誕生日の心

 

「誕生日だしたまにはヒューゴが料理を作って。勿論サバイバル料理以外でね」

ヒューゴは誕生日でなくても作るが、アクアの料理が美味しいため頼ってしまう。
分担は大事だ、と心中で呟きながら包丁を慎重にトン、トンと刻んでいく。
食事は生きる喜びであり、味や栄養がいいほど――――と謎の食通が語るまでもなく、ヒューゴもそれなりの料理が作れる。
ただアクアの実家の大富豪ぶりを考えると萎縮してしまう。
トンカツ――豚肉とパン粉と卵だ。別の上品な名前で出ているだろう。
味噌汁――――アクアの味噌汁は最高だ。勝てない。
要するに『和』だ。
ヒューゴの知っている和風料理と言えば禅と夜の精進料理だが、どちらも誕生日に出すものではない。
「決め手はダシだな」

呼ばれて卓につくと笑って2つの椀を出した。
「あら、ごはんとお吸い物ね」
「酒もある、当然日本酒だ。酒飲み集団からありがたく頂いてきた」
「そうね、ありがたくいただきます」
手を合わせて御付けを口にする。
「海鮮出汁に貝。いい具合じゃない」
一生懸命な年下に感謝と少し余裕を。
「次は魚と煮物だ」
「そうそう、和と言えば魚よね。美味しそうな焼き魚に芋煮……って」
かなりというよりもそれしか知らなかった気もする。
「懐石じゃない!」
順番通りにいけばフルコースだ。
「やはり駄目だっただろうか」
「いいえ、気持ちは嬉しいのだけど、一緒に食べましょう。豪勢でなくていいの」
「それもそうだ。似合わない」
嬉しそうに卓につく。
暖かい気持ちで誕生日を祝った。
「ところでこの出汁おいしいわね。レシピを教えて」
「感覚で作った」
「えっ」
サバイバル料理を極めた結果、料理人として目覚めたヒューゴであった。

 

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某フォロワーさんのリクエスト「サバイバル料理以外の手料理をアクアに振る舞うヒューゴ」で書きました。
ヒューアクは真面目さがコメディ要員としてのありがたさです。オチを付けずにはいられません。
禅といえば精進料理で、少し捻ってフルコース懐石だな、という展開でしたがシモの意味を思い出して『夜の』を入れました。
懐石も元は茶会の会席料理→茶道は禅道なので『心が暖かくなる石』という意味で当てられた字だそうです

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