中でサイコフレームの翠光は閉ざされてしまう。
「バイオ! ライダー! ……っても時間稼ぎにしかならねぇ。絶対霧の主がいるはず、なんだ……」
《……俺は、お前たちと戦いたくない》
突如意思は声として届き、全てが霧に呑まれた。

****************

時間がどれだけ経ったのかはわからない。
気絶か謎の濃霧に気圧されていたのかすら不明。
だが、彼らが闘志を取り戻した時、近くにそれぞれの存在を確認出来たのは、僥倖と言うべきだろう。
やがて霧が薄れてきて、突如として風景も開け街が現れた────活気があまりにもなく、少なくとも『本物』のツァイト市でないのは確かだろう。
「森を抜けた!? ここが噂の第4都市……じゃねぇな。だってあの建物は喫茶アミーゴに……」
言葉に詰まって顔を見合わせる。二の句が継げないどころか呼吸にすら迷ってしまうのは、この光景は完全にこの世のものでないと確信出来てしまうから。
「例の廃ビル……まだ崩れていない……本当に過去に跳んでしまったんですか? 僕たちは……」
雑談に過ぎなかったはずだ。あのコラムを読むまでもなく、何度となく考えたことだ。
考えても仕方のないことだとしても、そう考えてしまうこと自体が全てを否定してしまうことだとしても、悔恨を捨て切れるほど彼らは悟ってはいない。

