進め炎のバージンロード!結婚式はハッピー☆ラッキー!?

ダリウス人たちの外宇宙移住計画――箱船計画は現状、順調に進んでいた。
しかし不慣れな宇宙という環境が護衛艦である大空魔竜を脅かしていた。
この緊張下では、またリミテーション・シンドロームを発症するかもしれない。
そんな不安がまた緊張を呼んでいた。
そんな時の厨房。
「ん? キョーコちゃん、考え事ね? 悩みあるなら相談乗るよ」
「いえ、私のことじゃないんですぅ。ただルル、大丈夫かなって」
「流石キョーコちゃん、優しい子ね」
「艦長でアイドルって言ってもぉ、限界があると思うんですよぉ。だからもう1つ、パーッと明るい話題を皆に提供するべきじゃないかなーって」
キョーコの話した思いつきは、あっという間に艦内を駆け巡った。

そして。
「俺とヴェスターヌの結婚式ぃ!?」
「お二人のロマンスは地上とダリウスとの相互理解に大きく貢献しました! この不安な状況で、今こそ結託の力を!」
「やだやだ。俺はそんな大層なことしたつもりはないぜ。ただ美人の軍人さんを口説いてわかりあっちゃったって、それだけなのよ」
「でも早く覚悟決めた方が」
「とうの昔に覚悟は出来てるさ。ただ、そんな形でなんて、俺ぁゴメンだね。ヴェスターヌも何か言ってやれよ」
「結婚式……地上式か、ダリウス式か……しかし地上にも様々な作法があるという。ダリウス式なら私の家に伝わる方法でいいだろうが……」
「もしもーし、ヴェスターヌー? 前向きにご検討の所申し訳ないけど、こいつらそれを見世物にするって言ってんだぜ?」
「何!? 何故そのような羞恥を! 第一結婚とは人生に一度きりの神聖なものだ! 貴様らはそれを冒篤すると言うのか!!」
ヴェスターヌの剣幕に、軽い気持ちで持ち掛けた女性陣は一気に退散し、リーも少し冷や汗をかいていた。
――――やっぱ浮気は出来ないわな、こりゃ。

「あーん、結婚式やりたかったのに残念!」
「美味しい料理、綺麗に着飾った皆……!」
「形式によってはブーケもあるわよ。そうなったら私が絶対ゲットするんだから!」
キョーコの思い付きに便乗したクルー(特に女性)は既にダリウスとの協力アピールという目的を忘れ、結婚式という一大イベントに気を取られていた。
「ダメよ。ブーケだけは副長に譲ってあげなきゃ」
「あ、そっかー。副長は」
「あなたたち、何を騒がしくしているの!?」
「す、すみません! すぐ持ち場に戻ります!」
聞こえていたのかいなかったのか、いずれにしても真面目なローサの叱責。
井戸端会議を中断させるには十分すぎる剣幕である。
しかし、飽くまで中断させたにすぎない。
普段なら寝静まる頃、更に規模を拡大して再開される運びになった。

「やっぱ実際結婚式ってやってみたいし見てみたいよな!」
「そうそう。だけどリーさんたちは嫌だって言うし……」
「私、必死にメニュー考えてたあるよ」
「いい服あるんだけどなぁ……」
「ブーケに使う花束、見繕ってたのに」
「なーんだ、皆そうか。結婚式やらないと気が済まないよな!」
「そうだぜ!」
「でも誰の?」
皆が頭を抱えこむ。
艦内恋愛はよくあるが、結婚までいくかと言えば、そうではない。
この艦では皆が仲間や家族だという感覚が強すぎて、それが却って邪魔になり、それほど深い仲にはなれないでいる。
女性が少なく、アイドル的な側面を持つこともあり、抜け駆けが禁じられていることもある。
何より、ここの女性は男性陣顔負けの腕っ節と強い心の炎を持つ。
「……あ」
「どうした?」
「いるじゃん、いつ結婚するのかというか、むしろ結婚してない方が不思議な人たち」
「ああ」
「あの人たちか」
「くそぅ、シズカさんにあんなに愛されて幸せだよな、先生」
「あの人は整備班の神だが敵だっ……! しかしシズカさんのためだっ!」

「あたしとサコン先生が結婚?」
翌日。話を振られたシズカは明らかに訝しがっていた。
「聞いてましたよー、スペースベビーの話」
「ん、ま、まあね」
微かに顔を赤らめるが、ため息に変わる。
「でもね、先生はその時からまた引きこもったり逃げ出したりで大変さ」
「おーし、聞いたか、皆! シズカさんのためにも、サコン先生を何としてでも引きずり出すぞー!」
「でも先生がそんなに迷惑っていうなら、あたしは……ってあんたたちどこ行くんだい!?」
駆け出した皆を呆然と見送って、頭を掻いた。
「参ったね、こりゃ……」

