枯れない花、されど散る花

街を割る河に船が浮かぶ。
花火大会があるというので、アルティメット・クロスの面々の一部も純粋に観光に興じている。
「サヤ、行かなくていいのか?」
「リチャード少佐が見ていたドラマで花火大会がどういうものかは知っています」
「だが実物は見たことがないということだろう?」
彼らが戦場で聞くものとは全く違った、火薬の炸裂音。
命を消す爆炎とはまた違った、色彩溢れる『花』と呼ぶに相応しい流れる火。
「会場に行かなくても見られるではありませんか。実物はなお美しいですね」
「出店もあるから行った方が楽しめるだろうが、サヤは人混みは苦手かな?」
「ええ。少尉と……アーニーとはぐれたらと思うと不安です」
素直に口に出してくれることに、アーニーは喜ばずにはいられない。
「じゃあここから静かに眺めようか」
「ええ」
孫尚香が張り切って叩ききったスイカを手に遠い祭に想いを馳せる。
ひときわ大きい花火があがったようだった。
二人の顔を一瞬照らす。

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アーニーたちから見れば河の反対側で、ジンとアユルは花火を眺めていた。
「いいんでしょうか。世界が大変な時なのにこうして祭をぼうっと眺めるだけなんて」
「たまには休息も必要だ。アユル、特にお前には」
花火が彼らを照らす度、アユルの表情までが輝く気がして、ジンの口元が緩む。
「儚い、そして壮大ですね。命のように……」
「ああ。だからお前には見ておいて欲しかった」
ひとつひとつを心に刻む。
この祭と花火に、人々はどのような想いを込めたのだろうと馳せながら。
「祭の花火もいいものだが、手持ちの小さな花火もいいぞ。買ってきたから後でやるか」
「また違った美しさがあるのでしょうね。本当に、色々なことを教えてくれてありがとうございます」
表情が濁る。
張り巡らされた思惑の中で、そうなるようになっただけなのだ。
ジン自身の、アユルを想う心とは関係なく。
「……どうなさいました?」
「いや、昔行った祭の記憶が辛くてな……君と見た祭は楽しい記憶になれば良い、と」
「それは、アニエス・ベルジュ少尉との記憶ですか?」
咄嗟に出した言い訳がまた彼を追い込む。
アユルの両手がジンの手を包み込んで、柔らかさとその行動に驚愕した。
「彼らを排除しなければ私たちの未来はありません。でもその記憶まで排除する必要はないのでは?」
花火の音にかき消されそうなアユルの声。
しかしその存在はかき消されるどころか空に花が開く度輝くようだった。
「その記憶があるから、今のあなたがいて、私といます。それに、アルティメット・クロスもこの近辺にいるという話です……彼らもまた同じ花火を見ているでしょう」
あの二人なら、どんな想いを馳せただろう。
答えが出ないまま、鳴り続ける上がる音、花が開く音を聞いていた。

********

「連続で沢山上がっていますね」
「そろそろ最後なんだろうな。祭の終わりの合図だ」
日常に帰り、そして世界は続いていく。
――――続かせなければならない。
「サヤ、この花火大会は毎年の恒例行事らしい。来年は、普通に一緒に見に行けるといいな」
「その約束、違えないでくださいね」
その後、2人の言葉がなかったのは、花火の音にかき消された訳ではない。
祭の終わりを、見ていたかっただけだ。

 

スパロボワンライ用SS。お題は『花火』
見てすぐに「同じ花火を別々の所から見ているアニサヤとジンアユとかいいなー」と思いついて書きました。
資料として「落語 花火」でググったら
「花火に浮かれた道具屋『たがや』を打ち首にしようとしたお侍さんが刀慣れしてなかったせいで自分の首が花火のように上がる羽目になり『た~がや~』と囃し立てられた」
というブラックジョークの域を超えたものが出てきたので資料になりませんでしたw

 

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