『もしもあの時ギリアムを一人で行かせなかったなら』
『もしも不慮の事故によりギリアムが記憶を取り戻さなかったなら』
『もしも────』

「……端末までここがヌーベル市であることと、あの日の日付を示している」
混乱に呑み込まれる前に事実を淡々と告げた。しかしもうひとつの事実がある。
「だがあの日のヌーベル市は子供を人質に取られて、警官や親たちがビルの周囲にいたはずなんだ……」
どこにも人の気配はしない。やはりここは時空の狭間に作られた迷宮ラビュリントス。奥に潜む怪物ミノタウロスは────
《繰り返す! 逃走用のヘリと500万Crを用意しろ! 早くしないと人質がどうなるかわかっているな!》
「地獄大使の野郎の声はずっと同じこと繰り返しているけど、どうなってんだ?」
「意思を感じません。壊れたレコードだと思っておいた方がいいんじゃないかと」
「! シッ、静かに……」
率先して建物の影に隠れると二人も続き、廃ビルを指すと今日何度目かもわからない驚愕が襲った。
アムロ・レイ。モロボシ・ダン。南光太郎。そしてギリアム・イェーガー。
ゼウスの4人が廃ビルの傍の街灯を調べ、抜け道に侵入していくのが見えた。
「やべぇ、本物のドッペルゲンガーだぜ。キングストーンの共振なんて信彦としか起きないはずなのによ」
RXに変身したままの光太郎がベルトを抑え廃ビルを睨んだ。
「それはまた……でも僕もです。僕自身のものかはわかりませんが、確かにニュータイプ独特の感覚があった」
「僕もだ。ウルトラ族同士の共鳴だな。そして霧の中での反応とも一致する」
「じゃあアレは地獄大使の声と違って舞台装置じゃない、ってことか。それなら行くしかないよな!」
グローブのぶつかる乾いた音が妙に響き、2人を慌てさせる。
「いやいや、確かに手掛かりはあっちのゼウスしかありませんけど、下手に接触したら何が起きるかわかりませんよ!」
「RXとνガンダムだけなら誤魔化しようもあるかもしれないが、僕は外見は変わっていないんだぞ」
「そりゃ確かにドッペルゲンガーと会ったら死ぬ、って言うよな。でも揃っていない奴が1人いるだろ。予知能力なんか持ってるから、未来から来たって言ってもきっと信じてくれる奴が! それにここに来る前聞こえただろ、ギリアムの声! 何かがあるのは間違いないんだ!」
言わんとすることはわかる。そしてこの日のヌーベル市の幻──と言う他はない──が現れた以上鍵は彼以外になく、経緯を考えても迷宮の主は──少なくとも彼の姿を取っていることは疑いようもない。
「……本当に過去の世界ならタイムパラドックスが起きてしまうかもしれませんよ」
――もしも、ギリアムがここでゼウスから離脱しなかったなら。
当然アポロンという彼のテロリストとしての姿は消え、彼との戦いの後に存在する今のゼウスの存在も否定されるのではないか、という懸念。
「いや、それは恐らく杞憂だろう。僕たち以外存在しない世界のようだから、タイムスリップではないのは確実だ。だから……ギリアムを探しに行こう。ここで何かが出来るとしたらそれくらいだ。何より、脱出の手掛かりがなかったとしても、僕はあいつにまた逢いたい……!」
ウルトラセブンの銀光沢のある肌が握った拳で皺が寄る。強い情動が内側で猛っていた。
「そう、ですね。僕も同じ気持ちです。ちょうど地獄大使の声がやみました。恐らく今なら正面の入口が使えるはずです。ダンさん、透視能力は?」
「……ゲシュペンストの反応……こっちだ!」
崩壊寸前のビルに刺激を与えないよう慎重に、しかし足早に進んだ。
ショッカーの秘密基地として建造されたこのビルは、外から見たより入り組み隠し扉の類も豊富だ。
ただし数年前に放棄され、今も崩落しかかっているため見逃さなければ入り込むことは出来る。
《いいかい、お兄ちゃんはヒューイを探してくる。必ず戻ってくるから、君はいい子でここで待っているんだ。いいね?》
「! ギリアムさんの声……!?」
「聞こえた! ってことはひとまずあの女の子は無事、探すのはゲシュペンストじゃなくてギリアムに切り替え!」
何故声が聞こえるのかという理屈は、今の状況では必要ない。提示された問題への解答は一瞬にして一息。
「時間がないということだな……! あの扉を抜ければ早そうだ」
ダンの声に応え扉に飛びつくが、その向こうには無情にも瓦礫が積み重なっていた。
向こう側からは扉があることすらわからないだろう。
「任せろ! バイオ! ライダー!!」
光太郎は姿を転じ、液状化し瓦礫の隙間を抜けた。
一瞬のち瓦礫が避けられ、RXの姿が浮かび進行を促す。
進むごとに言葉は自然と少なくなり、ビルの震えだけがいやに響いた。
「! ギリアム……ッ!!」
懐かしい後ろ姿にようやく辿り着いて、思わず声を上げた。
振り向いた彼は最後に見た血を吐く哀しげな微笑みではなく、驚愕の中に僅かな安堵が入り混じっていた。
「ダン!? どうしてここに……! それにそっちのガンダムと仮面ライダーは!?」
「言わなくてもわかるだろッ!」
「良かっ……! ファンネルッ!」
駆け寄ろうとした足を踏ん張り、射出したサイコミュ兵器を急がせる────そのフィールドはギリアムの頭上に降り注がんとした瓦礫を蒸発させた。
「やはり光太郎にアムロか! 助かったぜ、けど時間がないんだ! ヒューイを……ああ、ヒューイって言うのは」
「女の子の大切なお友達、だろ? 子供の夢を守るのはヒーローの一番の仕事だ!」
「ああ、話は後だ。幸いヒューイの場所ならだいたいわかっている」
「ええ。見ての通り僕たちはパワーアップしている……未来から来たんです。きっと、この瞬間のために!」
そうでないことは全員頭の片隅では理解していた。
しかし失った友との再会を前に意味はなく、ただ想いのままに走った。

