小隊長様ご無体を

直前一週間ほどから、皆が妙に浮き足立つ、この日。
2月14日、バレンタインデー。
友情と愛情とロマンと社交儀礼が渦巻く乙女たちの祭日。
それが及ぼす利益は凄まじく、それを狙った企業の思惑により、
新西暦のこの世界では世界中、いや、宇宙であろうとも彼女たちはプレゼントを抱え奔走する。
そして男は、ある者はそれをひたすら待ちわび、ある者は冷めた目でみつめるのであった。
「わざわざ業界の策略に乗ることはないだろう」
「んもぅ、そんなこと言ってないの。ほらほら!」

そして、ここでももう一人――

「レオナのプレゼントが貰えますように、レオナのプレゼントがもらえますように……」
タスクはひたすら囁き祈って詠唱し念じていた。
クスハにプレゼントを貰えたらしく喜色満面のブリットが、タスクには目もくれず軽やかにその前を通り過ぎて行った。
「羨ましいことで……」
この前女性ばかりで出かけていた中に混じってから、貰えないということはないと思うが。
「本命プレゼントでありますように……」

横のラッセルが肩を叩いた。 そして、足音。
「れ、レオナか!」
「あたしもいるけどな」
大手を振ってくるカチーナに、その三歩後ろをついてくるレオナ。
たまらなく嫌な予感。
天国と、地獄。同時か、それとも……?
カチーナが促した。どうやら天国は先に来てくれたようだ。
「ラッセル少尉にはこれを……そしてこれはタスク、あなたの分よ」
「いいのかよ、レオナ?」
「そういう風習でしょう?」
包装紙は破らないように、迅速かつ丁寧に開封するのが貰う男のたしなみ。
バンダナセット、チョコレートつき。
これ以上ないくらいタスク向きのプレゼントに小躍りしながら早速替えてみる。
横で“疲れたあなたをゆっくり癒す”というシールの張られたアロマを持って弱く笑うラッセルなど、忘却の彼方である。
「くぅ~、レオナのおかげで俺様ますます男前?」
「フフッ、あまりはしゃぎすぎない方がよくってよ」
「そういうこった」
カチーナの声に我に返る。
何をくれるのだろうか、この鬼隊長は。
「さぁて、一つ聞くぞ、ラッセル、タスク」
カチーナが不敵に笑い、彼女の特徴たるオッドアイが輝いた。
「お前ら、あたしの愛が欲しいか?」
「いらないっす」
思わず即答してしまってから、後悔した。
ツッコミ気質から反射的にそう言ってしまったのだが――
――――殺られる。
おニューのバンダナに冷や汗を吸わせながら愛想笑いを浮かべた。
しかし予想していた制裁はこず、ただため息をつかれただけ。
「そうか。キツいって言ってた訓練を緩めてやろうかと思ったが、いらないか」
「いります! もうめっちゃいります!!」
「おせぇんだよこのお調子モンが!!」
レオナが呆れ、ラッセルが場を収めようとする。
強烈なベアハッグに、うめき声。
「はははっ。これがあたしの愛情だよタスクッ! うれしいかぁ!?」
「充分! 充分です!! ギブギブギブギブ!!」
解放され咳き込み、多分どちらでも同じだよな、と思いつつこれからこうなるであろうラッセルを哀れんだ。
「さて、ラッセル。お前はどうだ?」
煌き燃える悪魔の瞳に睨まれ、今すぐ離脱してアロマで癒されたい衝動に駆られたが、何とか踏みとどまった。
「いり……ます」
カチーナは豪気かつ軽快な笑いをあげた。
「よく言った! お前ならそういうと思ったぜ!」
タスクは内心話が違う、と思っていた。
「ほらよ、ラッセル。受け取りな!」
大きめの、チョコレートケーキ。
明らかに市販品であるが、この鬼隊長のプレゼントならそちらの方が幸せというものだ。
「そ、そりゃねぇっすよ中尉!! 何で俺には……」
「お前はいらないって言っただろうが。ラッセル、他の奴に分けてもいいが、こいつにだけはやるなよ」
「ひでぇ……」
「問答無用、自業自得!!」
後悔、反省。まさか勘が外れるとは。
こうなる事を感じ取っての、嫌な予感だったのかもしれないが。
欲張ってもよくない、とも思ったが。
正直に言えばレオナの本命かもしれないプレゼントが貰えただけで満足。
「あんま浮かれんなよ? 30分後に訓練開始するからな。ああ、タスク。お前は今からだ」
ヒリュウ改に悲鳴が響く。
そう、そしてこの女鬼隊長の愛情は身に余りすぎるのだ。

「中尉はああ言ったけど……16分の1くらいは残してあげようか」
「どうぞご自由に」

 

バレンタインネタ。そしてOGネタで最初で最後かも知れないギリアム非登場作品w
まあ内容はタスレオ萌えとカチ姉萌えなのですが、正直バレンタインネタである必要はないですね。
α主人公がタスクで、OG初プレイ時にカチ姉に一目惚れという私は当然オクト小隊好きです。
贔屓しまくりのギリアムに撃墜数で勝てるのはカチ姉とキョウスケくらいです。
あ、突撃屋ばっかりだw

 

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