すれ違う願い

「フェルナンドを救ってやってくれ……」
「で、でもどうすれば!?」
昔と同じように真剣な眼差しでフォルカが聞いてくる。
しかし昔とは違う。何もかもが。
「……お前の心のおもむくままに」
そう、フォルカは強くなった。
最早自分が導いてやる必要はない。
静かに目を閉じた。
最善を尽くしたとは言えない。心残りもある。
だが、きっとこれで良かったのだ。
これでいい……これで。
笑みがこぼれた。
記憶だけが瞼の裏を通り過ぎていく。
「フォルカ、私の弟よ……またあの頃のように、暮らし、たかった…………」
結局……この望みは叶えられなかったけれども。

「……誓ったんです。望みを叶えるために」
――誰、の声だろうか?
混沌の向こうから聞こえてくる声。
確かその誰かは、一生懸命になって何かをやっていて、それで無理をするな、と言ったのだ。
すると相手は……彼女は、そう答えたのだ。
これが終わったら、すると誓ったことがある、と。
それで望みとは何かと問うと、今は言えない……と困ったように笑ってみせた。
そう……それで、自分はその笑顔が好きだったのだ。
手の掛かる弟たちのことばかり気にかけていたせいで、その想いは内に眠ったままだったが。

「メイシス……」

彼女の名前を掠れた声で呼んだ。
望み。
――彼女の望みは何だったのだろうか?
彼女はいつも傍にいた。彼女はいつも尽くしてくれた。そして、彼女を想っていた。
それなのに、その望みが何かさえ知らず。
それを叶えてやることもできず。
何も、してやれなかった。

「…………すま、ない……」
アルティスの意識は、闇に消えた。

胸騒ぎがしていた。
気のせいだと思っても、それを振り払うことはできずに。
時が経つにつれてますます強さを増してくる。
氷槍の将軍と呼ばれた彼女の心は、そう簡単に揺るがない。
それでも。
戻らなければいけない、という思いに駆られて。
そんな己に違和感を覚えながら、進もうとする。
しかし、ペイリネスはこれ以上の前進を拒んだ。
修羅神は修羅の命、心を反映する。
それが前進を拒否するということは。
「……仕方がない。行くぞ、ペイリネス!」
反転した途端氷の天使はそれまでが嘘のように美しく速く飛び始めた。
何事もなければいい。
いや、何事かがあるはずがないのだ。あってはならないのだ。
「誰がいると思っている? 閃光の将軍……アルティス様がおられるのだぞ?」
自嘲して呟く。
しかし不安は消えていない。
その証拠にペイリネスの速度は更に増してきている。 前方に機影を確認した。
哨戒中の修羅。
そして、特に身を隠すことなく高速で飛ぶペイリネスはすぐに捕捉された。
「あれは……」
しかし彼らは次の言葉を続けることなく、痛みも感慨もなく、修羅神ごと氷漬けになった。
「私の邪魔をする者は許さぬ! 何人であろうともな!!」

そして、ようやくアルティスがいるはずの所に辿りついた。
しかしマルディクトの姿はない。
あるのは、戦闘の跡だけ。
「アルティス様は!?」
マルディクトの通信機に呼びかける。
応答なし。
というよりも、通信機自体が働いていないようだ。
焦りを覚えながら、周囲を見渡した。
戦闘で落とされた見知らぬ機械巨人たちの躯。
そして、メイシスは絶句した。
この世界で言うならばケンタウルス。
人馬型の、修羅神。
「マル……ディクト…………」
考えるより早く、否、メイシスは何も考えられなかったが、ペイリネスはその傍に降り立った。
無我夢中で残骸をかきわける。
程なく、それは見つかった。
ふらつく足取りで近づき、血溜まりの中に横たわるアルティスを抱き起こした。
「アルティス……様?」
はじめてその腕に抱くことが出来たのに、温もりは伝わってこない。
「ねぇ、目を開けてよ、アルティス……」
時に彼女を見つめた優しい目は、硬く閉じられていた。
「閃光の将軍と呼ばれたあなたが、修羅王の右腕と呼ばれたあなたが、こんな所で死ぬわけないわ……ねぇ、そうでしょう? アルティス……」
彼女に呼ばれればいつも答えたその微笑も、冷たい仮面に閉ざされて。
「私の名前を呼んでよ……ねぇ……せっかく、フェルナンドを元に戻す方法も……」
だから、誓いも果たせるはずだったのだ。
「アルティス……私はまだ、あなたに言いたいことが…………」
涙が、溢れた。
アルティスの名を、叫んだ。

「ごめんなさい、アルティス……」
ペイリネスの横で、ビレフォールが墜ちた。
閃光の無念を宿した氷槍は、確かにミザルを貫いた。
しかしその後現れた修羅王の力はそれよりも遥かに強大で。
フェルナンドとメイシスはフォルカたちを逃がすためにあえてそれに立ち向かった。
メイシスとしてはフェルナンドも助けたかったのだが。
アルティスの望みは、兄弟仲良く昔のように暮らすことだったから。
そしてそれを助けることこそ彼女の願いだった。
――アルティス、私も、あなたの元に…………そして謝って、あの時言えなかったことを……

制御を失いつつあるペイリネスが、最後の一撃を放った。

 

C3からアルティス×メイシス。
このカップリングの萌えポイントはちょうどこの間に集約されている、というわけで妄想3割増しでアレンジ。
途中の台詞は殆どゲーム中から。何て素晴らしい悲恋具合。
アルティス様ブラコンのくせに最後に呼んだのメイシス様のことだし。
メイシス様の台詞は「アルティス」がポイントですよ。様じゃないんですよ。
というかいきなり乙女モード全開のメイシス様がry

 

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