「参りましたね、これは……」
ダクトの中でサコンは頭を掻いた。
シズカとクルーたちのやりとりをここからこっそり見ていたのだが、世の中知らない方が幸せなことも多々ある。
シズカの手から逃れようやく一息と思っていた所にこれで、いよいよ見つかる訳にはいかなくなり、さしもの彼もため息をつく。
――――結婚、ですか。
思いを巡らせるがグリッターの発信音に中断させられ、慌ててそれに応えて止める。
「何なんですか、プロフェッサー・ガリス。見つかる所でしたよ」
「はっはっは。見つかるような所でスイッチを切っておかないとは、らしくないな、先生」
「混乱もしますよ、そりゃあ」
長いため息でグリッターの炎も微かに揺れたようだった。
子供が欲しいと強引に迫られ、逃げ場を求める日々である。
疲労も無理のないことだ。
「知恵の神様も、シズカの前では形無しだな」
「……やめて下さい、その呼び方」
皆がそのように彼を尊敬するが、彼自身はそんなつもりは毛頭ない。
無茶をやってのける皆がいるから、無茶な作戦を立てることが出来るのだ。
天才、くらいの呼び方ならいい。
この尊称も、普段なら誉め言葉として大いに喜んだだろう。
しかし怯え逃げ惑うしかない今の状況では、皮肉にしかならない。
「女性を困らせるのは良くないぞ、先生」
「人のことが言えるんですか」
ローサ副長はずっと、彼女の白馬の王子様を想い続けているのだ。
仮面をつけた、黒い炎を持つ、少し変わった王子様だが。
「エルトリカさんのことはわかりますよ。ルル君のことも。でも満更ではないんでしょう?」
「…………今は先生の話だ!」
誤魔化した、と言うより逃げた。
しかしこうも断言されては、追求する方が無粋というものだ。
「実際、何が問題なのだ」

「何が問題かって言えば……まあ、あたしが強引に迫りすぎたんだろうね」
シズカが落とした肩を慰めるように叩く。
女性更衣室。内緒話をするにはうってつけの場所。
相手が堅さと優しさに定評がある親友なら尚更だ。
「わかっているんだ、それは。でもああでも言わないと、先生はスルッと逃げちまう。あたしはもう少しで艦から降ろされる所だった」
「そうね……今だから言うけど根回しされていたわ。ごめんなさい」
「謝らなくてもいいよ。それもあたしのためだって、わかっているんだ」
シズカとて郷里に残してきた母のことは気になる。
出航前に里帰りし無事を確認したが、出来れば安心させたいのも本音だ。
「でも、あたしにとっては大空魔竜の皆も大切な家族なんだ」
スティンガーのパイロットとして戦力の中枢を担っていた少女時代。
サコンの素顔とサポートの大切さを知ったあの日。
その後整備士に転向した時には、その技術も世話焼き屋の名もすっかり板についていた。
「ただ、先生は少し特別。軽く言ったけど、先生と一緒に親になりたいっていうのは本当の気持ちだ。不安は勿論あるけど……」

「……不安なんですよ。私がどんな父親になるのか、ってね」
この戦いの中で様々な親子を見た。
それは決して理想的な関係ばかりではなかった。
憎しみの刃を向け、その後ルルは父のガリスを理解し、プロイストはすれ違ったまま呪いの言葉をあげ続けた。
「勿論、シズカ君はそんなことはわかっていると思います。彼女ならいい母親になるでしょうね」
でも私はこのとおりなので、と肩をすくめた。
「まあ、よく考えることだな。人生の一大事だ。しかしはぐらかして済むものでもないぞ」
「……わかっています」

通信を切って、ダクト内をもぞもぞと動き出す。
行き先は彼の自室――別名Xフロア。
艦内を捜索隊が行き来しているのは勿論知っているが、却って盲点になるのではないかと読んだ。
実際真っ先に調べられており、そこには誰もいなかった。
床の上を見渡して何度目ともつかないため息をついた。
表面が見えるくらい片付いたのは、シズカのおかげ。
通信機の事件以来出入りを許し、毎日粘り強く掃除を続けた結果だ。
ああは言ったものの、確かに資料もわかりやすくなった。
それ以外にもサコンに彼女がもたらしたものは計り知れない。
――――わかっていた。
それがどれだけありがたく、そして愛しいものか。
しかし20歳からこちら、知恵の神様というよりは仙人のように研究を続けてきた彼である。
その内容もダリウスと戦うための兵器。
結婚や子供といった単語には無縁の極みだ。
シズカだってそんな言葉は持ち出さなかった。
それでも、平和が訪れ、ダイヤたちの様子を見ればシズカがああ考えるのも無理はないこと。
「……行きますか」
発信音。
そして、シズカに告げる。
展望室に、ひとりで来るように、と。