****************

「この子がヒューイ、か」
一室で座っていたくまのぬいぐるみは、ボタンの目をクリクリと光らせてギリアムの手に収まった。
「お誂え向きに壁の穴。飛び降りればビルの崩落に間に合う、と。来いよギリアム、RXの力見せてやるぜ」
「そんな真似をしなくても僕はテレポーテーションを使えるんだが」
「言っている場合ですか2人とも」
ダンのテレポーテーションに便乗する形で3人も脱出し、見計らったかのようにビルが崩落した。
「危機一髪、か。ありがとう、お前たちのおかげだ」
ぬいぐるみを抱いたギリアムはいつもより年若に、そして優しく見えた。
ふわりと笑ったその顔だけは、見たことがなかったかもしれない。
「言いっこなしですよ。ほら、笑顔の凱旋をどうぞ。この時の僕たち、泣きそうじゃないですか」
数歩駆けたギリアムがその足を止め振り返った。哀しげな微笑み──あの時見せたような。
「……夢が、終わる」
低い声と共に霧が空間に溢れ出した。
「ギリアム……やはりこれはお前が……」
「お前たちは甘いな。いつかこの空間への違和感も幻への警戒も忘れて……知っているか? 冥界の神は素知らぬ顔でその地の食事を振る舞い、此方に帰れなくするんだ」
ククッと喉を鳴らし口元を歪め笑った。
しかし敵対を表明しているというのに、彼らは何故だか警戒する気にはなれなかった。
「でもそうはしなかった、ですよね?」
ひとつはこの事実があるが故。
もっと別の脱出困難な夢を、ゼウスを知るギリアムなら造り出せたはずだ。
「甘っちょろいのはどっちだよ」
そしてこうして語るうちは何も手出しをしないと知っている。
何よりも言葉どおりの敵意を感じない。
「はははっ、それもそうだ! だがこれで何か変わると思うのか? これは所詮死者の見る幻の迷宮だ」
「……前から思っていたんですが、ギリアムさん、嘘が下手ですよね」
「光太郎並に馬鹿正直だな」
「「どういう意味だ」」
声が重なり顔を見合わせやがて笑い合う。
「それはともかく……生きているんだろう? 通常空間とは少し位相がずれているかもしれないが」
「迷子になって『助けてくれー!』って言ってたってことだろ、要は」
「この幻はさしずめ僕たちの間の繋がりを手繰り寄せるための試練、って所ですか」
強い眼差しの交差は同意の証であり、それ以上の言葉は彼らには不要だった。
《ギリアムのお兄ちゃん! ヒューイ!》
「……目覚めの声はよりにもよって彼女、か。フッ、さあ行け! だが……もう、騙されるな、よ……」
空間が強く歪み、一瞬で濃霧に包まれた。

