War in the flask?

「『名前:ハロ。サイズ:普通。口癖:ハロ、ゲンキ』って個性のない奴だな!」
依頼主から預かった書類を振り、毒づく。
バーナード・ワイズマン――愛称バーニィ――は探偵、もっと正確に言うならばその助手である。
探偵といっても仕事は地味で、ペット探しや浮気調査が主流だ。ちなみに今回はペットロボットの捜索依頼である。
しつけ次第で如何様にもなるハロがここまで無個性なのは飼い主に放置されていたからなのか、そういう風に育てたのか。
行方不明でわざわざ探偵に探させるのだから後者だろうが。
バーニィは不機嫌だった。その理由は多々あるが、強いて一番を決めるなら。

Dashing through the snow, in a one-horse open sleigh――――

折りしも今はCC098年の12月である。
ジオン公国とエゥーゴ共和国の戦争は2年前のことだが、まだ半年くらいしか経っていない気もするし、大昔のことのようにも感じられる。
工作員として潜り込んだバーニィがザク1機でガンダムの新型と戦ったのも、クリスマスソングが鳴り響く12月のことだった。
展示用のサンタクロースをダミーバルーンとして利用したこともあって、余計にクリスマスが印象に残っている。
心理的外傷というわけではないが、妙に感傷的になる。
そして今、また世界では戦争が起きている。
テロリストの支援を宣言する独裁国家、ネオ・アクシズ。
ジオン公国を飲み込んだだけでは飽き足らず、世界中に戦火を広げようとしているらしい。
次に標的になるとしたら、旧ジオンに近いこの街だと言われている。
しかしこの街は平和だ。平和すぎるほどに。
人々はクリスマスの準備を進め、バーニィは仕事とはいえ他人のペットを捜している。
平和ボケした街へのもどかしさ。
そして軍を退役したバーニィに、ジオンを離れた彼に、他に出来ることはない。

「……とにかく。とっとと見つけないとまたクリスにどやされる!」
探偵事務所所長兼婚約者、クリスチーナ・マッケンジーの顔を思い出し、青年は慌てて走り出したのだった。

********

「――我らの街ではクリスマス・ソングは流れているか?」
窓の外を眺めていた仮面の男が、振り向きざまに参謀に訪ねた。
「残念ながら陛下……秘密警察や戦争への不安からか、街には活気がありません」
仮面の男はあからさまにため息をついた。
「それよりも陛下、連合軍は日に日に力を増しております。このままでは地力で劣る我が軍は……」
「最早時間はない、か……」
参謀は答えない。
要塞には三幹部――シロッコ、シャドームーン、ヤプール――がいるし、何よりアポロン自身とXNガイストがある。
シロッコの意見により通常の戦力だけでなく、巨大MAと強化人間も投入した。
どこでそんなものを生産していたのかと問うも、アクシズやジオンで研究されていたと答えるのみ。
――何をやっているのだろうな、俺は。
その手で殺すことが出来ずそれぞれを地の果てに飛ばしたゼウスの面々は再結集しここを目指している。
なるべく戦死者が出ないよう政治活動で侵略を進める。
――――いずれは滅ぼす街に、活気があるかどうかを尋ねる。
彼はクリスマスソングを知らない。
記憶から不要なものとして抜け落ちてしまったのだ。
他にも忘れてしまったものは沢山ある。
両親、自分の誕生日、旧アクシズ軍の頃の同僚の顔、好きだった食べ物、そんな他愛のない色々。
記憶が戻ればそれらも戻ると信じていた。もっとも、アクシズ軍にいたことなど露ほども覚えていなかったが。
代わりに手に入れたのはこの世界を変えねば、世界に暗雲が訪れるという未来視。
「――少し偵察してくる。自分の目で見ねば信じられぬこともあるからな」

一般的な洋服に着替えて転移する。
不思議なものだった。戦火はすぐ近くまで寄ってきてるというのに、街は平和そのもので。
戦争ごっこに興ずる子供たちがいる。少し離れた所でカメラを構える黒髪の少年が目について、好奇心の赴くままに話しかける。
「君はあっちには加わらないのかい?」
そう尋ねると少年はあからさまに不機嫌になった。
「戦争なんて“ごっこ”でやるもんじゃないよ。僕の友達は戦争で死にかけたんだから」
どうやら地雷を踏んでしまったらしい。
この程度も予知できないとは、と己の能力を恨む。
しかし戦場の現実はそんなものだ、予知など関係ない。
この子はその歳にしては妙に悟っているようだった。ある意味、青年よりも。
「……そうだな。それで君は、カメラの練習かい?」
「うん。戦争カメラマンというかジャーナリストというか……いつかあの事件の真実を皆に知らせるんだ!」
あの事件というのが何かはともかく、この少年には、夢がある。
青年は思考を巡らせながら少年の輝く瞳を見つめていた。

