きっとそれも愛と呼べる

超機合神バーンブレイド3。
3機のメカが変形・合体し、3種類のロボットになる、リュウセイお気に入りのロボットアニメ。
ハジメ博士や、あとリョウトとも熱く語っている。
世間事に疎い私やマイに真っ先に薦めたのも、それ。
現実の軍事と照らし合わせてどうかはともかく、夢に溢れた話ではあった。
バーンブレイドのパイロットたちの絆。
敵味方を超えた共闘。
彼らを支える作中では名を与えられなかった兵士たち。
私たちの部隊にも似ている、と思った。

今日はそれではいけない、と奮起したアヤが――ラーダにもよく言われたし気持ちはわからないでもない――映画に誘ってくれた。
吸血鬼をモチーフにした恋愛映画。
何でも、彼女の今のお気に入りが主演だそうで。
話題作りのためにアイドルを主役に起用する、よくある宣伝戦略だ。
マイも連れて女3人で気楽なものだった。
「そういえば、ギリアム少佐も吸血鬼なのか?」
開演を待つ間、マイがポップコーンをつまみながら無造作に尋ねた。
ああ、確かに彼の専用機にはヴァンピーア・レーザーという武装がある。
それにいかにも古城や蝙蝠が似合いそうだ。
「た、確かに人間離れした雰囲気を持ってるけど、それは流石に……それにしても、よく結びついたわね」
「リュウが言ってた。名前を思いつかなかったら、とりあえず漢字かドイツ語を並べればカッコよく見えるんだって。だから今勉強している」
「あ、あの子はー……」
すっかり呆れ顔。
確かに毒されすぎは困るが、アヤは心配しすぎではないかと思う。
亡霊と吸血鬼、か。

――――吸血鬼の根城が近くにある田舎町。
普段はお互い不干渉だが、吸血鬼は150年に一度、人身御供を求めてくる。
時代が進み、その伝説もすっかり風化していた。
しかし150年ぶりの吸血鬼は十字架も水も恐れることなく、白昼堂々と要求をつきつけに現れた。
彼には花嫁を。花嫁には豪華な生活を。町には魔物の脅威のない平穏な日々を。
彼が見初めたのは――幸いにして――身寄りのない女性であり、誓約が交わされた。
真っ先に吸血を受けるかと思ったが、人間と何ら変わらない、子供じみた同棲生活。
問いただした時、彼は一言だけ答えた。
「……私は人間の儚さを愛しているのでな」
そしてどこからか嗅ぎつけたハンターによって、彼は討たれた。実に呆気なく。
一瞬で灰燼に帰した時、もしかしたら彼は吸血鬼ではないのではという僅かな疑いは晴れた。
多くの謎を秘めたまま、この地の吸血鬼伝説は幕を閉じた。
花嫁がどうなったのかも、わからない――――

「侵略者憎し、のこのご時勢に異種間恋愛とはなかなか挑戦的ね」
連邦政府の広報は常に異星人の脅威とそれに対する戦意高揚を訴えている。
私たちにしてみれば失笑ものの内容。
最前線で侵略者たちと戦う者がそういうのも可笑しな話だが、最前線だからこそ、相手の心にも触れることができる。
何より、私自身が異邦人だというのもある。
もっとも、世論がそちらに傾くのも無理はない話ではある。
政府の思惑を別にして、などと考えながら皮肉を言ってみせた。
「ほ、他に感想はないんですか!?」
「いえ、なかなか興味深かったわよ。形はどうあれ、彼は人間を愛していた。ただ、主演の役者、まだまだ、といった感じね」
「隊長ー、私が慌てたり呆れたりするの、楽しんでいるでしょう?」
「ええ。でも、熱意は感じたし伸びしろはあると思うわ」
悪びれもせずに笑ってみせた。
映画の中の役者に対してまで教官としての視点を持ち込む必要はないと、自分でも思うのだが。
あと、彼とつい重ねてしまったということもあるが、それは流石に言えない。
「でも、悲しい話だな……私はバーンブレイドのようにわかりあえる話がいい」
「マイにはちょっと早かったかしら? でも、確かにハッピーエンドがいいわね。物語の中なら悲恋もいいけどね」
その後は美術館に行って、楽しく過ごした。

