巡り逢えた愛しい人

ヴィレッタの様子がおかしい。
原因は明らかだ。地球を狙うバルシェムシリーズ。
与えられた使命など、それを覆す意思があればどうということはない。
ただそれが揺らいでいる気がしたので、情報交換を増やした。
話す内容に意味はない。
変わり得る未来。何らかの規則はあるが筋道と意味の見いだせない無数のデータ。
それでも、会話をすることが大事だ。
「ギリアム少佐、ありがとう」
ヴィレッタの感謝がひどく唐突に思えた。
「あなたの懸念を晴らす材料になれたらいいから、知っていることを話すわ。私はあのバルシェムたちに不快感を覚えるけれど、それは正確な表現ではない」
「正確な表現?」
「あの中の1体だけが、酷く不愉快」
「君に敵意を持ち、あの名前を呼ぶ指揮官の1人か」
「そう。それだけなら私は何とも思わない。奴らがその名を知り強い敵意を持つのは必然だから。それなのに対面どころか存在が近付くだけで感覚が揺るがされる理由がわからないのが、私の今の懸念の原因よ」

――ヴィレッタが殺される。

瞬間閃いた鮮明な光景は、俺を揺るがすには十分すぎた。
俺が見る未来は可能性の1つでしかないが、それでも可能性を見いだすだけで酷く混乱する。
そして断末魔どころかその場の空気の冷たさすら感じると、有力な未来と信じさせられてしまう。

「あまり気を張りすぎないでくれ。それが何者かは現状手掛かりがないし、あまり意味を持たない。君自身が誰よりも知っているだろう? 本当の名は君の誇りだ」
会話が大事だ。
「……ありがとう。あなたもあまり思いつめないでね。嫌な予感がするのでしょう。でも、そうはならないわ」

――――俺が操られたヴィレッタを殺す。

ヴィレッタはイングラムの願いを受け、自らの意志で救った。
俺は自らの意志で世界の敵になり彼らを殺そうとした。
そうならなかったのは彼らの方が強かった、という幸運にすぎない。
正義の勝利は美しいが、現実は大概においてそうではないから物語になる。
そして俺の力は人智を越えている。

「……アム! ギリアム!」
ヴィレッタが覗き込んでいる。こんな俺を酷く心配している。
「ヴィレッタ……何があった?」
「気付いたのね、良かった……急に倒れて、呻きながら苦しんでいた……大丈夫?」
安堵している。心を動かされる笑顔だ。
「大丈夫だ、落ち着いた……俺の枷について少し話そうかな。君がいいのならだが」
「枷……ええ、聞かせて」
「ユーゼスとの戦いで出た虚憶という概念。ユーゼスと同様俺も虚憶に縛られている。違いは俺は生き残った、それだけだ」
「それだけではないわ。あなたはユーゼスとは違う」
「輪廻のどこかの記憶を朧気に持つ。俺の予知もその1つの形だ……記憶というのは曖昧だ。事実は記録されるが、各人がどのような想いでその事実を作り結果何を思ったかは残らず、本人すらも時と共に認識を変えていく。記録は別の輪廻では何1つ意味を持たず、過去か未来かにもあまり意味はない」
今の俺が、彼らを殺した事実を隠し都合のいい記憶を造り、自ら滅ぼした世界を追い求めて数多の世界を混乱に導いた存在ではないという絶対の保障などない。
「……俺とユーゼスのもう1つの違いは、俺はひとりではないということだ」
「とても重要かつ決定的な違いね。私の虚憶を話すわ。私とあなたはどこかで共に戦い、世界の平和を勝ち取ったことがある。そんな気がする」
「ああ、俺も覚えている」
嘘だがそういうことにした。
「初めて会った時からどこかで会ったことがあるような気がした。そしてその記憶は時と共に鮮明になっていく。合理的ではないけれど、なかなか嬉しいものよね」
彼女の喜びが嬉しい。
「今の俺には先程とは全く別の未来が見えている。俺たち皆は勝利し光を掴む……本当にそうなるかはわからないが、そうなったら素敵だろう?」
「そうなるわ。あなたのそんな笑顔を見たことがないもの」
「君のおかげだ、ヴィレッタ。君は気付いていないかもしれないが、君は凄い力を持っている。少なくとも俺に対しては非常に強い。希望、かな」
ヴィレッタが押し黙った。少し赤面している。
「……そんなつもりはないだろうけれど、誤解してしまうわ。彼らの影響かしらね」
「そのように受け止めてくれて構わないが」
「からかわないで」
「俺はからかうし中でも君をからかうのは非常に楽しいが、嘘は言わないぞ」
「……知っているわ。だから、少し、抑えて」
何ひとつ飾り気のない本音だったのだが、刺激が強かったようだ。
俺は虚飾と本音のバランスがどうにも悪い。
「その……良かったわ。元気になってくれて。とりあえず立ったらどうかしら」
「寝ていたか」
「どう見ても寝たままだけど」
立って笑った。
「君は元気になったかな?」
「ええ、おかげさまで。ありがとう、ギリアム」
「これまたお互い様すぎてお約束すぎるな。もっと違うものを……」
「からかわないでと言ったでしょう」
確かに虚飾が多かった。
「勝つぞ」
これが本音だ。
「皆で、ね」
笑いあった。

 

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MD時間軸のギリアム×ヴィレッタです。
タイトルは勿論「流星Lovers」です。正直ギリヴィレすぎます。
ギリアム一人称でラブラブハッピーエンドは珍しいですね。
書きたいけどなかなか書けないのです。
ヴィレッタ視点は「巡り逢える奇跡の時」です。セットでどうぞ。

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