Jingle bells, jingle bells, Jingle all the way――――

「鈴よ鳴れ、どこまでも――雪まみれになりながら、か。エルピスではあまり雪は降らないがな」
「何言ってるのさ。環境整備装置でどこもホワイトクリスマスだろ?」
「……田舎から出てきたのでね」
ふと口元がゆるむ。こんな風に笑ったのはいつ以来だろうか。
ゼウスの面々の顔が浮かんで、思わず首を振る。
「クリスマスソング――神に捧げる歌にしては宗教色が薄いのもいいな……君は神様って信じるかい?」
普段は神を名乗る青年は微笑みながら尋ねた。
「こんな戦争が続いているからいない……って言いたいけど、僕は信じるよ」
遠くからこちらに向かい叫ぶ声がする。

「アーーーーーールーーーーーー!!」
「……一番の願いを、叶えてくれたから」

少年は満面の笑みを浮かべて駆け出した。
何となく青年もついていく。
「探偵の仕事だ、一緒に行くぞ……って誰だあんた?」
「彼に色々教わっていたのさ」
アルと呼ばれた少年が得意げに笑う。
「あ、そうだ……こいつに心当たりはないか?」
ハロの写真を見て思わず吹き出しそうになった。犬小屋にいた別のハロ――オリジネーターとも呼ばれる貴重なものであることを青年は知らないが――を思い出して。
そして飼い主の皮肉屋な友――いや、やめよう。
「迷子のペットなんだ」
「ああ、“見た”よ」
感傷を覆い隠し事もなげに言い放つ。
「ど、どこでだ?」
「街の外れの廃工場さ」
「!! ウルトラ大陸から流れてきた怪獣共の溜まり場じゃないか!」
ガンダム大陸はいくつもの国に分かれているがまとまっているし、ライダー大陸やウルトラ大陸は単一政府だ。
そしてMSを使ったテロや改造人間、怪獣も大人しくその区分を守っていたはずだ。
しかしアポロンの手によってテロリストたちが結託し、連合部隊を組むようになっていた。
平和な街でも、怪獣やテロリストに占拠された倉庫や工場は然程珍しくない存在となっている。
「“大丈夫”世の中割とどうにかなるように出来ているものさ」
「気楽に言ってくれるぜ……確かにどうにかなったからおれはここにいるんだけどな」
アレックスのビームサーベルが少しでもずれていたら、コックピットブロックに直撃、中身は蒸発ないしは挽肉だった。
その少しの幸運を逃さないように、活かせるように、バーニィは今までやってきた。
2年前のクリスマスに思いを馳せ、拳を強く握りしめた。
そのバーニィの裾を引く者がいる。言うまでもなくアルだ。
「ねえ、バーニィ……さっきの人、消えちゃったよ!」
「え?」
確かに思考中に青年は礼を受け取ることもなく、名乗ることもなく、忽然と姿を消していた。
「お前が見逃したんじゃないのか? とりあえず怪獣相手じゃ手が出ない。一旦クリスの所に戻るぞ」
「う……うん」
何度も振り返る先には、風が吹くのみだった。

********

「怪獣制御電波装置を搭載したMSを、転移装置で送り込む」
参謀は目を丸くした。
空間転移装置による奇襲作戦は、提案されつつも却下されていた。
一度に送り込める量と、それに比例するロストの数。そしてXNガイストを使用する場合におけるコアへの負担。
「防衛隊が出払っている今、三機ほどでも十分撹乱できる」
「しかしそれならこのような小さな街ではなく……」
「ここには奴らが来る……ゼウスがな」
即時実行するよう言い残して、コックピットに入り込む。端子の感覚にピクリと背を反らして、目を閉じた。
灰色の工場地帯で、緑色のボールのようなものを受け取る先程の青年。渡しているのは――――
先刻“視た”もの。ポケットの中にしまい込めるような、小さな写真にも似た未来視。
しかし彼には大きな意味を持つ。

********

事務所に戻ると、クリスが誰かと話し込んでいた。
二人の姿を認めて、にっこりと笑う。
「アル、いらっしゃい。バーニィ、あなたにお客さんよ。もう、どこを歩いていたの?」
奇妙な団体だった。
エゥーゴ軍の軍服、光の国のどこかの防衛隊の制服、白い皮のジャケット。
「こちらZEUSの皆さんよ。アムロ大尉、彼が先程お話したバーナード・ワイズマンです」
「……どうも」
小さく頭を下げる。アルが眼を輝かせている。
バーニィも噂には聞いていた。ガンダムにウルトラマン、仮面ライダーという各地の精鋭を集めた、国境を超えた対テロ組織だという。
しかしえらぶった様子はなく、相手も一礼した。
「ワイズマン……君は元ジオン軍の兵だと聞いたが?」
「はぁ……確かにおれは元伍長ですが」
「アムロ、そんな口調じゃ警戒されるぜ。えーっと、バーニィ、だったか?」
「フランクすぎるのも問題だぞ、光太郎……すまない、脱線した。率直に言おう。君たちジオンが使っていた抜け道を教えてもらいたい」
「抜け道?」
バーニィが疑問符を浮かべるが、アルは更に眼を輝かせる。
「わかった! それを逆に利用して、ネオ・アクシズのテロリストを倒しに行くんだ!」
「アル、ネオ・アクシズは確かにテロリストを支援しているけど、立派な国家なんだ。悪者ばかりじゃない……わかるよな? 戦争なんだ」
「あ、うん……」
アルがしおれ、バーニィが言葉を続ける。
「それに、おれは協力出来ませんよ。おれは確かに工作員だったけど、隊長が用意してくれた偽造パスで正規のルートから潜入したんだ……抜け道なんて知らないんだ!」
唇を噛み締めた。ようやく自分に出来ることが見つかったかもしれなかったのに。
ZEUSのメンバーが気を悪くした様子がないのが却って気にさわった。
「そっか、悪かったな。平和に生活していた所によ……何だ!?」
サイレンが鳴り響く。にわかに外が騒がしくなった。
「これは……ランク・A!?」
【怪獣が侵入しました。市民の皆様は落ち着いてシェルターに避難して下さい。繰り返します。街に怪獣が――】
「アムロ、光太郎、出撃だ! すみません、皆さんは避難を!!」
三人に導かれるままに事務所を飛び出す。北東で炎が上がり空を紅く染めた。