****************

霧が、晴れた。廃墟──瓦礫の荒野、かつては街だったものを前に3人は立ち尽くしている。
「通常空間に遷移。全ての夢は五里霧中、ですか」
「今度こそ第4都市か? ダン、お前すっげー無茶して脱出したんだな……」
「……ダイナマイトがロボットたちの動力と誘爆した結果だ。僕だけのせいじゃない」
雑談をしつつも視線はセンサー類へ向かう。
森と霧を彷徨っている間は感知することが出来なかった救難信号――今は正常に映っている。
近くから発信されているのを確認し、考えるより先に動いていた。
戦闘の響動と先もあった呼ぶ感覚を追えば、自然と辿り着くことが出来る。
「!? 紫色のゲシュペンスト!?」
「ようやく会えた! 手を貸してくれ!」
聞き違えるはずもない。そして今回は紛れもなく現実であり真実だ。
「さっすがギリアム! 話が早くて助かる!」
身構えると敵もなかなかに豪華な顔ぶれだ。モビルスーツにモビルアーマー、改造人間、怪獣の混成部隊。
機体を制御しているのはAIのようだった。
「よく今まで一人で持ちこたえたな」
「……それは奴らは俺を生かして捕ら」
「そういう話じゃなくて、もう大丈夫だってことですよギリアムさん」
「敵が多いな……いや、大したことはないか! 今日は俺たち全員でゼウス見参、だからな!」
「…………知っているぞ、光太郎。その台詞が先輩の受け売りだということを。あと無理矢理すぎて彼らほど決まってない」
パワードスーツのゴーグルの向こうに隠れて見えないが、皮肉な笑顔はいくらでも脳裏に浮かぶ。
シニカルな口元だが片目しか露出していない目元は柔らかく、言葉の響きもそのままの言い回しよりずっと暖かい。そういった時の声色だ。
「切り裂け! スラッシュ・リッパー!」
気力を取り戻し先んじて敵を追尾する刃を放ち牽制する。見慣れない武装にアムロが唸った。
「ファンネルみたいなものですか?」
「いや、自律武装さ。お前のように器用じゃない」
「了解です、じゃあ器用は器用なりに……そこっ!」
ビームライフルが隙間を通し、怯んだ敵に四方から刃が襲いかかる。
2機の発したミサイルの嵐が面を作り殲滅を告知し、軌道から逸れようとすれば狙い撃ちだ。
「ロボライダー! ボルティックシューター!!」
「相変わらずアタッカーばかりか。だが悪くはないな……デュワッ!」
熱線の嵐を抜けるのは容易ではなく、壁となる悲しみの王子はそれ以上に堅牢。
遠隔攻撃の手段はいくらでもあり、手負いとなればウルトラ族の癒やしのエネルギーが皆を包む──その連携を崩す手立てはなかった。
「これにて! 一件落着!」
敵を退けポーズを決めると他の3人も追従しまた笑った。
とはいえいつ襲撃があるかわからないため、まだ生身には戻らない。
「νガンダムはともかく、ギリアムさんの新型は戻したら多分敵に回収されてそれきりでしょうし」
「よくわかったな、アムロ。これはゲシュペンストMk-II……そして今の俺は……」
「脳改造前に脱出って奴だろ?」
「流石光太郎だ、話が早くて助かる」
カラカラと笑ったが重く息をついた。
「……パプテマス・シロッコだ。メフィラス星人を殺しその設備を接収したネオ・アクシズの拠点……ヘリオス要塞とも繋がっていた。彼は瀕死の俺と共に脱出し、その設備で治療を行っていた。そこから脱出してきたのさ」
補給も行えないからこのザマだ、と右のアンテナが折れているのを指した。
装備も駆動用のバッテリーも追手からの現地調達ばかりと溜息混じりに苦笑する。
「信彦はお前が生きてたって知らなかったから無関係か。自分だけ生き残ってお前には都合のいい操り人形になってもらう、とかそういう悪党は虫唾が走るぜ」
もっともシャドームーンが同行していたなら内部分裂は避けられなかっただろうから、シロッコのリスク管理は正しいと言える────一番のリスクが指導者の個人的な感情であり、次こそは排除しよう、というのも。
「ギリアム、心配しなくていい。時空の歪みもだいぶ正された。森を抜けることも出来るだろうし、シロッコを放っておく真似もしない」
「そうだな。お前たちがいるなら百人力だ」
アムロの感覚にチリリとノイズが走った。
違和感がある。サイコフレームを通して伝わる声はまだ遠い――ギリアムは目の前にいるにもかかわらず。
「……ギリアムさん、霧の中で夢を見ませんでしたか?」
「夢? ああ、霧の見せる幻覚か。呑まれたら終わりだから結局この第4都市を拠点にするしかなかったな。お前たちは何か見たのか?」
キュイッと音を立て、パワードスーツのカメラが焦点を合わせたことがわかる。
急に無機質に感じられるようになった声──騙されるな、と夢の中のギリアムが言っていたことを急に思い出す。
「あれ? 覚えてねえの? 俺たちは同じの見たよな?」
多寡はあれど、何かがおかしい、と彼らの感覚や論理的な思考は告げている。それでも。
「……アムロ、僕もこの状況の全てを飲み込んだ訳じゃない。だが……信じたいんだ」
「ああ。罠なら仕掛けた奴を絶対に許さねえ。それでいいだろ。どうせ向こうからお出ましなんだしな」
「……頼む、アムロ。共に来てくれないか? 信じてもらえないのはわかっている。今更だとも思う。それでも俺はお前たちを……」
こうべを垂れたゲシュペンストにそっとνガンダムのマニュピレーターが触れた。
「大丈夫ですよ、ギリアムさん。少し声が聞こえて、それが引っかかっただけですから」
ギリアムの案内に従う2人が遠くならないうちに、アムロもその背を追った。

