平和の味を噛み締めて

『修羅』と呼ばれる人々は、異世界においてもなお戦い続けた。
それを迎え撃つ者たちもまた、争いの耐えぬ日々をすごす。
しかし彼らと修羅は、それでもどこか違っていた。
その相違点がどこにあるかはわからないが――

メイシスが偵察から戻った。
フェルナンドの消息は未だ知れない。しかし恐らく軍師ミザルの下にいるのだろう。
フォルカ、そしてアルティスへの切り札として。
ともかく、修羅軍と対抗者「アーガマ隊」の動きをアルティスに報告せねばなるまい。
「そうか……ご苦労だったな、メイシス」
「いえ、これも任務ですから」
そしてアルティス様のためですから、と心の中で付け加えた。
ミザル率いる修羅軍を離れ単独で行動するアルティスと行動できるのはメイシスにとって幸運だった。
修羅にとって闘争は糧であり、勝利は喉を潤すものだ。
しかしそのために手段を選ばぬミザルのような男は、メイシスにとって一番嫌いなものだ。
無論、闘いから逃げ出す腰抜けも、大嫌いだったが。
その点アルティスは正々堂々清廉潔白、やはり修羅はこうでなくてはならない。
メイシスにとっては彼は幼い頃からの目標であり憧れ。
彼女は『閃光』の二つ名を常に追い続けてきた。
そして、今も。
メイシスは黙ったままアルティスの横顔を見つめていた。
アルティスが振り向いた。慌てて視線を外す。
「そうだ、メイシス……これを食べるか?」
気付かなかったのか気にしなかったのか、調子を普段と変えず林檎を放って渡した。
「これは……? 見たところ植物のようですが……」
「この世界の木になる物であるらしい。なかなかいい味だ」

一口かじった。甘く、ほのかに酸味のある、豊かな果汁。
闘争ばかりの修羅界では、最低限の実りしか得ることはできない。
鮮やかな色彩と重みのある果実など、見たことはなかった。
「……美味しい、ですね。アルティス様」
「ああ。この世界にはこのような豊かな実りがあるのかと、私も少々驚いた」
「……何故、ここまで修羅界と違っているのでしょう? この世界も闘争ばかりだというのに」
メイシスが静かに尋ねた。
確かに修羅界は実りは少なく、そして実際世界として限界を迎えていた。
しかしそれならこの世界も同様になっているはずだ。
「その答えを、フォルカは求めているのかもしれない」
その一言でアルティスは黙ってしまった。
アルティスにもわからない、ということだ。
そしてアルティスもその答えを求めている。
「……その手助けをしてやらなければなりませんね」
「ああ……それにしてもメイシス」
アルティスが微笑む。
「“臆病者”は嫌いじゃなかったかな?」
「誤解しないでください。その答えを私も知りたい、それだけです」
そう、誤解をしてもらっては困るのだ。
アルティスが求める答えだから。
そのために力を尽くす。
それがメイシスの喜びであり使命。
確かにあの腰抜けに再び自ら戦う決意をさせた、この世界にある何かも気になるのだが。
「まあ、今はゆっくり休んでくれ。そうだ、もう一つ食べるかい?」
「いただきます、アルティス様」

メイシスの望みはただ一つ。
アルティスといるこの時が、永く続くことを――

 

C3からアルティス様とメイシス様の話。
この二人かなり好きなんです、特にメイシス様が(笑)
アルティス様好きっぷりがヤバいね!
小さい頃から 「アルティスさま、アルティスさま」なんて追いかけてたなんて素敵だね!

 

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