「コール・ν!」
「デュワッ!」
「変……身!」
光に包まれ、転ずる。

「……この程度で滅ぶなら、意味などない……この世界にも、お前たちにも、そして……」
夢を語る少年を思い出す。
――少年のカメラは、その茶色の瞳は、これから何を映すのだろうか。
そして自分には、使命がある。そんな夢を、握り潰してしまうような。
未来を変える、使命と力――

「くっそ、うじゃうじゃと! これじゃキリがないぜ!」
「ン……レーダーに別の反応がある。3つ……これは、MSです!」
『こちらでも確認した。強力な電波を発しているようだな』
「決まりだ! そいつらをぶっ潰せば怪獣もおとなしくなる、そうだろ!?」
無言で頷き、分散した。

「こちらです! 押さないで!」
「落ち着いてください!」
アルを両親に届けた二人は、どちらともなく避難誘導を名乗りでた。
そして、目を離せずにいた。
二人だけではなく、その場にいた人々全てがそうだった。
圧倒的な力。しかしどこか優しい――

「あれが……ゼウス!!」

「やはりお前たちが、最大の障害か……」

「ハロ、ゲンキ。ハロ、ゲンキ」
「……んで、こいつには何事も無く一件落着、と」
ため息をついてハロを眺める。指令MSを破壊後、アムロがこれを見付け出したのだ。
その後ゼウスの三人は礼を受け取る間もなくコスモバビロニアへと旅立っていった。
「無力ね、私たちは……」
「そんなことない!」
クリスの呟きにアルが叫んだ。
「二人とも、ちゃんと皆を避難させていたじゃないか! 自分にやれること、ちゃんとやってただろう!? それで皆無事だった、それでいいじゃないか!」
アルは涙目になっていた。バーニィが背中を叩く。
「ほら、泣くなよ……しかし、あいつが言ったとおりになったな……何だったんだろう?」

********

CC099年、1月。
ネオ・アクシズと三国同盟の戦争はネオ・アクシズの崩壊という形で終わりを告げ、人々はようやく訪れた平和を噛み締めていた。
「『この世界は実験室のフラスコである』か……アポロンって奴、結局何だったんだろう」
「さあ? でもそういう不安ってたまにあるわよね」
探偵業も一息つき、バーニィとクリスは事務所で二人コーヒーを楽しんでいた。
そこに転がり込んできた三つの影。
「たのもう!」
「ぜ、ゼウスの皆さん!? どうしたんですか!?」
「人を探していまして……貴方がたにも協力してもらおうと思いまして」
「この人物です」
写真を取り出して、バーニィが声を上げそうになる。
クリスは気付かずに応対を続けていた。
「あら? この人なら……」
「し、知っているんですか!?」
「知っているも何も、アルと……」
「ようし、行くぜ! あのがきんちょを探すんだ!」
「あ! 待ってくださいよ光太郎さん!」
「すみません、失礼しました……謝礼はまた後で」
入ってきた時と同様、どたどたと騒がしく出て行った。
「……一昨日会っていました、って言おうと思ったのに……どうしたの、バーニィ?」
「いや……世界を救った連中にはとても見えなくてさ。そうか、ゼウスの仲間だったのか……」
二日前、唐突にアルの写真を見に来た青年の謎めいた行動に、説明がついたわけではないけれども。
突っかかった物が取れた気がしてふう、と息をつく。
「まあ、何かに操られているようにしか思えないこともあるけどな……」
「それでも、私たちの未来は私たちが決める……」
「結果がどうであろうと、だろ? シデン・レポートに書いてあったぜ」
「ひどいわ、持論なのよ、これでも」

笑い声が上がる事務所がそれから程なくまた騒がしくなることになるが、それはまた、別の話。

 

「俺、スパロボオンリー開催されたらヒロ戦本出して浮きまくってやるんだ……」と死亡フラグを立てたら、
見事に開催され、その時にコピ本で出した小説。
0080は立派な参戦作品ですよ? ハイゴッグいるからw

 

テキストのコピーはできません。