****************

ダンが訪れた時と変わったのは扉一つ。
しかしその先が地下に繋がり、赤く黒く絡み合った有機的な内装に変わる。光り、脈打っているようにも見えた。
「ヘリオス要塞と同じ、か。それにしても静かだな……」
壁にはカプセルが並んでおり、怪獣や改造人間の量産が続いているようだった。
培養液の中からギロリ、と睨んだがそれ以上何も起きない。
並ぶモビルスーツもパイロットがいないのか静寂を保っている。
そのまま交戦することもなく奥に進んでいく。
構成する部屋同士は五芒星を模した転移装置ではなくシャッター式の扉で繋がっており、造りそのものは異次元の要塞と違うと判断出来る。
だが静かすぎた。
ゲシュペンストMk-IIは奥へと迷いなく進んでいくがその言葉は少ない。
「! ギリアム……!?」
最奥の部屋で待ち受けていたのは証言通りにシロッコ、そしてその傍のカプセルで眠るギリアムだった。
一際大きな機器に繋がる、管と回路が張り巡らされた揺籠。
彫像じみた彼が薄く目を開き、意思の伴わないただ一連の動きとしてゼウスを見遣った。
「やれやれ、ゼウスというものは学習しない。そして礼儀を知らぬ。この私を無視するとは……久し振りだな、諸君。さて、どこから説明すればお前たちにわかりやすいか……知能の低い連中にレベルを合わせるというのも苦労する」
「お前の言うことは聞いちゃいねぇ! おい、ギリアム、何か言ってくれ!」
「……遠隔操縦、だったのさ。リターン!」
ゲシュペンストMk-IIがかき消え、カプセルの横のハンガーに収まった。
《お前たちは、やはり甘い。言っただろう? 騙されるな、と……!》
言葉は部屋の音響であり、忠実に再現されたはずの声は舞台装置──全てを終わらせる機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナ──のそれとしか伝わらなかった。
《戦わずして終わらせる……そのための罠だ》
キィィィィィィン、と不愉快な音波で平衡が保てなくなる。そしてこの地下要塞独特の力場により、エネルギーも吸収されているようだった。
「左様。食い付く餌は知り尽くしている」
「……ギリアムを返せ」
「彼自身の意思によるものだ。今までも、そしてこれからも! お前たちの誤解を解くと、私は権力には興味がなくてね。世界の未来を変えるという夢物語を語り、それを可能と思わせる人物がどこまで行けるか見てみたい、それだけだ」
「ギリアム、まだ世界の未来を信じていないのか!?」
《……ハロ9000がここのところ忙しいのはお前たちの方が知っているだろう。だがその理由までは知らないはずだ。テロリストに流される兵器……新たな秘密結社……統率の取れない怪獣……必要悪というものがある》
「そして残念なことに旧ジオンとアクシズの自治がうまくいっていないらしいのだ。元々あのあたりは血統主義。クーデターで成り上がった独裁者の首を飛ばしてそれで終わり、とはいかないのが政治というものだ。お前たちの働きは評価しよう、しかし世界はそう簡単には変わらんよ。それどころか、お前たちを内戦に乗じた侵略者だと評する者すらいる。何と恩知らずなのだろうな」
「露悪主義も大概にしろ、シロッコ! 他の大陸のこともそうあげつらうか!」
「私よりヤプールの方がその辺りの話が好きだったな。もっともお前たちと違って私やシャドームーンとは相容れなかったが。どの話が好みだ。仮面ライダーという同族殺しの歴史か、所詮ウルトラ族も姿を隠さねばならない異形の民であることか」
《そしてアポロンはゼウスの裏切り者であること、か》
ゲシュペンストMk-IIが銃口を三人に向けた。唾を飲み込むが不思議と絶望感はなかった。この状況は知っている。
「学習しないのはどっちだよッ! おいギリアム、撃てるもんなら撃ってみやがれ! 嘘だってのはお見通しだ!」
地の利による拘束は無意味だった。手を変えようともそこに在る者は変わっていない。それであるならば撥ね退けることは可能だ。
「本当だったとしても僕たちもやられる気はない、だが二度と見失うつもりもない!」