「先生、何で出てきたのさ。今大変なことになってるのはあんたも知ってるだろ」
「その大変なことの原因は君のような気もしますが……まあいいでしょう。率直に言います」

「結婚してください」

「は? な、何言って……」
「私は本気です」
シズカが頬を染めた。
「私はこの通りなので、幸せにするなんて大仰なことは言えません。だから、一緒に幸せになりましょう」
お互いグリッターを握り締め、炎が僅かに舞った。
シズカはうなだれる。彼女の髪はその眼を隠すが、頬の紅が彼女の今の感情を如実に表していた。
「……1つ聞いていいかい?」
「はい、どうぞ」
真剣な眼差しのまま、シズカの言葉を待つ。
「せっつかれたからかい? それとももう逃げ場がないからかい?」
「どちらでもありません。強いて言うならせっつかれて気付きました。君のことが……大好きだと。愛しいと。君と一緒に親になるのも、悪くはない気はしました」
グリッターの炎が更に強く揺れた。
シズカはそれを後ろ手に隠す。そして声を絞り出す。
「ずるいじゃないか、先生……あの時はマトモな返事もしなかったくせに。だいたいそういうの、先生のガラじゃないよ」
「ごめんなさい。そしてガラじゃないのはわかっています。だから一度しか言いません」
「……シロウって、呼んでもいいかい?」
「構いませんよ」
「…………ありがとう、シロウ。そしてこれからもよろしく」
星の瞬きが、2人の未来を照らしていた。

艦内総出で結婚式のセッティングがなされた。
サコンの晴れ着はシズカが選んだ。
「うん、やっぱりちゃんとしてればあんたは最高にいい男だよ」
「はは、努力します」
そして式が始まった。
「新婦、フジヤマ・シズカ! 壮健なときも病める時も、支えあい共に生き、心の炎を絶やさぬことを誓うか?」
「誓うよ」
「では新郎、サコン・シロウ! 壮健なときも病める時も、支えあい共に生き、心の炎を絶やさぬことを誓うか?」
「誓います」
ガリスの前で2人は誓いの言葉と共に強く頷いた。
「ならば、誓いの口づけだ!」
髪の向こうからの視線に気付く。
期待と、不安。
それを宥めるように彼女の手を引き、そして――――

「ここから抱き上げますよ、いいですか?」
「そんな体力あるのかい?」
「一生に一度のことです。カッコつけさせて下さい」
サコンの苦笑いにシズカは微笑み、その身を委ね、ブーケを持つ腕を高く上げた。

 

「先生、遊んでー」
「先生ってばー」
まとわりつく子供2人に、サコンはため息をついた。
「君たち、私は君たちの父親なんですよ。先生じゃなくてお父さんと呼びなさい」
「先生は先生じゃん、ねー」
「ねー」
がっくりと肩を落とすと、シズカが横で笑っていた。
「先生も大変だねぇ」
「君までそんなことを言うんですか、シズカ君」
「だってやっぱり、先生の方がしっくり来るからね」
「そうやって君が先生と呼ぶから真似しているんですよこの子たちは!」
「先生が怒ったー」
「先生怖ーい」
「いや、だからね、私はですね……あー、もう」
心労の耐えないサコンだったが、ピンクのカバが見えることもなく、彼とその家族はいつも笑顔を絶やさなかったという。

 

ガイキングLODからサコシズ。
途中までしか見てない時に「こいつらはカプじゃねぇ、夫婦だ!」と冗談で言ってたらそれどころじゃなかった5年後w
何だこれー! 三条さんグッジョブすぎるー!
そんなわけで中間を妄想してみました。普段は書かない傾向なんでかなり恥ずかしかったです。
シズカさんの方が押せ押せだけどプロポーズ自体はサコン先生に漢を見せて欲しいという願望。
最後のは半分おまけ。絶対この心労はあると思うんだ。
タイトルは中盤あたりの傾向を真似してみました。田中真弓さんの声で読んでくださいw

 

テキストのコピーはできません。