夜になって、彼に通信を入れた。
忙しく飛び回っていて居場所が掴みにくいのと、色々危ないデータを扱うのと、からかうのが大好きな部下がいるという理由で、直通になっている。
「おはよう、ヴィレッタ……っと、日本時間では夜か」
「ええ。少佐は今どこに?」
「テスラ研さ。過干渉な軍のお偉方を追い払うために。リシュウ師範とマリオン博士がいれば大丈夫だと思うのだがな」
“向こう側”にはいい思い出がないという彼だが、テスラ研には恩義を感じているという。
決して世渡りが上手な類ではないはずの彼の人脈が妙に広いのは、偏にその義理堅さゆえだろう。
「それで、用件は何だ? 今回の事件は俺にも不可解なことが多すぎて、期待に添えられるかはわからんぞ」
「情報提供の依頼といえばそうなるけど、少し違うわね。あなたのおすすめの映像作品、あるなら教えてもらいたいな、って」
「構わないが……何でまた」
いつも鋭い彼だが、通信機越しなせいか軍務に関係ないせいか、今日は妙に鈍い。
「リュウセイはバーンブレイドを、アヤは今やっている吸血鬼映画を見せてくれたから」
「吸血鬼ものか。それで俺を思い出したのか? 話は聞いているが見に行く余裕と趣味がなくてな。女性を誘うには最適そうだが、一度見たのでは仕方ないな」
フフ、と笑って秘蔵のディスクを送ると言ってくれた。
元気そうでよかった。
シャドウミラーの時のように思い詰めるのではないかと、異世界からの来訪者絡みの今回の事件についても心配でならなかった。
精神ではなく身体を追い詰めることで誤魔化している部分があるが、もう大丈夫――と思いたい。
時流エンジンの廃棄を決めたラウルたち。再び転移を決めた修羅たち。この世界で生まれた疑問の答えを求めるアクセルやラミアたち。
それぞれに出した結論。そしてそれに対し幸運を祈りつつ別れを告げられたのだから。
「それじゃあ、またな」

吸血鬼の花嫁がどうなったのか、作中では描かれなかった。
アヤはその土地を離れて強く生きていくのだと言った。マイは何とも言えないようだった。
私はだいたいアヤに同意だが、その場で殺されたか一生日の目を見ないのが関の山だとも思うので、口にはしなかった。
ギリアム少佐がもしあの映画を見たなら、どう思うか聞いてみよう。
私と同じく人間ではないが、私とは対照的に永く生き続けてきた彼なら、どう見るのか。
ノックがあったので、動画を一時停止にして応対した。
ライがレポートを持ってきてくれたらしい。
「隊長、ところでその映像は?」
「ギリアム少佐から借りたドラマよ」
あるカルト集団に改造されたが洗脳を逃れた青年が、復讐のため組織と戦う物語。
敵にはかつての親友などもいる。
バーンブレイドといいこういうのは現実で十分ではないかとも思うが、フィクションらしい脚色も好きだ。
「しかしそれは……本当にギリアム少佐が?」
「記念ボックスだとか言っていたわ」
「……少佐を疑いたくはありませんが、騙されていませんか?」
「確かに恋愛要素は薄く、女性に薦めるような作品ではない。だからこそ、本気で好きなのだと判断すべき……間違っているかしら?」
一緒に見に行くなら、私も恋愛映画がいいけれど。
「…………正しいのでしょうね。しかしリュウセイが喜びそうだ。俺も奴に見せられましたから」
ああ、確かにこの派手な戦闘はリュウセイも好きそうだ。
ギリアム少佐が好きな理由はまた別だろうけど、彼から添えられたメッセージは『俺の愛すべき親友へ』というだけだった。
それも“また”会えたら聞いてみよう。
「あなたのお勧めも見てみたいものね」
「俺はあまりフィクションへの造詣は深くありませんが……」
「それはそれで参考になるわ」
「わかりました。考えておきます」
私も見つけられたらいい。自分たちの戦い以外に語れる物語を。
そして孤独にはなりたくないし、誰も孤独にしたくない。特に私を孤独から救ってくれた彼は。
――――バルシェムの寿命のデータがないことが、凄く歯痒い。
とりあえず、今やるべきこととして、今までの感想を送っておいた。

 

ヴィレ姉別人警報発令中のギリヴィレ。色々やってみたかったネタを詰めてみました。
アヤは人間関係はα以降が好きですが、キャラ付け的には新の前向きお姉さんが好きです。
吸血鬼の話は創作……というかまあアレなんですが。
オチのは勿論信じることが正義な黒いボディに真っ赤な目の――じゃありませんよ。限りなくっぽいですがw
「またな」はCDドラマから。「アウフ・ヴィーダーゼン」と対になるし、カットされたのが悔しかったので。
あれは絶対ヴィレ姉用ですって!

 

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