「ギリアムさん、あの夢は願いだったんですよね……『もしも全てをなかったことに出来たなら』『やりなおすことが出来たなら』……過去は変えられません。けれど未来は変えられる! 僕たちには未来がある! 勿論ギリアムさんにも!」
その輝きは太陽の光か希望の光か、地下の研究所が柔らかな、しかし確かで暖かな光に包まれた。
《……醒めない夢の中にいた。筋書きのわかりきった絶望の夢。あのビルで記憶を取り戻した俺はお前たちと戦い、そして殺す。そうならなかった世界、だが確かにあった可能性。見出した希望はいつしか消えていた。しかしその夢に変化が訪れた……お前たちが現れたから》
機械的な合成音声に揺らぎが現れた。ゲシュペンストは動かない。銃だけが震えている。
「……治療を行ったが目覚めず、こちらとしても困っていたのだよ。障害となっている心理的矛盾を排除すべくその願望を増幅し、闘争本能を奪い眠ったまま衰弱死させるつもりだったが……逆に繋がってしまったようだな。今一度問いましょうか、アポロン総統……その意思は曲げられなかった、ということでよろしいか」
この男は引き際を心得ている。ゼウスというイレギュラーは手が付けられない。
癌の如くその髄まで染み付いた思想は今更切除しようがなかった、ということだ。
《……シロッコ、すまないな。やはり完全に元通り、とは行かなかったようだ》
再生しようとしたのはかつてのテロリストの一斉蜂起を計画した統率者──どんな犠牲も、無論己の手を血に汚すことも厭わなかった夢想家にして革命家。
その名残と少しばかりの未練を謝罪に載せたが、ゲシュペンストはその銃口をシロッコに向けた。
「は、ハハハハハッ! やはり、やはりか! 実験者とやらもさぞ満足だろう!」
腕を機器に叩き付けると、警報と共に轟音が響いた。
「面白いものを見せてもらった、私も満足だ! そしてそのまま消えるがいい、ギリアム・イェーガー! そしてゼウス!」
基地は蠢き、崩壊が近いことを否が応でも理解させられる。
震動に足を取られている間に、シロッコは虚空に高笑いと共に消えた。
「くっ、野郎、逃げる気か!」
「放っておきましょう、脱出が優先です! ギリアムさんは……ッ!」
息を飲んだ。カプセルに異様な量の泡が溢れギリアムの身体が脈打っている。
「リボルケイン!!」
エネルギーを収束した刀身を差し込み、グッと力を入れて薙ぎ払った──カプセルの中身が溢れ、ギリアムが血の混じった培養液と共に咳き込んだ。
「ゲシュペンストにギリアムを入れて二人で運んでくれ。生身の人間にリライブ光線は逆効果だが、機体越しなら……!」
「任せてくださいダンさん! っと、そう簡単に逃してくれるはずもない、か!」
六基のフィン・ファンネルを先行させ、出口を塞ぐ先の量産型の敵を散らす。
しかし思念を増幅し拡散させるという役割があったためか、感知能力が高く思ったようには当たらない。
「ちょこまかとっ!」
ならばとハイパーバズーカを構え敵を穿つ。
「よし! 数だけあっても!」
「当たれば柔らかいようだなぁッ! アムロ、ダン、少しだけ任せた! 食らいやがれ! 電! キィィィィッッック!!」
雷撃を纏ったその蹴撃は敵を抉り突破口を開いた。
「勿論リボルケインもあるぜ! 寄らば斬る、ってな!」
「あまり熱くなるな、僕たちの目的は脱出だ。ギリアム、どうにか耐えてくれ……!」
地上に辿り着きそのまま森へと踏み入れた時、後方で爆発が起こった。
「……これも夢、なんだろうな……」
ギリアムが一言呟いて、三人が安堵の息を吐いた。
「寝ぼけてんじゃねぇよ。現実だ」
実際の所は森を抜けるまでは信じることが出来ないが、霧の欠片もなく本物のツァイト市のビル影が見えた。よって安心していいだろう。
「まったく、寿命が縮んだぞ」
「ダンさんというかウルトラ族の寿命って万年単位じゃないですか。その能力のおかげで助かりましたけど」
ギリアムの答えはない。ただ開いたままの通信に耳を立てると、安らかな寝息が聞こえてきた。
「帰ろう。本格的な治療も必要だ」
「また報告書の山ですが大丈夫ですか光太郎さん」
「何で俺に聞くんだよ。お前らも書類仕事苦手なのは知ってるぞ!」
ギリアムの寝息にクスリと笑い声が混ざった。

