ある日ふたりの情報収集(アポイントメント)

「ギリアム、服がちょっと」
「む? 何か変か?」

今回のギリアムの任務は人混みに紛れての情報収集。
2人の男女が他愛のない会話をしていればどう動こうとあまり違和感は持たれない、とヴィレッタに協力を要請。
「サイカでは駄目なの?」
「断られた。未熟でぎこちないし、うっかり少佐と呼ぶかもなどと」
「彼女は結構やり手だし大丈夫だと思うのだけど」
「口実だろう。その上で君を推挙してきた」
「いつもの奴ね」

勿論スーツは使えない、ということで情報部の備品も含めて変装しいざ出発、という所で駄目出しが入った。
「変ではないわ。むしろ変な所がないのがいけない。着こなしすぎでモデルみたい。適度に抜くの」
「……難しいな」
「任務でしょう、ちゃんとやりなさい。髪型も今回は駄目よ。そのあたりの指導はされなかったの?」
「社交パーティーで口説く指導ならいくらでも」
「あの人はそうね。それにしても向き不向きで見れば明らかに向いていないのに、何故あなたにこの任務が回って来たのかしら」
「恐らくだが、任務を口実に俺と君をデートさせ、ついでに必要な情報を集めさせる。趣味と実用の両立だ」
「上司に愛されているようで何よりね」
「褒め言葉に聞こえないのだが」
「皮肉よ。あなた普段情報部で何やってるの?」
「……俺にしか出来ない仕事を」
「さぞ実績を上げているでしょうね」
「皮肉か」
「今度は心からよ。確かにあなたにしか出来そうにないわ。私の耳に入っただけで凄いことになっているのに、噂にもならず隠蔽されているのがいくつあることか」
「あいつらは君になら話していいと思っているからな。君にしか聞こえない噂さ」
「ありがたい信頼だこと」

街を歩く。
聞き耳を立て、証拠を残し、買い物をし、他愛のない会話をする。
情報収集としてもデートとしてもなかなか有意義な時間、だったのだが。
ヴィレッタがふと顔を歪めると、ギリアムがすれ違った男に掴みかかる。
「彼女に何をした」
「へ、何だよ兄ちゃん」
「とぼけるな……見ていた」
「ちょ、ちょっと、私は別にいいから」
「俺は良くない」
すれ違い様に胸を触られた程度なのだが――嫌な予感がする。
「別にいいだろ、少し触るくらいさ。どうせあんたも」
「黙れ」
鉄拳制裁、ただし一般市民向け。
ただ起き上がった相手が凶器――切れないナイフ程度の脅しにしか使えないものだろうが――を取り出そうとするのをヴィレッタが蹴り上げる。
「私からもお返しよ」
笑みを見せた所でギリアムが少し強引にヴィレッタをひきたてる。
それはそうだ。目立ってしまった。

「……絶対向いていないわ、この任務」
「君もだろう」
「あそこで私がやらなかったらあなたはもっと目立っていたと思うのだけど」
「それもそうだ、感謝する。成果は十分だ、帰還しよう」

街で買ったブランドのチョコレートを手に個室で雑談。
「上乗せの報酬として今度SRXチームの演習相手をさせてもらう」
「趣味と実用の両立ね」
「腕が鈍ってはいけないのでな。お互い様だろう?」
「ふふ、そうね。彼らの成長を見てあげて頂戴」
微笑み合う。
「ヴィレッタ、その……キス、してもいいか?」
「今更じゃない?」
「同意は必要だろう」
「緊張しすぎよ」
また笑って唇を重ねた。
「そんなに悔しかった?」
「それは勿論」
「私も。ちなみに、あれまでも結構目立つというか視線を集めていたわよ」
「…………次からは絶対に断る。命令だろうが断る。俺にしか出来ない仕事をした方が有意義だ」
「私は結構嬉しかったけどね」
「どういうことだ?」
「当ててみればいいわ。多分あなたはわからないでしょうけど」
ギリアムが戸惑っている。

――羨望の眼差しを受ける快感はなかなかのものだ。

 

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極力ギリアムとヴィレッタのみで仕事の話あまりせずボケとツッコミとイチャイチャの無限ループする話、として書いたのですが。
仕事の話しかしていませんね! 情報部めっちゃ介入してますね!
まあでもこの2人らしいラブコメってこんなんだと思います。
任務抜きで純粋に街に出るとしても戦闘がないときの息抜きですし、夜景の見える素敵なバーでの大人の食事も仕事のお礼ですよ!
オフィスラブ&遠距離恋愛つらい!
タイトルは曲名法則パロディですが、アポイントメント本編で使っていなかったかちょっと気になります。

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