****************

アポロンの正体は明らかにされておらず、ギリアムの表向きの扱いがMIAのゼウスの一員であることに変わりはない。
そのため軍の病院で厳重な監視のもと治療と検査が進められた。
特に強化手術や脳改造の形跡がないか、三大陸中から設備や医師が送られてきた。
結果としては軽度の薬品と暗示程度で、そちらについては医師よりもよく知る者との会話の方が重要ということだった。
「という訳で、尋問担当が僕たちだ」
「尋問にならないんじゃないか、それは。ハロ9000も人情を理解するようになったか」
今時紙ベースの、束になった調書を手にギリアムは少し遠い目で笑った。
必要とされている情報は世界の真実でも今見える未来でもなく、テロリストの残党が潜伏していると思わしき場所と資金の流れだ。
「ギリアムさんが投げやりになって不都合な事実を撒き散らさないように、とか何とか言っていましたけど、彼は彼で気を遣っている所はありますね」
「ところで光太郎は?」
「シャドームーンとの決闘だそうだ」
「……俺がこうして生きているのを知ったら粛清に現れるかな、彼は」
最早自殺紛いの真似をする気にもなれず、ゼウスの栄光を守るために抹殺されるようなことがあるはずもなく、また裏切りをひとつ重ねた。
「いいじゃないか、生き甲斐が増えて」
「マッチポンプといえばそうですけど、責任の取り方ってもんがあるでしょう」
「ああ、残党狩りに参加することに異存はない。Mk-IIはそのための機体だ」
「シロッコはそのことを……?」
「知っていたのではないかな。だからこそ俺にお前たちを殺させようとしたんだろう。天秤がぶれている内に……」
少し咳をした。案ずるがまだ万全ではないだけだ、とギリアムは固辞した。
「元々目覚めたのが奇跡のようなものなんだ。記憶が混濁して、人格も安定せず……少しの意思疎通の他は、ずっと終わらない夢を見ていた……ってそんな暗い顔するなよ。俺は生きていた、それでいいって言ったのはお前たちじゃないか」
くるりと表情を変えておどけて見せる。そしてこの状況を変えるのは、やはり。
「たのもー! ひでぇなお前ら、俺を置いて面会たぁどういう了見だ!」
「……ああ、なるほど。さっきまでのギリアムさんだったら確実に光太郎さんに殴られてましたね」
そうして急な空元気の原因を察した。
「え、何の話?」
「いや、何でも。シャドームーンのことは?」
「決着は今日も付かず! お前が生きていたって言ったら妄言だって。流石に酷くねぇか?」
「かと言って諦めるつもりもないのだろう。お前は……いや、お前たちは、かな? ありがとう、俺を諦めないでいてくれて」
顔を見合わせた。真顔だったが徐々に笑みが溢れ、そして破顔する。
「……礼を言うギリアムってすっげーレアなもん見た気がする。いつもスカしてるか謝ってるかだし」
「言い方というものがあるだろう。しかしこれなら大丈夫そうだな」
「いい笑顔ですよ、ギリアムさん」
「いつも、か。フッ、それでいいことにしておくか、今は。戦いは続く……それでもこんな未来があるとはわからなかった。この世界は輝いている……」
何事もなかったように笑いあっている。しかし知っている。起きたことを乗り越えたからこそ現在があるのだと。
「……ギリアム、今も実験室のフラスコに見えるか?」
「おっと、尋問らしい尋問が急に来たな。流石はダンだ、真面目だな……いいんじゃないか、こんな世界も。少なくとも絶望を閉じ込めた箱パンドラ・ボックスじゃない、希望エルピスだ」
その視線は真っ直ぐで、強く柔らかく微笑んだ。
「それを聞いて安心した。いや、僕は疑ってはいないが、ハロ9000から思想面の問題を少し問いただしておけ、と釘を刺されていてね」
「まあ一番の解決方法はゼウスで首輪をつけること、って判断になるんでしょうね。僕たちの反発を食らうのは本意ではないでしょうし、シロッコが言ったようにここのところきな臭いようで。因果関係がどっちなのかはともかくとして」
「休んでばかりもいられない、か。そうだな、俺は償わなくてはならない……戦争を起こした者の責任を」
「また暗くなる! いや、償えって言ったの俺だけど! 戦うしかないから戦うだけ、しがみつけ、生き抜け! 俺たちに出来ることなんてそれしかないんだからさ。お前は考えすぎなんだよ」
「ああ、抱え込むのはもうやめてもらおう。それに楽しみなこともある。次の面会の時は少し外に出てもいいそうだ。久し振りに街を歩こうじゃないか、平和な街を……4人で」
「……それはいいな。それなら便箋とぬいぐるみを見たい」
────運命を変えたあの少女へ、少しばかりの心遣いを。
文面は既に考えてある。
あとは一目惚れしてしまうような、素敵なお友達がいるように。

****************

その時、不思議なことが起こった。
サイコフレームの共振が人の想いを繋ぎ、敵対者すらも手を取り世界の破滅へと立ち向かった。
これは奇跡だろうか?
否、全ての人の持つ可能性であり、ウルトラ族やニュータイプのような存在でなくとも────
「イマイチ、だよなぁ。それに奇跡なんてポンポン起きてたまりますか。あいつぁ凄いけどそういうんじゃないって。メカ弄りでもしてるのがお似合いってもんよ」
故にこれからは、ペンの力で平和を。
「ってカッコつけても次の記事書かなきゃおまんまの食い上げなのよね。最近忙しそうだしゼウスに張り付いてりゃまたネタがありそうだけど。戦争なんて起きないに越したこたないってのに」
わざとらしくあくびをして取材申し込みの文面と記事を考える。
真の平和はまだ遠い。
あるいは人の歴史が続く限りそれが訪れることはないのかもしれない。
しかし忘れてはならない。理想を抱くことを、未来への歩みを止めないことを──
「よしよし、この方向。あとはいい感じに希望をちょうだいよ、英雄ヒーローの皆様方」
  

 

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レトロ&マイナーゲーオンラインオンリー、ということでWeb無配用に書き下ろした小説です。終わったのでサイト収録ですよ。
pdfにするためにB5縦書き二段組にしたら24Pになりました。10Pくらいだと思ってた(ガバ把握)軽くのつもりが今までで一番長い(かもしれない)小説になりました。
アマプラで『仮面ライダー世界に駆ける』を見てから書いたので非常に筆が自重しませんでした。締め切りに合わせて書くって最高ですね。
OG世界のギリアムとエルピスのギリアムで極めて近く限りなく遠い可能性に分岐したんだよ説準拠です。
書いてしまうと何か違うような気がして、ゼウスとの再会は直接はこれまで書いていなかったのですが、でもやっぱり書いてみたいな!と。趣味全開で!
ギリアムにエンジェル・ハイロゥ的な何かを扱わせたり、ややヒロインじみていたり、そもそもあの本編ED後にこの話を書くのは何なのでしょう。
でもヤプールと違ってシロッコとシャドームーンは最終決戦の戦闘後も生きてたし、と火種追加してみたり。残党大暴れはお約束よね。
ヤプールはこういう話だと扱いやすいしやや残念ですが、多分メビウスに出てきた個体とヒルカワがカイさんとスーパージャーナリズム大戦、そんな未来もあるのではなどと。
ルビ多用楽しかったです。お前エルピスとヒーローやりたかっただけだろ感。
戦闘描写、苦手……書けるようになりたい。あとゲシュMk-IIはスラッシュ・リッパー(射程7)くらいしか目立った武装がないことが割と悩ましかったです。

テキストのコピーはできません。